残照日記

晩節を孤芳に生きる。

未然防止

2011-08-31 18:12:44 | 日記
【真の不幸】
≪人生最も不幸なる処は、これ偶々(たまたま)一失言して禍及ばず。偶々一失謀して事僥倖に遭うことなり。後、すなわちこれを以て常となし、恬(てん)として意と為さず。即ち行を敗り倹(しめくくり)を失うことこれより大なる患なし。≫(「格言聯壁」)

≪医療“ヒヤリ・ハット”最多──「ヒヤリ・ハット」は、医師や看護師、薬剤師などが、一歩間違えると重大な医療事故につながるおそれを感じ、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりした事例のこと。医療事故などの情報を集めて分析している「日本医療機能評価機構」によると、去年1年間に全国529の医療機関から報告された「ヒヤリ・ハット」の事例は、前の年の2倍以上の56万24件で、過去最多となった。最も多かったのは薬の処方や投与に関するもので、全体の33%に当たる18万6000件余りだった。次いで、移動や食事など療養上の世話に関するものが、23%に当たる12万7000件余り。中には、名前が似ている薬を取り違えて処方したケースや、患者を車いすからベッドに移す際に転倒させたケースもあった。≫(8/30NHKニュースオンライン)

∇「1件の重大災害の陰には29件のかすり傷程度の軽災害があり、その陰には300件のけがはないがヒヤッとした体験がある」。これを「ハインリッヒの法則」または1:29:300の法則という。80年も前に50万件以上の労働災害から導き出された法則だ。この法則で逆算すれば、昨年度発生した重大医療ミスは約2000件/年、薬の処方や投与ミスで約600件あったことになる。実際の医療訴訟件数はここ数年約1000件/年である。NHKニュースでは、≪報告件数が増えたことについて、…医療機関側が事故を未然に防ぐために隠さず報告するようになった≫としているが、正直に100%隠さず報告されたとしたら、もっと凄い数の“医療ミス”が日常茶飯時なされていることになる。これは「どんな大きな事件の裏側にも必ずその淵源となる小さな禍種が渦巻いている」ことを示唆している。

∇例えば都市街では、落書きから凡く風紀の乱れなどの比較的些細な問題の累積が、深刻な犯罪の淵源・呼び水になっている。この現象は「ブロークンウィンドウズ理論」(「割れ窓理論」)と呼ばれる。アメリカの犯罪学者ジェームズ・Q・ウィルソンとジョージ・ケリングが発案したもので、「犯罪は無秩序の不可避的な結果」だとする理論だ。彼らは幾つかの実験を通して、スラム街の破壊・盗難のきっかけは駐車それ自体ではなく、無防備な状態(割れた窓)にしたまゝ放っておくことにある、と考えた。要するに「壊されたまゝ放置された窓ガラス」は、人々に誰も気にしていないし誰も管理していないと思わせる→しばらくしてまた他の窓が割れる→それがやがて無法状態の雰囲気を醸し出す→次々と向かいのビル、隣の通りへと伝わり、「このエリアでは何でも許される」という「空気」を伝播させる。かくして都市街では、落書きから凡く風紀の乱れへと“無法の連鎖”が拡大していく、というのである。

∇ケリング博士等の理論を市政に取り入れたのが元ニューヨーク市長のR・ジュリアーニ氏。彼は治安向上の最優先を公約に掲げ、「割れ窓理論」を取り入れ、警察官の大幅な増員をし、路上パトロール強化のほか、割れた窓や落書きを放置しないというような軽犯罪を次々に取り締まることを徹底した。その結果、1993年には約1900件あった殺人事件が、2001年には約600件まで減少したという。些細と思える学説に耳を傾けて街を改善していった市長が偉いともいえる。“医療ミス”に関しても、先ずは正直にミスを報告することだろう。そして、定期的に医療ミスを診療科別・原因別等に層別し、「QCの統計分析7つ道具」等を使って、医師・看護師・薬品メーカー等のチームで解析検討してみることではなかろうか。特に生命に影響を及ぼす、薬の処方・投与ミスは、まさに人為的不注意によるものである。薬の容器や袋を色別に識別分類したり、投与チェックシートを工夫したり、最重要事の複数チェック方式を導入したり、要するに「ヒヤリ・ハット」は、何が何でも防止しようという意識と、未然防止対策の励行で激減するはずである。──新首相及び閣僚は、「妄言のヒヤリ・ハット」の未然防止対策を十分に!


