面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

祈詞

2007年04月23日 | Weblog
 旧家に生まれ八百年の家系を誇る素封家に嫁ぎ、親に仕え老いては子に従い、嫁いだ娘夫婦の災難に胸を痛めついには心を閉ざした千紗子叔母は、妹である僕の母が死んだ後、時折戻る正気の顔で、ミヤさんは何処に行ったのかと心細げに尋ねた。「叔母さんや僕の心に引っ越したんですよ」僕が答えると、安心したように微笑んで何度も頷いた。母よりずっとしっかり者だった叔母と、まともなら母の思いで話しに花を咲かせることが出来たはずなのにと、母の死同様悲しかったことを思い出す。
 あれから8年、その叔母の訃報を佐世保の姉が電話で伝えてきた。母の臨終にも立ち会わず芝居を打っていた僕が帰るはずもない事を知っている姉は、弔電と献花だけでも送れと忠告した。
 何故、優しい人が報われず、猛き人や狡猾な人が大手を振る世界しか僕たちは造れないのだろう。せめて物語で、銃も持てない優しい人に報いたいと思う。
 もしも、「想い」の世界が存在するなら、母も叔母も幼い仲良し姉妹に戻って永遠にしあわせでありますように。

 そうだ、母さん、あなたが応援していた岡島選手が、メジャーリーグのレッドソックスで大活躍しています。ゲートボールの名選手だったあなたと叔母様は、共にプロ野球がだいすきでしたね。「あの子はきっと大物になるよ」無名だった岡島選手の名前も僕はあなたから聞いて知りました。「想い」の世界が自由に空を翔けられるのなら、どうかニューヨークでボストンで、彼等のプレイを楽しんで下さい。そして、時々は僕の芝居も覗きにいらして下さいませ。
 2007年4月23日、午前1時42分。合掌。