(以下ネタバレご注意!)
舞台上には、椅子に腰かけた一人の男(宮崎秋人さん)があらわれる。
この男がこの芝居の主人公である。
設定は朝のニューヨークで、忙しい時間に”地球の裏側”にいる母から電話がかかってくる。
「パウリが死んだの。すぐ帰ってくるように」
パウリというのは主人公の弟である。
弟の訃報に接した彼はこう呟く。
「俺たちはみな生まれる。俺たちはみな死ぬ。なんでもないことだ。わざわざ何か言うほどのことではない。」
どうやら主人公は人生を諦観した人物のようであり、また、弟との関係性も深くはないようだ。
早速主人公は空港に向かう。
彼はヘッドフォンを装着するが、音楽を聴くのではなく「自分の息」に耳を澄ませる。
ここは重要なところで、彼が自我の奥深く沈潜するタイプの人間であることを示している。
どうやら彼は、他者との関係に問題を抱えているようだ。
飛行機に乗ると、コニーアイランド上空に来るまでに3杯のカクテルを飲んだというから、彼はアル中のようである。
飛行機が到着したのはアムステルダムで、ここが彼の故郷である。
彼は故郷を離れ、ニューヨークの金融機関でエリートビジネスマンとして働いているのである。
アムステルダムに着くと、彼は突然、
「アイザックに手紙を書かなきゃ!」
と思い付くが、この時点では行動には移らない。
その後彼は、なぜか実家に帰らず、ロイドホテルにチェックインする。
母親は実家に来るよう勧めたのが、主人公は、
「どうせ家に帰っても、お前の部屋に泊まるしかないだろ?」
という理由で拒否する。
この時点で、主人公の独白は弟:パウリに対する語り掛けに変わっている。
スタート地点はよく覚えていないのだが、主人公は、亡きパウリに手紙を書いており、それを朗読する形式で芝居が進行しているのである。
ホテルに入った彼は、再びアイザックのことを思い出し、アイザックにメールを送るが、すぐには返信は来ない。
次に彼は、シャワーを浴びてカクテルを飲むと、
「シャワーとカクテルのおかげで、爽やかな気分になった」
と呟く(やはり『アル中認定』は正しかった)。
このあたりまでを見る限り、彼は、「感覚を重視し、自我の最深部に潜むことを好む、静かなエピキュリアン」のように見える。
ところが、彼は単なるエピキュリアンではなかった。
その後、彼はホテルを出て、街中にある、彼がかつてよく通っていたゲイバーへと向かう。