政治刷新

2011-08-30 17:46:00 | 日記
≪野田民主党代表が第95代首相に──菅内閣の総辞職を受け、国会は30日午後、衆参両院本会議で首相指名選挙を行い、民主党の野田佳彦代表(54)を第95代、62人目の首相に指名した。衆院では、野田氏が308票の過半数を得て、首相に指名された。一方、参院は1回目の投票で、野田氏が110票、自民党の谷垣総裁が85票を獲得したが、過半数に達せず、両氏による決選投票の結果、野田氏が110票で、谷垣氏の107票を上回り、首相に指名された。決選投票では白票が24票あった。野田氏の首相指名が正式に決まった。≫(8/30 読売新聞)

∇今回の民主党代表選は、一言で言えば≪小沢系でなくてよかった。≫(朝日)に尽きる。野田氏が選ばれたことに、6大紙の紙面は概ね賛意を表している。今回際立って目立つのが、「古い政治」からの脱却だ。≪民主党政権は、数々の失政と不毛な党内対立で、国民の期待を裏切り、信頼を失墜させてきた。小沢一郎元代表、鳩山前首相、菅首相による「トロイカ」の時代とは決別しなければならない。≫(読売)、≪野田氏が必要なのは、この3人による「トロイカ体制」を自らの力で乗り越えることだ。≫(毎日)、≪元代表におもねるような人事はごめんだ。≫(日経)、≪野田氏は…自らの権力を維持するためだけの古い政治家たちを復活させるなら、国民の信頼は完全に失墜するだろう。≫(産経)、≪小沢氏をめぐる党内抗争が政策実現のエネルギーをそぐ現状に終止符を打てるのか。それが民主党が引き続き政権政党たる資格を有するかどうかの分岐点となる。≫(東京)──全くその通りだと思う。野田氏には「古い政治」からの脱却にこそ“背水の陣”を敷いてもらいたい。それで党分裂を起こすなら、それもよい。寧ろその方が新しい「日本の政治」を築く“曙”になると信ずる。

∇ところで、代表選前日に発刊された「週刊現代」が手許にある。ある記事を読もうと思って買ったものだ。そこに「おバカすぎ「民主党代表選」全内幕」と題したかなりのページを割いた“総力特集”が載っている。海江田─前原の決戦をあらん限り揶揄した後、最後に「さようなら財務省のポチくん 政治生命をなくした野田佳彦」なる記事がある。縷々野田氏の「バカ」ぶりを書き連ねた上で、最後に代表に選出される「可能性全く無し」として、こう締めた。≪野田氏には、勝負勘も運もない。こんな人物が、これまで財務相として日本経済の番人をしてきたのだから、景気が回復するはずもない。ご愁傷さま。≫と。それこそ「おバカすぎ週刊現代」となってしまった。この如く政治を面白半分に取り上げ、記載し報道した事柄への“結果責任”を負わないマスコミ群。どの国にも見られる傾向だろうが、彼らが「国の品格」を貶めている“元凶”の一因だ。又、今朝の朝日に政治エディテーター・渡辺勉氏が、≪私たちメディアも、政争中心になりがちな報道を乗り越えたい。首相が務まる政治家なのか。政権を担える政党なのか。だれのための政策なのか。いっそう厳しくチェックしていきたい。≫と第一面に書いていた。

