デジタルウォークマンに入っている70年代歌謡を順番にずーっと聴いてきて、
この曲になると、ちょっとガクッとくる。
他の曲が、あちこちにプロの技がちりばめられていて、思わず聴き惚れてしまうのに比べて、
この曲だけが全てにおいて、なんだか素人臭いのだ。
あー、だっかっらっ、今夜だけわー、君を抱いていーたいー
あー、あっしったっのっ、今頃わー、ぼっくぅわ、きっしゃのなかー
1972年 作詞&作曲:財津和夫 歌:チューリップ
切ない歌詞のはずなのに、遠足の前の日の小学生みたいになんだか楽しそうに歌っている。
声は甘くていい声だけど。
切なさに耐えられなくて「わー」って吐き出す若者の心情を表現してみました!
というのなら素晴らしいけど、まあ、そうじゃないだろうなー。
編曲は超カンタン。
どのパートも元気良く、チャッチャッチャッチャと8分音符を刻んでいる。
ひねりなし。
コーラス。それぞれが自己主張しているので、ちと汚い。
というふうにスゴ技が何もない。
でも、この曲、息長く愛されてるよねー。
私の中でのこの曲のイメージは、
髪が長くて細くて軽い(中身が)ベルボトムのジーンズをはいた大学生の兄ちゃんが、
焚火のまわり、もしくは学園祭で歌うというもの。
まさに70年代の青春そのもの。
だからこの曲をカラオケなどで歌う人は、その頃のちょうど青春時代を送った人だろうと思いきや、そうでもなく、
若いアーティストにカバーされているし、今時の高校生にも支持されている。
10代後半から20代前半の世代に共通する普遍的な思いが、この歌詞に織り込まれているのだろう。
素人くさくて飾り気がないところも魅力かも。
たとえて言うなら、匠の技いっぱいの曲が高級レストランのコース料理だとしたら、
心の旅は理屈抜きでダイレクトに食欲に働きかけてくる「焼きそば」か。
ヘタに凝ったり、豪華な材料を使ったりすると逆に良さが失われる。
心の旅はそんな、歌の本質のような歌。