発行されたのは2009年の5月。
その後すぐに読んだのだが、これまで、何度も紹介しようとしつつ、なかなかできなかった。
紹介文を書くために内容を確認しようとするとあらためて読みふけってしまい、
そして号泣してしまう。
それも甘い涙ではなく、結構つらい涙。
『かけはし ハンセン病回復者との出会いから』 小川秀幸 著 近代文芸社 発行 1500円(税別)
この本は、社会情勢の見方の参考にするため時々覗いているジャーナリストの大谷昭宏さんのHPで紹介されていて、興味を持った。
その紹介文はこちら ↓
http://www.otani-office.com/scrap/0905.html
著者は三重テレビのニュースデスクで、三重県庁で30年にわたってハンセン病担当官を務めた高村忠雄さんという方の体験を通して、日本のハンセン病隔離政策の非情さを浮き彫りにしている。
ハンセン病と診断された人の家に出向いて、療養所に行くことを勧めたり、入所に同行したりするのが担当官の仕事。
こういう仕事の担当者は、かつて赤狩りをやった特高警察やナチスの親衛隊のような、血も涙もない、人間として何かが欠落したような人ばかりだろうと勝手に決め付けていたが、全く違った。
生木を裂くように家族から引き離される患者本人と家族のつらさは、それこそ筆舌に尽くせないのだが、その様子に心を痛めながら任務を遂行しなくてはならない担当官のつらさもまた、想像を絶する。
発病し、村でうわさになってしまったので、療養所に行く決心をした30代の女性を療養所に連れていく日の朝の回想は、本当に辛い。
女性には8歳の息子がおり、その子に黙って、朝の4時頃そっと家を出てきたのだが、途中で気付いた子どもが「お母ちゃん、お母ちゃん」と泣き叫びながら走って追いかけてきたのだ。
「お母ちゃんは用事に行くだけ、すんだらすぐ帰る」と言い聞かせても、納得せず泣きわめいて母親にしがみつく息子。息子は追いかけてきた父親が強引に連れて行き、母親はその場に泣き崩れる。
「何でこんなことをしなきゃいけないんだろうか。果たしてこのことが、小さな子どもさんの将来にどういう影響を及ぼすんだろうか。もう療養所へ連れて行くのをやめてこのまま家に帰ろうかと思ったことも度々ありました」(本文より)
一度でも辛すぎるこのようなことが、度々あったのだという。
最初は辛くて辞めたいと思った高村さんだが、患者とつきあい、頼りにされるうちに、一生つきあっていくことを決心する。
患者からの頼まれごとの中には、個人的な財産処分に関わるものの他、「病気への啓蒙」もあった。
遺伝病ではなく、感染力もそれほど強くないこと、効果的な治療薬もあることなどだ。
また、担当官たちは、治療薬の効果が出始めた頃、全国の担当者会議で厚生省に、在宅治療を提案している。
しかし、らい予防法を盾に一蹴された。
治療薬があってそれで治るのに、一つの差別法があったために不幸のどん底に落とされる人は、増え続けたのだ。
一市民のささやかな幸せを根こそぎ奪い去る人権侵害を推奨するのが差別法だ。
その恐ろしさと酷さが痛いほどわかると同時に、「法で決められているから」と思考停止にならず、差別や偏見が強い中でも人間としてすべきことを見据えて努力しつづけた高村さんたち担当官の生き方に頭が下がる。
読み進めるのがつらいが、文体はやわらかくて読みやすい。
ぜひ多くの人に読んでほしい。