∇生意気言うんじゃない。≪政争中心になりがちな報道を乗り越えたい。≫は当然だ。もし政争を語るなら、「両成敗」の天秤を絶えず下げておくことだろう。一方的に首相・内閣・与党をこきおろすだけでなく、野党陣営の対応との比較が欠かせない。「犯人探し」がマスコミの仕事ではない。しかもこれでもか、これでもかと欠点をあげつらう流儀はもうゴメンだ。≪首相が務まる政治家なのか。政権を担える政党なのか≫の、特に≪首相が務まる政治家なのか。≫は、マスコミの仕事ではない。君等にそんな余計な判定をしてもらう必要は無い。記者が書きたい一番興味をそゝる所だろうが、「おバカすぎ週刊現代」の二の舞を踏むだけだ。専ら≪だれのための政策なのか。≫を注視し、≪いっそう厳しくチェック≫するだけでなく、「代案や新発想を以て、大いに“最良政策”を提案していきたい」ではないのか。チェックする、即ち「批判」は子どもでもやれる仕事だ。国際政治学者・坂本義和氏の言葉ではないが、≪知識人とは、批判力と構想力(老生は提案力)二つの軸を持つことが必要だ。≫を肝に銘じることだろう。そしてもう一度「マスコミの役割は何だろう」を、“原点回帰”して熟考してみることだろう。ジャーナリスト諸君よ、日本の国が可愛くないのか! 早速質問しよう。次の記事をどう感じるか? 明日又。

≪「新政権、一刻も早く解散に追い込む」自民・谷垣総裁──自民党の谷垣禎一総裁は30日午前の全議員・選挙区支部長懇談会で「復旧復興で協力すべきところは協力する」と述べる一方、「一刻も早く解散に追い込んで政権を奪還する」と、第3次補正予算成立後に野田新政権への対決姿勢を強めていく考えを示した。 谷垣氏は、民主党の野田佳彦新代表がマニフェスト(政権公約)の理念を堅持する姿勢を示したことについて「野田さんの理解はまったく間違っている。税収が落ち、震災が起きたから(実行)できないという話ではない。財政の見方に構造的な問題があった」と批判した。 さらに「2年間で2人の総理が辞めざるを得なかった。3人目は、戦いのファイナルステージ(最終段階)だ」と述べ、野田新政権を早期の衆院解散・総選挙に追い込む考えを強調した。≫(8/30 朝日新聞)


漁夫の利

2011-08-29 18:08:42 | 日記
【漁夫の利】
≪易水でハマグリが水から出てきて口をあけてひなたぼっこをしていた。するとシギが来てハマグリの肉をつついた。ハマグリは殻を閉じてシギのくちばしを挟んだ。シギが言った。「このまゝ挟んでいると、今日も明日も雨が降らなければ、干からびて死んじゃうぞ」と。ハマグリも負けずに言い返した。「今日も明日も嘴が抜けなかったら、お前こそ餌が食えずに餓死するさ」と。この両者は互いに放すことを承知しない。そこへやってきた漁師が、両方一ぺんに捕らえてしまった。──つまらぬ争いは第三者の利得。(「戦国策」燕上篇)

≪民主党新代表に野田氏 あす第95代首相に指名へ──民主党は29日、菅直人首相の後継代表を決める代表選挙を行い、野田佳彦財務相が海江田万里経済産業相との決選投票の末、新代表に選出された。野田氏はただちに党役員人事に着手し、30日の衆院本会議で第95代、62人目の首相に指名される。得票数は野田氏215票、海江田氏177票。投票総数は395、有効投票数は392で無効票は3だった。…1回目の投票でいずれの候補も過半数に達せず、野田氏と海江田氏による決選投票となった。1回目の得票数は前原氏74票、馬淵氏24票、海江田氏143票、野田氏102票、鹿野氏52票。有効投票数は395、無効票は0だった。≫(8/29 産経新聞)

