面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

人生の勝負

2009年01月25日 | Weblog
朝倉「仰々しいタイトルですが、95歳の老人との会話なので」

龍真「文字通り、勝ち負けだな。で、」

朝倉「自分は人生の勝負を避けて生きてきた、と、いうんです。勝負をしていたら、巨万の富と栄華もあっただろうが、とうの昔にぼろぼろになって首をくくっていたかも知れない、と。いずれにしても、今の人生はないと。しかし、それは後悔の言葉ではなく、他人事のような回顧なんです」

龍真「確か、彼の友人で巨億の金を手にしながら、最後は刑務所で亡くなったUさんという方がおられたな。40年ほど前の話だが、その上手い賭けにも乗らなかったんだ」

朝倉「終戦の一ヶ月前、鹿児島の海に鉄砲を投げ捨てて帰ってきちゃう人ですから」

龍真「余程、争いごとが嫌いなんだろうな」

朝倉「今でも覚えていますが、僕には賭けてくれていましたよ。高校時代にバンドを作ったとき、楽器代全部、ドラムからアンプから出してくれましたから」

龍真「それは、親バカって奴だよ」

朝倉「僕も、それを言ったんです。自分は勝負を避けてきたかもしれないけど、僕には随分賭けてくれたじゃないですか、って」

龍真「何て答えた?」

朝倉「結果がでないからまだ死ねない、と」

龍真「君は勝負慣れしすぎているからな」

朝倉「はあ?」

龍真「若い頃から小さな勝負をし過ぎて、負け方を覚えてしまったんだ。つまり、叩きのめされる前に余力を残して負けたり、突っ走れば大勝利なのに程ほどの勝ちで収めてきた。非常にずるい生き方だ。だから親父に、結果が出ていない、と、看破されているんだよ」

朝倉「そうでしたか…」

龍真「落ち込まなくてもいいよ。世の中の大半がそうして生きている。親父のような生き方も珍しいが、…待てよ、親父さん、君に勝負を賭けて欲しいんじゃないか?」

朝倉「死に切れないのは僕の勝負を見届けたいからだ、って言うのは、あながち冗談ではありませんね」

龍真「そうだよ!待っているんだ。君が全身にダイナマイトを巻きつけて突っこむのか、それとも、巨億の富を掴むのかを。だが、しかし、勝負慣れした君に、本当の真剣勝負が出来るかな?」

朝倉「極端ですね」

龍真「勝負は勝つか、負けるか、だよ」

朝倉「はい」

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