بسم الله الرحمان الرحيم
السلام عليكم
ヤスリブヘの旅も無事平穏ではなかった。マッカの町を出て閻もなくラクダが北に向かってはぐれ、一隊と離れてしまった。
クライシュの嫌がらせが追いかけてきた。マッカで預言者を悩ませてきた一人、アルフワイルス・イブン・ナキーズが現れてふたりにまつわりつき、ラクダを刺して驚したために、ふたりは砂上に投げ出されてしまった。
ファーティマはその頃、細く弱い身体であった。成長期に遭遇した数々の苦難の出来事ゆえに体の発育が遅れてしまったのだろう。囲いの苦しい生活は彼女の健康に影響し、精神的には強くなっていったが身体は丈夫とはいえなかった。
アルフワイルスがラクダを突ついたため、砂漠の奥地に投げ出された二人は残りの道を足を引きずり歩かねばならなかった。マディーナに到着したときの二人はぐったりと疲れ果てていた。マディーナの皆がアルフワイルスを呪った。
何年か過ぎた後も、父・預言者はこのときの出来事を忘れずにいた。
ヒジュラ歴八年、マッカ征服の大勝利の日に、預言者が次の者は、もしカアバの覆いの下に隠れたとしても見つけ出したら殺せと命じて詠み上げた名簿の中にアルフワイルスの名があった。
アリー・イブン・アブーターリブはアルフヮイルスヘの復讐に使命を燃やし、使命を全うした。
預言者はマディーナで住まいとマスジドが完成されるまでの間、愛用のラクダ・カスワーが歩みを止めた場所-アンサールのアブーアイユーブの館-に滞在した。
この館はアブーアイユーブが死んでから、その使用人アフラフのものとなっていたので、アルムギーラ・イブン・アブドッラハマーン・イブン・ハーリス・イブン・ヒシャームが千ディルハムで買い求め、修繕して町の貧しい人びとを何人か住まわせていた。
預言者は住まいとマスジドの建立に精出して働いた。ムハージルたちもアンサールもそれに刺激されて、こう歌いながら競って仕事に励むのだった。
「預言者が精を出し、我々が坐っていられようか。
とんでもないこと、そんなことは出来ないさ」
ムスリムたちがそれに応えて歌う。
「来世の幸せなくして、何の人生ぞ。
アッラーよ、ムハージルとアンサールに慈愛を垂れ給え」
話では、そのとき使徒は重い日干しフンガの荷を運んできたアンマール・イブン・ヤーセルの頭髪にかかった埃をその手で払っていたという。
アリー・イブン・アブーターリブが声を張り上げて歌うのが聴かれた。
「立って坐って働いて、
マスジド建立に尽す仲間には、
埃まみれが相応しい(埃から遠ざかろうとする者は神の御前で平等には扱われない)・・・」
ひき継いでアンマールがこの歌をマスジド完成の日まで歌い続けたという。
新しい住まいは立派な城ではなかった。マスジドの中庭に面した質素な長屋風の建物であった。ある家は石を積み上げて築いたもの、またある家はシュロの木を粘土で固定して作られた。どの家もシュロの葉で屋根が葺いてあった。
その高さは預言者の孫であるファーティマの息子ハサン・イブン・アリーが語ったところに拠ると・・・
「預言者の家に入ると、私はまだ十代の少年であったけど、手が天井に届いた・・・」
アルブハーリーのハディース集には・・・預言者の家の戸は爪でひっ掻いただけで開いてしまう、すなわちドアの周囲に縁がないのだ!・・・とある。
家具もまた、その当時のマディーナの暮らしにしてもかなり粗末で簡素なものであった。
彼のベッドはりーフが敷かれただけの紙切れであった。
この質素な新しい住まいにファーティマがマッカからやって来た。
そして今や指導者として尊敬される地位を得た父と安住したムハージルたちに会った。
異郷での淋しい生活を慰め合いお互いに助け合おうと、アンサールとムハージルたちのそれぞれが兄弟となった。
この兄弟の契りはファーティマがマッカから移り住む前に行なわれたものだった。
仮にそのとき彼女がそこに居合わせたとしても、父が教友たちにこう言ったのを少しも不思議と思わず受けとめていたことだろう。
「それぞれ信仰上の兄弟となりなさい」そしてアリーの手を取って言った。
「これは私の兄弟……」 そしてジャアファル(そのときまだハパシャにいた)のためにムアーズ・イブン・ジャバルを、アブーバクルにはハーリジャ・イブン・ズバイル・アルハズラジーを、オマル・イブン・アルハックーブにはイトバーン・イブン・マーリク・アルアウワィーを、アブーオバイダ・イブン・アルジャラーフにはサイード・イブン・ムアーズを、そしてオスマーン・イブン・アッファーンにはアウス・イブン・サービトを、そしてズハイル・イブン・アルアッワームにはサラマ・イブン・サラーマを・・・のようにしてムハージルたちにはそれぞれ兄弟ができた。
アリー・イブン・アブークーリブは預言者の兄弟となったのだ!