∇≪海江田氏は約120人の党内最大勢力を率いる小沢氏や、鳩山由紀夫前首相の全面的な支持を受け、1回目の投票では最多の票を集めた。しかし、野田氏が、海江田氏を通じた小沢氏の影響力維持を懸念する中間派の支持を集め、決選投票では海江田氏の票を上回った。≫──昨日当ブログで、≪小沢氏の「数の論理」が勝つか、決選投票でやはり「前原人気」が制するのか、はたまた“漁夫の利”を得て野田陣営に転がり込んでくるかは知らないが、民主党は崩壊の危機に晒されている。≫と書いた。海江田対前原の下馬評をひっくり返して野田佳彦財務相が首班の座を射止めることが決まった。まさに選挙は「水物」である。第1回目投票で143票の海江田氏が、第2回では177票。僅か34票しか延びなかったのは、党内に“小沢事情”に反発する常識的判断が働いた為だと思う。前原人気も、外国人からの政治献金問題の前には減速せざるをえなかった。それでいゝのだ! これで少しは「神意」に適うのではないか。但し、野田新首相も折角“漁夫の利”を得たが、脇固めを怠ると「彫陵の荘子」になってしまう。

∇≪荘子が彫陵にある大庭園で遊んでおった。そこに一羽の大きなカササギが南の方から飛んできて、栗林のとある枝にとまった。荘子は近寄り、弓を引き絞って射落とそうとした。と、ふと目が木陰に安らぐ蝉に釘付けになった。葉陰に潜む蟷螂がそれを食わんと狙っているのだ。そしてその蟷螂を、なんと例のカササギが狙ってる。して又そのカササギを荘子が……。ぞっとして弓の手を緩めた。「ああ、皆、互いの獲物に夢中で、狙われてることさえ気がつかない。しかも不思議に利害は呼び合うものだ」。やにわに荘子は弾弓を投げ捨て逃げようとした。ところがどっこい、庭番が荘子を盗人と間違えたものか、彼を捕らえて厳しく詮議した。…(「荘子」山木篇) まさに人生「彫陵の荘子」。殊に首相はいつも誰かに狙われている。野党は勿論のこと、マスメディアに。そして又、野田氏がいくら≪怨念を超えた政治≫を呼びかけようが、負け戦を喫した怨念の塊・小沢陣営に──。最後に、新代表に選ばれた野田氏が就任直後に壇上で挨拶をした言葉を引用しておこう。現在の難局を彼は「坂道をあげる雪だるま」に譬えたが、「雪だるま」なのか、或は「シシューポスの巨石」なのかを老生なりに考えてみることゝしよう。今日はこゝまで。

【野田代表の挨拶の一部】
≪もうノーサイドにしましょう! 私は「怨念を超えた政治」と申し上げました。…先だって記者クラブの討論会のときに、「坂道をあげる雪だるま」の話を政権運営として例えました。これは私のオリジナルじゃありません。荒井聡さんのアイデアです。政権運営とは、まさに雪の坂道を雪だるまで押し上げていくようなもの。段々と雪だるまはかさんで大きくなっていく。そんなときに、あの人が嫌い、この人が嫌い、内輪もめをしていたら、あるいは手を抜いたら雪だるまは転げてまいります。今の状況は雪だるまが転がり落ちている状況だと思います。大きくなってます。かさばってます。重くなってます。その雪だるまを前進をさせて、国民のための政治をするためには、ここに集っている皆様お一人お一人が存分の力を発揮して頂くことが不可欠なんです! …私達は率直に言って厳しい評価を受けています。このまま後退して、政権から退場して民主党が粉々になったときに喜ぶのは古い政治じゃありませんか。戻していいんでしょうか。民が主(あるじ)の民主党が、民主主義を死なせてはいけないと思います。だから、みんなで歯を食いしばって、国民のために汗をかいて、安定した、信頼のできる落ち着いた政治を作ろうじゃありませんか!≫

