金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【金融】ゼロ成長時代の創意工夫 EUの場合

2019-02-12 07:08:57 | 金融マーケット
 中間層を育成し切って、成長の源泉が消えるとどうなるか? というテーマに完全に符合する訳ではありませんが、EUの状況は非常に参考になると考えています。

 そもそもヨーロッパという地域は、産業革命が発生した場所であり、世界で最初に中間層を生んだ地域です。中間層をほぼ育て切ったあとは、その意味で、世界で最初に成長力が萎んでいった地域でもあります。EUという枠組みは、2つの大戦と冷戦を経験してきたヨーロッパ各国が、経済・通貨を共有しながら、政治的にも安全保障においても安定した社会を維持する狙いで発足したものです。
 地域全体の成長の源泉は乏しくとも、域内の資金や労働力が自由に行き来することで、効率的な経済成長を各国で共有できるように工夫された仕組みになっています。しかし、それでも問題のタネは徐々に蓄積されていくのです。

 地域全体として経済成長がプラスで、各国の差が多少あったとしても、すべての国がプラスになっていればまだ問題は小さい訳ですが、地域全体がほぼゼロ成長で、一部の国がプラス成長になると、マイナス成長の国が幾つか出てきてしまいます。生活レベルが自分のところだけ落ちていくというのは我慢ができないものですから、マイナス成長の地域でも借金により生活レベルを維持しようとします。その結果、その国の財政は火の車になっていきます。
 EUのリーダーたちは、そういう国に対して、財政を立て直せ、消費を我慢しろ、と指示を出します。何しろ通貨は共通ですから、どこかの地域だけが財政破綻したりしてもEU全体が影響を受けてしまうからです。しかし、生活レベルを落とせと言われて黙っている国はありませんので、かつてのギリシャのような騒ぎが起きますし、域内で一人勝ちしているドイツが恨みの対象になったりする訳です。

 やはり、全体がゼロ成長になると、EUのように工夫を凝らした連合体であっても、問題のタネはどんどん蓄積していってしまいます。メルケルらはそれが判っていたから、成長の源泉としての移民を積極的に受け入れていたのだと思います。
 ちなみに、移民受入れには副産物もあります。仏では一時期、出生率の低下が深刻となり、1.1台というレベルまで低下しましたが、移民受入れ政策の進展により、現在は2.0台まで回復しています。これから中間層を目指す移民の人たちは出生率も高いため、国勢にも好影響をもたらすのです。

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