また遠からず、我々はこのアリーが兄弟となった預言者の最愛の娘の夫となって、より深い絆で結ばれたのを知ることになる。
当時ファーティマは十八歳になろうとしていたが、彼女にまだ結婚の意志はなかった。
その昔最愛の姉ザイナプが幼ない自分を残してアブールアースの家に嫁いで行ってしまった日の感傷から影響を受けた点は見逃せない。すでに年月が径ち、幼ない少女は大人に成長し、結婚の意義を知った。
ハディージャも、ザイナブも、そしてルカイヤもウンムクルスームも、すべての女が心に留めたようにこの自然の仕組みを受け入れる準備は彼女にも自然と出来ていた。
新しい住まいに移ってから、従兄のアリーが今まで以上に身近な人と感じられるようになった。
アリーが父・預言者と常に一緒に行動しながら、言葉に出さず胸にしまってある想いを彼女は感じとった。
ファーティマには従兄の胸の中の秘密が読みとれた。適齢期を迎えて以来彼女は自分の心の呼びかけを聴いている。
アリーは自分に関心を持ち、自分以外の誰をも念頭に置いていないのだと・・・。
アリーは彼女の一番身近な人、最も頼りになる人であった。彼は同胞以上の人、血のつながった従兄である・・・クライシュの青年の中でも勇気と知性、意志の強さは秀でており、誰よりも早くイスラームに帰依した預言者に一番近い教友である。
しかしながら彼女の心の扉は他の男性にも開かれなかったように、アリーに対しても閉じられていた。
最愛の父の傍らで暮らすこと、父の家における自分の役割に固執していただめかもしれない。
彼女は母ハディージャ亡き後の家庭を守る主婦であると、いつも英雄を励まし労わった亡き母の跡を継ぐ者であると、自負していた。そのためファーティマには『父親のお母さん』の呼称がつけられたほどだ。
実にこれ以上の名誉な立場があるだろうか!だが、一体いつまで・・・?
これはフアーティマが考えてもみないことであった。否、考えたことはあったかもしれない。
しかし、いつか先行き将来に迎える出来事として気に掛けなかった。
今現在の自分の立場を疎かにしたくなかったからであった。
妻として主婦としてアーイシャ・ビント・アブーバクルがムハンマドの家庭に入ってくると、ファーティマは好むと好まざるとに拘らず父の家を出る時が来たと悟ることになった。若く美しく賢い妻に主婦の座を明け渡すためであった!
إن شاء الله
続きます
アッラーのご加護と祝福がありますように
و السلام
السلام عليكم
ヤスリブヘの旅も無事平穏ではなかった。マッカの町を出て閻もなくラクダが北に向かってはぐれ、一隊と離れてしまった。
クライシュの嫌がらせが追いかけてきた。マッカで預言者を悩ませてきた一人、アルフワイルス・イブン・ナキーズが現れてふたりにまつわりつき、ラクダを刺して驚したために、ふたりは砂上に投げ出されてしまった。
ファーティマはその頃、細く弱い身体であった。成長期に遭遇した数々の苦難の出来事ゆえに体の発育が遅れてしまったのだろう。囲いの苦しい生活は彼女の健康に影響し、精神的には強くなっていったが身体は丈夫とはいえなかった。
アルフワイルスがラクダを突ついたため、砂漠の奥地に投げ出された二人は残りの道を足を引きずり歩かねばならなかった。マディーナに到着したときの二人はぐったりと疲れ果てていた。マディーナの皆がアルフワイルスを呪った。
何年か過ぎた後も、父・預言者はこのときの出来事を忘れずにいた。
ヒジュラ歴八年、マッカ征服の大勝利の日に、預言者が次の者は、もしカアバの覆いの下に隠れたとしても見つけ出したら殺せと命じて詠み上げた名簿の中にアルフワイルスの名があった。
アリー・イブン・アブーターリブはアルフヮイルスヘの復讐に使命を燃やし、使命を全うした。
預言者はマディーナで住まいとマスジドが完成されるまでの間、愛用のラクダ・カスワーが歩みを止めた場所-アンサールのアブーアイユーブの館-に滞在した。
この館はアブーアイユーブが死んでから、その使用人アフラフのものとなっていたので、アルムギーラ・イブン・アブドッラハマーン・イブン・ハーリス・イブン・ヒシャームが千ディルハムで買い求め、修繕して町の貧しい人びとを何人か住まわせていた。
預言者は住まいとマスジドの建立に精出して働いた。ムハージルたちもアンサールもそれに刺激されて、こう歌いながら競って仕事に励むのだった。
「預言者が精を出し、我々が坐っていられようか。
とんでもないこと、そんなことは出来ないさ」
ムスリムたちがそれに応えて歌う。
「来世の幸せなくして、何の人生ぞ。
アッラーよ、ムハージルとアンサールに慈愛を垂れ給え」
話では、そのとき使徒は重い日干しフンガの荷を運んできたアンマール・イブン・ヤーセルの頭髪にかかった埃をその手で払っていたという。
アリー・イブン・アブーターリブが声を張り上げて歌うのが聴かれた。