【シシューポスの巨石】
≪神々がシシューポスに課した刑罰は、休みなく岩をころがして、ある山の頂まで運び上げるというものであったが、ひとたび山頂まで達すると、岩はそれ自体の重さでいつも転がり落ちてしまうのであった。無益で希望のない労働ほど恐ろしい懲罰はないと神々が考えたのは、たしかにいくらかはもっともなことであった。≫(アルベルト・カミュ著「シーシュポスの神話」清水徹訳 新潮文庫版より)


世論と実態

2011-08-28 19:51:36 | 日記
【連帯意識】
≪王権というものは、たとえある一派から消滅したとしても、その民族全体がなお連帯意識を温存しているならば、かならず同じ民族のうちの他の一派に移る。≫≪連帯意識は庇護、相互防衛、目標追及など、あらゆる社会集団活動をもたらす。≫≪指導権は支配能力を通じてのみ存在し、支配能力は連帯意識を通じてのみ存在する。≫ (イブン・ハルドゥーン著「歴史序説」岩波書店)

≪海江田氏先行 決選投票の可能性も──民主党の代表選挙は、29日に開かれる両院議員総会で、398人の議員による投票が行われ、新しい代表が選出される。これまでのNHKの取材では、海江田経済産業大臣が、小沢元代表のグループや鳩山前総理大臣のグループを中心に、100人余りの支持を固めて先行。これに対して野田財務大臣は、みずからのグループや岡田幹事長ら執行部の議員を中心に60人余りを、また前原前外務大臣は、みずからのグループを中心に50人前後をそれぞれ固め、追い上げを図っている。さらに、鹿野農林水産大臣は、ベテラン議員や農林水産関係の議員ら30人余りの支持を固めたほか、馬淵前国土交通大臣は、推薦人の20人からの上積みを目指している。ただ、100人を上回る議員は態度を決めていないか明らかにしておらず、各陣営は、こうした議員の支持獲得に向けて働きかけを強めている。≫(8/28 NHKオンライン)

∇代表選立候補5氏は、今朝のNHK「日曜討論」で、それぞれの“立ち位置”を懸命に述べていたが、聞くかぎりに於いては、さした違いは見られなかった。ともあれ誰が首相になろうが、待ち構えている課題は一筋縄では片付けられぬ「不可避」の問題ばかり。東日本大震災の復旧・復興対策や原発・エネルギー政策、マニフェスト見直しの是非、小沢処遇問題そして「ねじれ国会」解消のための野党との連携問題等々。菅政権から持ち越された超難題の方向付けが、新代表の肩にズシリとかゝる。政権発足時は、「政権交代」なる目標が、異質な寄せ集め集団を支えていた。当初は間違いなくイブン・ハルドゥーンが強調する「連帯意識」があった。トロイカ体制の歪、殊に小沢処遇を見て見ぬふりをした党員たちの不見識がそれを全て瓦解させた。今日午後、都内ホテルで行なわれた5氏による討論会で、≪小沢一郎元代表の党員資格停止処分解除の是非が争点となる中、候補者からは代表選後の結束を訴える声が相次いだ。≫(時事通信)とあるが、各候補者が総理になった際、党内統一に絶対不可欠な、 単なる“御都合主義”による呼びかけであって、かつての「連帯意識」が醸成される可能性は無い。民主党崩壊の足音が聞こえてくるようだ。

∇朝日新聞社が25、26の両日、全国緊急世論調査(電話)を実施したが、喫緊の「政局」動向をよく捉えている気がする。先ず結論だけを掻い摘んで列挙しよう。①次期首相適任者は「前原氏」40%で圧倒。以下海江田万里5、野田佳彦4、馬淵澄夫4、鹿野道彦1だった。②尚、前原氏が外相を辞任する原因となった在日外国人からの違法献金問題は、「大きな問題ではない」と答えた人が49%で、「大きな問題だ」は39%。③民主党のマニフェスト見直しは賛成73%、反対13%と支持が圧倒的。④小沢一郎元代表の党員資格停止処分の解除には、反対が74%で、賛成14%。⑤政党支持率は民主18%、自民15%で、前回(8月6、7日)調査の民主14%、自民19%から逆転した。支持政党なしは51%だった。⑥ 仮にいま、衆院選の投票をするとしたら、民主20(15)、自民22(28)だった。カッコ内は前回。⑦民主党と自民党が、期間を区切って大連立政権をつくることに、賛成39:反対36 ⑧震災復興の財源への増税に、賛成51:反対37 ⑨社会保障の財源に消費税は、賛成44:反対45 ⑩原子力発電を段階的に減らし、将来は、やめることに、賛成68:反対20 ⑪農産物の関税を大幅に引き下げ、貿易の自由化に、賛成34:反対44⑫ 民主党が衆院選で掲げたマニフェストを見直すことに、賛成73:反対13。etc

