残照日記

晩節を孤芳に生きる。

続複眼思考

2011-08-10 16:27:47 | 日記
【先ず馬を射よ】 杜甫詩
挽弓当挽強  弓を挽かば当に強きを挽くべし
用箭先用長  箭(矢)を用いば当に長きを用うべし
射人先射馬  人を射んとせば先ず馬を射よ
擒敵先擒王  敵を擒(虜)にせんとせば先ず王を擒にせよ
(「前出塞」の六より)

≪菅首相、衆院委で退陣を明言 再生エネ、公債法成立で──菅直人首相は10日の衆院財務金融委員会で、公債発行特例法案と再生エネルギー特別措置法案が月内成立の見通しになったのを受け「成立したときは速やかに民主党代表選の準備に入り、新代表が決まれば当然首相として身を処す」と明言した。首相が退陣条件に挙げる公債法案と再生エネ法案について、民主、自民両党の参院国対委員長が26日までの成立を図る方針で合意したのを受けた発言だ。≫(8/10共同通信)

∇菅首相が退陣表明の意向を明言した。当ブログで再三指摘した通り、“時間の問題”だったので改めて大騒ぎする必要はないが、国民としては連日の永田町やマスコミの“菅おろし狂騒劇”が終わるだけでも有難い。退陣条件に見通しが立ち、米国デフォルト問題に端を発する急激な円高と世界同時株安への対応のためにも、政局抗争に決着をつける時だろう。本来ならもっと早く菅首相を攻め落とすチャンスはあった。与野党共に「降ろしたかった」のだから、杜甫詩の“極意”に倣って、与党は≪先ず王を擒にせよ≫を、野党は≪先ず馬を射よ≫を、戦略的に進めればよかったのだ。即ち、与党は自分たちの≪王(菅首相)≫をそれぞれが勝手に批判しあい、四面楚歌の窮鼠(菅首相)を更に孤立反発させるのではなく、党を挙げて花道政策の実現へ向けて結束すべきだった。その方が≪王を擒≫にすることが出来た筈だ。一方で、野党側(マスコミも)は、菅首相一人を攻めることにエネルギーを消耗しすぎた。辞任に対する専権をもつのは首相だ。寧ろ≪人を射んとせば先ず馬を射よ≫で、≪馬≫即ち、菅首相の拠って立つところの条件(辞任三条件)を早期に煮詰めることや、或いは取り巻きの大臣を攻略する戦法が欠如していた。与野党共々“窮鼠猫を噛む”の諺を軽視した「徒労」であった。

∇さて、閑話休題。昨日のタルムードクイズの答に戻ろう。先ず第一問:「人間は口が一つなのに耳は二つある。何故か?」答:「話すことの二倍、聞かなければならないから」。次の話も載っている。≪人間には、六つの役に立つ部分がある。そのうち三つは自分ではコントロールできないが、三つは人間の力でどうにでもなる部分である。目、耳、鼻が前者で、口、手、足が後者である≫。ユダヤの格言には「口を慎むべし」の類が多く載っている。目はよくものを見るため、耳は他人の話をよく聞くため、鼻は空気を存分に吸うためにそれぞれ二個ずつある。口は必要なことだけを要領よく答えればよいから一つ。漢字でもそうだ。口が三つで品(ひん)、口次第で“お里が知れる”、クワバラ/\。第二問:「人間の目は、白い部分と黒い部分からなっている。それなのに何故黒い部分(瞳)から見るのだろうか?」答:「世界を暗い部分から見た方が良いから。神が人間が明るい面から見てあまり楽観的にならないように戒めているのだ」。こんな話も載っている。≪問:聖書によると、世界は六日目に完成した。人間は、あらゆる動物が作られた後、その最後の六日目に造られた。なぜか。答:ハエ一匹でも人間より先に造られたのだと思えば、人間は高慢にならない。人間に自然に対する謙虚さを教えるためである。≫etc

∇NHK世論調査に入ろう。先ず整理するとこうだった。原発問題について①菅首相の「原発に依存しない社会」については「評価する」が合計57%、「評価しない」が合計35%だった。原発運転再開に関しては、「賛成」が24%、「反対」が23%、「どちらともいえない」が46%だった。復興財源の臨時増税には「賛成」が31%、「反対」が30%、「どちらともいえない」が34%だった。──昨日のランチェスターではないが、脱原発依存か否かでは、√3の法則に近い差を以て「評価する」方向にある。だが、この数値は「大いに評価する」16%+「ある程度評価する」41%=57%と、「あまり評価しない」23%+「まったく評価しない」12%=37%という従来的合計法を採用した場合のこと。これを①<「大いに評価する」16%>対②<「ある程度評価する」41%>対<③「あまり評価しない」23%+「まったく評価しない」12%=37%>で見ると、16%:41%:37%となる。この傾向は、ドイツなどが打ち出したような「将来何としても脱原発すべきだ」の勢いはなく、どちらかといえば賛成、どちらかといえば反対という曖昧模糊とした「民意」を窺わせる。

∇又、原発運転再開や増税に関しても、賛成:反対が完全に拮抗していて、大震災から5ヶ月に差し掛かる現在、回答者の心情や認識に現実生活重視への寄り戻り傾向が見られる。先日の朝日・読売調査では、復興財源のための増税には賛成が52%(読売)、50%(朝日)、反対42%(読売)、40%(朝日)だったが、時間がもう少し経過し、景況が相変わらず改善しないとなると、NHK調査以上に増税反対派の増加する可能性が潜んでいる。原発運転再開についても、東北電力の供給綱渡り状況等が続いたりすれば、運転再開「賛成」に拍車がかかる可能性が高い。かくして一昨日の分析にNHK世論調査を加えて類推されることは、「これが民意だ、としてハッキリ断言できない現在の国民心情」が浮き彫りにされただけだ、と言って過言ではない。要するに世論調査と称してアンケートをとって何かを探ろうにも、民意浮動状況下では、盆が過ぎて新政権誕生の頃には、全く別の数字に置き換わるほど移ろいやすい“時局”なのである。アンケートがTPOを得なかったこと、そして何よりも調査する側が、何を知りたいのか、又、国民にどんな情報を提供すべく世論調査したのかが十分練られていない。無意味で頻繁に実施される世論調査の抜本的見直しが必要だろう。それについては明日又。嗚呼暑い、暑い!