残照日記

晩節を孤芳に生きる。

漁夫の利

2011-08-29 18:08:42 | 日記
【漁夫の利】
≪易水でハマグリが水から出てきて口をあけてひなたぼっこをしていた。するとシギが来てハマグリの肉をつついた。ハマグリは殻を閉じてシギのくちばしを挟んだ。シギが言った。「このまゝ挟んでいると、今日も明日も雨が降らなければ、干からびて死んじゃうぞ」と。ハマグリも負けずに言い返した。「今日も明日も嘴が抜けなかったら、お前こそ餌が食えずに餓死するさ」と。この両者は互いに放すことを承知しない。そこへやってきた漁師が、両方一ぺんに捕らえてしまった。──つまらぬ争いは第三者の利得。(「戦国策」燕上篇)

≪民主党新代表に野田氏 あす第95代首相に指名へ──民主党は29日、菅直人首相の後継代表を決める代表選挙を行い、野田佳彦財務相が海江田万里経済産業相との決選投票の末、新代表に選出された。野田氏はただちに党役員人事に着手し、30日の衆院本会議で第95代、62人目の首相に指名される。得票数は野田氏215票、海江田氏177票。投票総数は395、有効投票数は392で無効票は3だった。…1回目の投票でいずれの候補も過半数に達せず、野田氏と海江田氏による決選投票となった。1回目の得票数は前原氏74票、馬淵氏24票、海江田氏143票、野田氏102票、鹿野氏52票。有効投票数は395、無効票は0だった。≫(8/29 産経新聞)

∇≪海江田氏は約120人の党内最大勢力を率いる小沢氏や、鳩山由紀夫前首相の全面的な支持を受け、1回目の投票では最多の票を集めた。しかし、野田氏が、海江田氏を通じた小沢氏の影響力維持を懸念する中間派の支持を集め、決選投票では海江田氏の票を上回った。≫──昨日当ブログで、≪小沢氏の「数の論理」が勝つか、決選投票でやはり「前原人気」が制するのか、はたまた“漁夫の利”を得て野田陣営に転がり込んでくるかは知らないが、民主党は崩壊の危機に晒されている。≫と書いた。海江田対前原の下馬評をひっくり返して野田佳彦財務相が首班の座を射止めることが決まった。まさに選挙は「水物」である。第1回目投票で143票の海江田氏が、第2回では177票。僅か34票しか延びなかったのは、党内に“小沢事情”に反発する常識的判断が働いた為だと思う。前原人気も、外国人からの政治献金問題の前には減速せざるをえなかった。それでいゝのだ! これで少しは「神意」に適うのではないか。但し、野田新首相も折角“漁夫の利”を得たが、脇固めを怠ると「彫陵の荘子」になってしまう。

∇≪荘子が彫陵にある大庭園で遊んでおった。そこに一羽の大きなカササギが南の方から飛んできて、栗林のとある枝にとまった。荘子は近寄り、弓を引き絞って射落とそうとした。と、ふと目が木陰に安らぐ蝉に釘付けになった。葉陰に潜む蟷螂がそれを食わんと狙っているのだ。そしてその蟷螂を、なんと例のカササギが狙ってる。して又そのカササギを荘子が……。ぞっとして弓の手を緩めた。「ああ、皆、互いの獲物に夢中で、狙われてることさえ気がつかない。しかも不思議に利害は呼び合うものだ」。やにわに荘子は弾弓を投げ捨て逃げようとした。ところがどっこい、庭番が荘子を盗人と間違えたものか、彼を捕らえて厳しく詮議した。…(「荘子」山木篇) まさに人生「彫陵の荘子」。殊に首相はいつも誰かに狙われている。野党は勿論のこと、マスメディアに。そして又、野田氏がいくら≪怨念を超えた政治≫を呼びかけようが、負け戦を喫した怨念の塊・小沢陣営に──。最後に、新代表に選ばれた野田氏が就任直後に壇上で挨拶をした言葉を引用しておこう。現在の難局を彼は「坂道をあげる雪だるま」に譬えたが、「雪だるま」なのか、或は「シシューポスの巨石」なのかを老生なりに考えてみることゝしよう。今日はこゝまで。

【野田代表の挨拶の一部】
≪もうノーサイドにしましょう! 私は「怨念を超えた政治」と申し上げました。…先だって記者クラブの討論会のときに、「坂道をあげる雪だるま」の話を政権運営として例えました。これは私のオリジナルじゃありません。荒井聡さんのアイデアです。政権運営とは、まさに雪の坂道を雪だるまで押し上げていくようなもの。段々と雪だるまはかさんで大きくなっていく。そんなときに、あの人が嫌い、この人が嫌い、内輪もめをしていたら、あるいは手を抜いたら雪だるまは転げてまいります。今の状況は雪だるまが転がり落ちている状況だと思います。大きくなってます。かさばってます。重くなってます。その雪だるまを前進をさせて、国民のための政治をするためには、ここに集っている皆様お一人お一人が存分の力を発揮して頂くことが不可欠なんです! …私達は率直に言って厳しい評価を受けています。このまま後退して、政権から退場して民主党が粉々になったときに喜ぶのは古い政治じゃありませんか。戻していいんでしょうか。民が主(あるじ)の民主党が、民主主義を死なせてはいけないと思います。だから、みんなで歯を食いしばって、国民のために汗をかいて、安定した、信頼のできる落ち着いた政治を作ろうじゃありませんか!≫

【シシューポスの巨石】
≪神々がシシューポスに課した刑罰は、休みなく岩をころがして、ある山の頂まで運び上げるというものであったが、ひとたび山頂まで達すると、岩はそれ自体の重さでいつも転がり落ちてしまうのであった。無益で希望のない労働ほど恐ろしい懲罰はないと神々が考えたのは、たしかにいくらかはもっともなことであった。≫(アルベルト・カミュ著「シーシュポスの神話」清水徹訳 新潮文庫版より)