∇この時点での世論の趨勢は、前原氏が「在日外国人からの違法献金問題」さえクリアできれば、圧倒的に有利だった。それを見越して、支持政党なしが51%で変わらぬものゝ、支持政党率は久し振りに自民党を逆転し、比例区でも僅差に迫った。小沢氏の復帰動向には7割の回答者が「ノー」を突きつけ、脱原子力とマニフェスト見直しには7割が賛成している。あとは、復興財源や社会保障の財源問題と貿易の自由化、大連立の是非等で世論が割れているので、新内閣の下、与野党協議を慎重に進めればよいという「読み」が可能であった。これから推せば、海江田支持は世論に逆行する、単に“小沢事情”を成就する手助けの方便に過ぎないことになる。そんな馬鹿げたことに加担する議員ばかりなら、民主政権は超短期に崩壊し、総選挙を今から覚悟すべきだろう。では前原首相の可能性はどうか。これも残念ながら政治資金規正法で禁じられている外国人からの政治献金が、今年3月に発覚した25万円以外に計34万円あったことが、大きな障害になる。前原氏は折角の大チャンスを、自らの脇の甘さで大魚を失ってしまいそうだ。小沢氏の「数の論理」が勝つか、決選投票でやはり「前原人気」が制するのか、はたまた“漁夫の利”を得て野田陣営に転がり込んでくるかは知らないが、民主党は崩壊の危機に晒されている。誰が選出されても、かつての「連帯意識」が生まれる可能性が無いため、神が民主党を「お好み」にならぬように見受ける。どうなることやら……。

パンドラの箱

2011-08-27 19:23:29 | 日記
○どんな英雄も最後は鼻につく人物になる(エマソン)
○どのような人間でも近づけば小さくなる。(タルムード)
○来て見れば何の奇も無し富士の山
    釈迦や孔子もかくてありなん  村田清風
(幕末期長州藩の藩政改革の推進者)

≪リビア反体制派、「自由宣言」へ 独裁体制と決別うたう──リビアの反体制派「国民評議会」が、カダフィ大佐の独裁体制との決別をうたう「リビア自由宣言」の準備を進めていることが27日までに分かった。宣言から30日以内に暫定政権を樹立、暫定政権が任命した専門家が憲法草案を作成し、国民投票を経て憲法を制定する方針だ。国民評議会の法律委員会メンバー、ムスタファ・マネイ氏が北東部ベンガジで、共同通信との会見で明らかにした。自由宣言の詳細は不明だが、42年にわたる独裁から民主的な国家体制に転換する原則を示すとみられる。国民評議会が速やかな政権移行に向けて着実に準備を進めていることが明らかになった。≫(8/27 ベンガジ共同)

