親の一字は、わが子の安否を気づかう、切ないまでの親心、そのものである。
次のような話が伝わっている。
昔、中国の揚子江の上流に、母と子の二人で暮らす親子がいた。
息子は成長するにつれ、
「都へ行って、学問に励み、出世したい」
と夢見るようになった。
しかし、家に、そんな余裕はない。母親は我が子の願いをかなえてやりたいと、
方々から借金をして学費を工面してくれた。
「この母を不幸にしてはならない」
彼は、固く誓ったことは言うまでもない。
いよいよ都へ旅立つ日、揚子江の岸辺は、激励に集まった人々であふれた。
片田舎から中央の大学へ若者を送り出すことは村の誉れであったのっだ。
彼が乗った船が岸を離れると、当然ながら、村人はさっさと帰ってしまう。
ただ一人、母親だけは、いつまでも見送っていた。
岸から船が見えなくなると、今度は近くの山へ登った。
頂上の木の株の上に立ち、船の姿が完全に消えるまで、
我が子の無事を念じ続けるのであった。
都に着いた息子は、一生懸命、勉学に励んだ。
彼は、親を安心させようと、日常の様子や大学の成績を手紙に書いて、
毎週、故郷へ送っていた。
母親からの返事は、いつも、
「体は大丈夫か。早く帰ってきておくれ」
と短く書かれているだけだった。
親の苦労を知っている彼は、人一倍、努力した。
その結果、大学を主席で卒業。役所へ入っても、異例の早さで出世を果たした。
そして、ついに故郷の長官に就任し、村へ帰れることになったのである。
母親の喜びは、例えようがない。息子の顔を早くみたい一心で、
船が到着する七日前から、揚子江の岸へ行き、指折り数えて待っていた。
いよいよ、その日が来た。
母親は夜明けとともに近くの山へ駆け登る。
頂上の木の株の上に立ち、我が子が乗った船が無事に到着することを念じながら、
じっと川下を見つめている。
昼過ぎになって、ようやく小さな船影が現れてきた。
母親は、山をくだり、岸辺へ急いだ。
村人たちも大勢集まってきている。
立派になった彼を迎えて、
「偉くなったのう。村一番の出世だ」
と、人々の大歓声がこだまする。
しかし、母親は、
「無事でよかった。元気でよかった」
と、ただ涙を流して喜ぶばかりであった。
村人は、彼が出世したからこそ祝ってくれたのだ。
しかし、母親にとって、子供が出世しようが、夢破れて帰ってこようが関係ない。
元気でいてくれることが、一番の願いなのである。
たとえ、大学の成績が悪く、落第したとしても、同じように山頂の木の株に
立って、息子を待ちわびてくれるであろう。
(「親のこころ おむすびの味」より)
次のような話が伝わっている。
昔、中国の揚子江の上流に、母と子の二人で暮らす親子がいた。
息子は成長するにつれ、
「都へ行って、学問に励み、出世したい」
と夢見るようになった。
しかし、家に、そんな余裕はない。母親は我が子の願いをかなえてやりたいと、
方々から借金をして学費を工面してくれた。
「この母を不幸にしてはならない」
彼は、固く誓ったことは言うまでもない。
いよいよ都へ旅立つ日、揚子江の岸辺は、激励に集まった人々であふれた。
片田舎から中央の大学へ若者を送り出すことは村の誉れであったのっだ。
彼が乗った船が岸を離れると、当然ながら、村人はさっさと帰ってしまう。
ただ一人、母親だけは、いつまでも見送っていた。
岸から船が見えなくなると、今度は近くの山へ登った。
頂上の木の株の上に立ち、船の姿が完全に消えるまで、
我が子の無事を念じ続けるのであった。
都に着いた息子は、一生懸命、勉学に励んだ。
彼は、親を安心させようと、日常の様子や大学の成績を手紙に書いて、
毎週、故郷へ送っていた。
母親からの返事は、いつも、
「体は大丈夫か。早く帰ってきておくれ」
と短く書かれているだけだった。
親の苦労を知っている彼は、人一倍、努力した。
その結果、大学を主席で卒業。役所へ入っても、異例の早さで出世を果たした。
そして、ついに故郷の長官に就任し、村へ帰れることになったのである。
母親の喜びは、例えようがない。息子の顔を早くみたい一心で、
船が到着する七日前から、揚子江の岸へ行き、指折り数えて待っていた。
いよいよ、その日が来た。
母親は夜明けとともに近くの山へ駆け登る。
頂上の木の株の上に立ち、我が子が乗った船が無事に到着することを念じながら、
じっと川下を見つめている。
昼過ぎになって、ようやく小さな船影が現れてきた。
母親は、山をくだり、岸辺へ急いだ。
村人たちも大勢集まってきている。
立派になった彼を迎えて、
「偉くなったのう。村一番の出世だ」
と、人々の大歓声がこだまする。
しかし、母親は、
「無事でよかった。元気でよかった」
と、ただ涙を流して喜ぶばかりであった。
村人は、彼が出世したからこそ祝ってくれたのだ。
しかし、母親にとって、子供が出世しようが、夢破れて帰ってこようが関係ない。
元気でいてくれることが、一番の願いなのである。
たとえ、大学の成績が悪く、落第したとしても、同じように山頂の木の株に
立って、息子を待ちわびてくれるであろう。
(「親のこころ おむすびの味」より)