残照日記

晩節を孤芳に生きる。

未然防止

2011-08-31 18:12:44 | 日記
【真の不幸】
≪人生最も不幸なる処は、これ偶々(たまたま)一失言して禍及ばず。偶々一失謀して事僥倖に遭うことなり。後、すなわちこれを以て常となし、恬(てん)として意と為さず。即ち行を敗り倹(しめくくり)を失うことこれより大なる患なし。≫(「格言聯壁」)

≪医療“ヒヤリ・ハット”最多──「ヒヤリ・ハット」は、医師や看護師、薬剤師などが、一歩間違えると重大な医療事故につながるおそれを感じ、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりした事例のこと。医療事故などの情報を集めて分析している「日本医療機能評価機構」によると、去年1年間に全国529の医療機関から報告された「ヒヤリ・ハット」の事例は、前の年の2倍以上の56万24件で、過去最多となった。最も多かったのは薬の処方や投与に関するもので、全体の33%に当たる18万6000件余りだった。次いで、移動や食事など療養上の世話に関するものが、23%に当たる12万7000件余り。中には、名前が似ている薬を取り違えて処方したケースや、患者を車いすからベッドに移す際に転倒させたケースもあった。≫(8/30NHKニュースオンライン)

∇「1件の重大災害の陰には29件のかすり傷程度の軽災害があり、その陰には300件のけがはないがヒヤッとした体験がある」。これを「ハインリッヒの法則」または1:29:300の法則という。80年も前に50万件以上の労働災害から導き出された法則だ。この法則で逆算すれば、昨年度発生した重大医療ミスは約2000件/年、薬の処方や投与ミスで約600件あったことになる。実際の医療訴訟件数はここ数年約1000件/年である。NHKニュースでは、≪報告件数が増えたことについて、…医療機関側が事故を未然に防ぐために隠さず報告するようになった≫としているが、正直に100%隠さず報告されたとしたら、もっと凄い数の“医療ミス”が日常茶飯時なされていることになる。これは「どんな大きな事件の裏側にも必ずその淵源となる小さな禍種が渦巻いている」ことを示唆している。

∇例えば都市街では、落書きから凡く風紀の乱れなどの比較的些細な問題の累積が、深刻な犯罪の淵源・呼び水になっている。この現象は「ブロークンウィンドウズ理論」(「割れ窓理論」)と呼ばれる。アメリカの犯罪学者ジェームズ・Q・ウィルソンとジョージ・ケリングが発案したもので、「犯罪は無秩序の不可避的な結果」だとする理論だ。彼らは幾つかの実験を通して、スラム街の破壊・盗難のきっかけは駐車それ自体ではなく、無防備な状態(割れた窓)にしたまゝ放っておくことにある、と考えた。要するに「壊されたまゝ放置された窓ガラス」は、人々に誰も気にしていないし誰も管理していないと思わせる→しばらくしてまた他の窓が割れる→それがやがて無法状態の雰囲気を醸し出す→次々と向かいのビル、隣の通りへと伝わり、「このエリアでは何でも許される」という「空気」を伝播させる。かくして都市街では、落書きから凡く風紀の乱れへと“無法の連鎖”が拡大していく、というのである。

∇ケリング博士等の理論を市政に取り入れたのが元ニューヨーク市長のR・ジュリアーニ氏。彼は治安向上の最優先を公約に掲げ、「割れ窓理論」を取り入れ、警察官の大幅な増員をし、路上パトロール強化のほか、割れた窓や落書きを放置しないというような軽犯罪を次々に取り締まることを徹底した。その結果、1993年には約1900件あった殺人事件が、2001年には約600件まで減少したという。些細と思える学説に耳を傾けて街を改善していった市長が偉いともいえる。“医療ミス”に関しても、先ずは正直にミスを報告することだろう。そして、定期的に医療ミスを診療科別・原因別等に層別し、「QCの統計分析7つ道具」等を使って、医師・看護師・薬品メーカー等のチームで解析検討してみることではなかろうか。特に生命に影響を及ぼす、薬の処方・投与ミスは、まさに人為的不注意によるものである。薬の容器や袋を色別に識別分類したり、投与チェックシートを工夫したり、最重要事の複数チェック方式を導入したり、要するに「ヒヤリ・ハット」は、何が何でも防止しようという意識と、未然防止対策の励行で激減するはずである。──新首相及び閣僚は、「妄言のヒヤリ・ハット」の未然防止対策を十分に!