∇42年も独裁者たり得たカダフィ大佐が、約1億3000万円の懸賞金を懸けられて逃亡しながらも、反体制側に抵抗を続けている。未だに「カダフィ神話」を信奉している民がいるからでもある。古訓ではとうの昔に“偉大なる統率者”が実は“似非リーダー”だったことを幾例も証明しているのだが……。我が国の如く、為政者の日常の隅々まで報道される国とは違って、未だに情報公開が統制せれている国々の国民にとって、「似非偉人」たちが≪鼻につく≫までにはまだ時間がかゝるのであろう。又、独裁者に変わる新体制が、必ずしも従前に比して国民を幸せにしてくれる保証が見えないからでもある。難しい問題であると思う。昨日の「天声人語」は次のように語っていた。≪「アラブの春」の民主化は、チュニジアに始まりエジプト政権も倒した。挟まれる形でリビアも続いたが、前途はとりわけ多難視される。民主政治の基礎となる仕組みや経験、その一切がこの国にはない。独裁の重しがとれた後の混乱は史上に多い。人々の利害や思惑、欲望が詰まるパンドラの箱の扱いは容易ではない。多くの血で購(あがな)うリビアの春に、打算抜きの国際支援が要ろう。希望を殺す失敗のないように。≫ と。

∇今回は「天声人語」の悪口ではない。「パンドラの箱」についてちょっと付け足しておきたい。一般に「パンドラの箱を開ける」(open Pandora's box)は、「思いがけない災いを招くこと」の意に用いられる。ヘシオドスの「仕事と日」(岩波文庫)やブルフィンチの「ギリシャ・ローマ神話」(岩波文庫or角川文庫)によれば次の神話から生まれた。──昔々、ギリシアの神ゼウスは、人間のために火を盗んだプロメテウスと弟のエピメテウスのもとにパンドラと名づけた女性を送り込んだ。二人と人間を罰するために……。パンドラは天上の神々から美貌、音楽、説得力等あらゆる贈り物を授けられて地上のエピメテウスに与えられた。兄のプロメテウスからはゼウスからの贈物には一切用心するようにと厳命されていたのだが、彼女の魅力には抗し難くパンドラを妻にした。ところで、エピメテウスの家にはかつて天上界にいた頃から持っていた一つの壺があった。その中にはありとあらゆる「有害」なものが詰まっていた。パンドラには決してそれを開けぬようにと言い聞かせておいたのに、パンドラはつい好奇心で開けてしまった。すると中からあらゆる病気や憎悪・嫉妬・怨念・復讐といったものが飛び出してきた。パンドラが慌てて蓋をした。壺の底にはたゞ一つ“希望”だけが残った……。

∇この神話から、ブルフィンチは、≪今日に至るまで、私たちがどんな災難にあってとほうに暮れている時でも、希望だけは決して私たちを見捨てない意味がこれでわかるでしょう。同時に私たちが希望を失わないあいだは、いかなる不幸も私たちを零落させ尽すことができないわけもわかるでしょう。≫と一つの教訓を導いた。一方でブルフィンチは、パンドラはゼウスの好意で、人間を祝福するために贈られたのだ、という他の説を取り上げる。即ち、パンドラは神々がそれぞれ祝ってくれた贈物を一つの箱の中に入れて持っていた。だがうっかりその箱を開けると、祝物は皆逃げ去って、“希望”だけが残ったというのである。ブルフィンチ曰く、≪前の話にくらべると、この方がずっと尤もらしく思われます。なぜならば、前の話のような、あらゆる禍にみちた瓶の中に宝石のごとく貴重な希望が保存されているはずはありませんから≫と。(岩波文庫) 以上から「天声人語」の≪人々の利害や思惑、欲望が詰まるパンドラの箱の扱いは容易ではない。…希望を殺す失敗のないように。≫は、明らかに≪前の話≫を念頭に引用されている。さて、「パンドラの箱(或は壺)」は、人間のために火を盗んだプロメテウスとそれを受けついだ人類を罰するために用意された「禍の壺」だったのか、或はゼウスが人間を祝福するために贈られた「善意の箱」だったのか。老生には≪前の話≫の方が、より現実的な気がするのだが……。折りしも我が国では29日に「民主代表選」が行なわれ、次期首相が選出される。愈々≪人々の利害や思惑、欲望が詰まるパンドラの箱≫を開けるわけだが、せめて“希望”だけは残っていて欲しいものである。