ハイジィさまよい記

徘徊老人が後期高齢者になりハイジィ(徘徊爺(じじい)を省略して徘爺)にパワーアップ(?)

山狩

2022年06月13日 06時55分40秒 | 感想

タイトルを「山狩」としたが、実際の山狩りについての話ではなく、笹本稜平氏の遺作(と思われる)小説「山狩」についての話である。鎖骨骨折後の療養期間なのでこの頃小説をよく読んでいる。ハイジィは山に登るので、山岳小説を読むのが好きだ。山岳小説を書く作家は多くはなく、その中で笹本稜平は卓越していた。同氏は警察小説も多く書いており、テレビでも人気の駐在刑事のように山と警察を同時に主題にしている小説も多い。しかし、2021年11月に急性心筋梗塞でなくなり、死後の2022年1月に出版された「山狩」は最後の作品かも知れない。ただ、雑誌で発表された小説の単行本化であり、最後か最後でないかはともなく、警察小説を長年書いてきた同氏が到達した境地が「山狩」というのは興味深い。もちろん小説が心の中を忠実に表現しているわけではないのは分かっているが。

千葉県の伊予ケ岳の山頂付近で若い女性の死体が発見されるが、不審な点があったにも関わらず事件性なしと処理される。その若い女性がストーカーの被害者だったことから死体の発見者でもある生活安全課の警官が県警の生活安全課とともに捜査を始める。しかし、ストーカーの加害者が地元の大企業の社長の御曹司だったことから、ヤメ検の顧問弁護士、第2の就職を望む警察職員、出世と保身にたけた県警本部長以下の首脳陣、社長と懇意の暴力団組長、暴力団と通じている警察官が邪魔して、生活安全課の捜査が進まない。警察退官後に狩猟をしているストーカー被害者の父親が、猟銃を持って山に潜伏し、ストーカー加害者の命を狙っていると思われたことから、警察が山狩りを行い、伊予ケ岳山頂でその父親を狙撃する。というどうにも救いようのない状況だが、最後はあっという間にうまく解決する。

最後は、少し希望を持たせてくれるので読後感はそう悪くはないのだが、最後の部分での強引な展開はありがちで、それためハイジィは同氏の山の本以外はあまり読まない。それにしても徹底的な警察の腐敗の認識が笹本稜平氏が到達した心境だったとしたら、感慨深い。確かに、政治の世界を見れば、トランプ、安倍晋三、習近平、プーチンなど権力者は、自分の欲得のために官僚やメディアを操り、嘘を平気で言い、反対するものには徹底的に嫌がらせをしており、大衆も不正が行われていることを認識していても、選挙でそのような人たちを選んでいる状況を考えると、絶望的な状況というのは、正しい認識の結果かもしれない。実際のところ、正義は最早なくなっており、人は都合の良いところで自分に都合の良い正義を主張しているだけのようである。その混沌の中でも、何とか折り合いをつけながら生き続けるしかないのだろう。笹本稜平氏がそのような状況の中で突然死というのも何かの暗示だろうか。