「立って坐って働いて、
マスジド建立に尽す仲間には、
埃まみれが相応しい(埃から遠ざかろうとする者は神の御前で平等には扱われない)・・・」
ひき継いでアンマールがこの歌をマスジド完成の日まで歌い続けたという。
新しい住まいは立派な城ではなかった。マスジドの中庭に面した質素な長屋風の建物であった。ある家は石を積み上げて築いたもの、またある家はシュロの木を粘土で固定して作られた。どの家もシュロの葉で屋根が葺いてあった。
その高さは預言者の孫であるファーティマの息子ハサン・イブン・アリーが語ったところに拠ると・・・
「預言者の家に入ると、私はまだ十代の少年であったけど、手が天井に届いた・・・」
アルブハーリーのハディース集には・・・預言者の家の戸は爪でひっ掻いただけで開いてしまう、すなわちドアの周囲に縁がないのだ!・・・とある。
家具もまた、その当時のマディーナの暮らしにしてもかなり粗末で簡素なものであった。
彼のベッドはりーフが敷かれただけの紙切れであった。
この質素な新しい住まいにファーティマがマッカからやって来た。
そして今や指導者として尊敬される地位を得た父と安住したムハージルたちに会った。
異郷での淋しい生活を慰め合いお互いに助け合おうと、アンサールとムハージルたちのそれぞれが兄弟となった。
この兄弟の契りはファーティマがマッカから移り住む前に行なわれたものだった。
仮にそのとき彼女がそこに居合わせたとしても、父が教友たちにこう言ったのを少しも不思議と思わず受けとめていたことだろう。
「それぞれ信仰上の兄弟となりなさい」そしてアリーの手を取って言った。
「これは私の兄弟……」 そしてジャアファル(そのときまだハパシャにいた)のためにムアーズ・イブン・ジャバルを、アブーバクルにはハーリジャ・イブン・ズバイル・アルハズラジーを、オマル・イブン・アルハックーブにはイトバーン・イブン・マーリク・アルアウワィーを、アブーオバイダ・イブン・アルジャラーフにはサイード・イブン・ムアーズを、そしてオスマーン・イブン・アッファーンにはアウス・イブン・サービトを、そしてズハイル・イブン・アルアッワームにはサラマ・イブン・サラーマを・・・のようにしてムハージルたちにはそれぞれ兄弟ができた。
アリー・イブン・アブークーリブは預言者の兄弟となったのだ!
また遠からず、我々はこのアリーが兄弟となった預言者の最愛の娘の夫となって、より深い絆で結ばれたのを知ることになる。
当時ファーティマは十八歳になろうとしていたが、彼女にまだ結婚の意志はなかった。
その昔最愛の姉ザイナプが幼ない自分を残してアブールアースの家に嫁いで行ってしまった日の感傷から影響を受けた点は見逃せない。すでに年月が径ち、幼ない少女は大人に成長し、結婚の意義を知った。
ハディージャも、ザイナブも、そしてルカイヤもウンムクルスームも、すべての女が心に留めたようにこの自然の仕組みを受け入れる準備は彼女にも自然と出来ていた。
新しい住まいに移ってから、従兄のアリーが今まで以上に身近な人と感じられるようになった。
アリーが父・預言者と常に一緒に行動しながら、言葉に出さず胸にしまってある想いを彼女は感じとった。
ファーティマには従兄の胸の中の秘密が読みとれた。適齢期を迎えて以来彼女は自分の心の呼びかけを聴いている。
アリーは自分に関心を持ち、自分以外の誰をも念頭に置いていないのだと・・・。
アリーは彼女の一番身近な人、最も頼りになる人であった。彼は同胞以上の人、血のつながった従兄である・・・クライシュの青年の中でも勇気と知性、意志の強さは秀でており、誰よりも早くイスラームに帰依した預言者に一番近い教友である。
しかしながら彼女の心の扉は他の男性にも開かれなかったように、アリーに対しても閉じられていた。
最愛の父の傍らで暮らすこと、父の家における自分の役割に固執していただめかもしれない。
彼女は母ハディージャ亡き後の家庭を守る主婦であると、いつも英雄を励まし労わった亡き母の跡を継ぐ者であると、自負していた。そのためファーティマには『父親のお母さん』の呼称がつけられたほどだ。
実にこれ以上の名誉な立場があるだろうか!だが、一体いつまで・・・?
これはフアーティマが考えてもみないことであった。否、考えたことはあったかもしれない。
しかし、いつか先行き将来に迎える出来事として気に掛けなかった。
今現在の自分の立場を疎かにしたくなかったからであった。
妻として主婦としてアーイシャ・ビント・アブーバクルがムハンマドの家庭に入ってくると、ファーティマは好むと好まざるとに拘らず父の家を出る時が来たと悟ることになった。若く美しく賢い妻に主婦の座を明け渡すためであった!
إن شاء الله
続きます
アッラーのご加護と祝福がありますように
و السلام