未来技術の光と影。
SIYOU’s Chronicle




「演技派女優」という言葉がある。

「演技派」以外の女優の派閥を私は知らない。。。。

いや、「清純派女優」というのがあるな。

「清純派」という呼称は、褒め言葉なのだろうか?それとも「可愛いだけで演技はまだまだ」とのニュアンスを当たり障りなく伝えたい時に使われる言葉なのであろうか。

同様に「演技派」という言葉からは、「容姿はイマイチ」との印象を受けてしまう。

両方優れているものを、なんと呼んだら良いのか?

「肉体派女優」

・・・何でだよっ!!


満島ひかりが化粧品のCMと聞いて、ピンと来なかった。

VOGUEに載っていた写真は、ただ綺麗なだけで、満島であるかどうかすらも解らない。それでありながら、VOGUEと言う言葉のもつスタイリッシュな感じも欠落している。

きっと、満島のことを全く知らない者が撮影したのであろう。

それとも、満島をそれ以上美しく撮ることが出来ずに、屈服を恐れてあれやこれや手を入れているうちに、あんなことになってしまったのか。

その点、壇蜜や大久保佳代子は、本人以上の魅力を引き出し、さらにVOGUE感(?)にも満ち溢れた素敵な写真に仕上がっていた。

映画やドラマでは、演じているその役に相応しいメイクをしているので、満島がそれほどキメた化粧をしているのを見ることはあまりない。

何年か前に、日本アカデミー賞に登場した時の満島の化粧は、その、なんだ。。。ちょっと変だった。

小さい頃から、メイクさんにしてもらっていたので、自分でメイクをしたことがないのか?

と、思わせるほどであった。

だが、このマキアージュのCMは、予想を遥かに超える衝撃であった。
http://www.shiseido.co.jp/mq/cm/

いくら満島ひかりとはいえ、美しすぎる。

それに、このキャラ!っとした表情も素敵だ。

年齢不詳感もいい。

若干、ポージングにギコチなさが感じられるのがまた、初々しさを醸し出している。

素敵過ぎる。

しかし、だ。

CMとしてはどーなんだろ?

あの満島を見て、「わーっ。あたしもあんな風になってみたい。」と、思うのだろうか?

余りにもレベルが高すぎて、そんなこと、微塵も思いつかないのではないか?

ミュージカルに感動して、「私もミュージカルを演ってみたい!」と、思う人は結構居るだろうが、シルクド・ソレイユの舞台を観て、「私もこの舞台に立ってみたい!」と思う人は稀であろう。

んー、でもあれだな。

レベルの問題ではなく、歌は誰でも歌えるのでミュージカルなら出来そうな気がするけど、曲芸は出来ないからそう思わないだけなのか?

であれば、化粧は出来るから、あの「トゥルーリキッド ロングキープ UV」さえ買えば、私もあんな風になれるかもっ!!

と、思うのかもしれない。

なるほど、なるほど。


「あのー。。。」
「いらっしゃいませ。」
「『トゥルーリキッド ロングキープ UV』って、ありますか?」
「はいございます。プレゼント用でお探しでしょうか?」
「いえ、自分で使ってみたいのですが。」
「ご自分で?」
「えぇ。私もちょっと、綺麗になってみたいものですから。おかしいでしょうか?」
「いえ。最近は男性のお客様も、普通にいらっしゃいますよ。では、ちょっとお試しされてみますか?」
「えっ?いーんですか?」
「ええ。では、こちらにお座り頂けますでしょうか。」
「あのぉ、こんな感じにして欲しいんですが。」
「満島ひかりさんですね。」
「はい。」
「ファンなんですか?」
「ええ。長年ファンをしていますが、アカデミー賞の授賞式ですら変な化粧で堂々と現れる満島ひかりが、こんな素敵に見えるんなら、私でもなんとかなるのでは?と、思ったものですから。」
「お美しくなられたいのですね。解ります、解ります。」
「では、私もこのようになれるのでしょうか。」
「残念ながら、『トゥルーリキッド ロングキープ UV』を塗っただけで、このようになるのは難しいですね。」
「そうですか。。。やはり、フォトショとかで、原型が残らないほどに加工し捲ってるんでしょうか?」
「いえ、ファンデーションのCMですので、全体の色調はかなり落ち着かせてありますが、良く見ると、この道のトップクラスの方による、かなり手の込んだメイクが施されています。私の技量では、ちょっとここまでのレベルは難しいかと。」
「ではこれは、メイクさんの神の手のなせる技であり、別に『トゥルーリキッド ロングキープ UV』が素晴らしいワケではないのでしょうか?」
「いえ、それどころか、この『トゥルーリキッド ロングキープ UV』は『極薄なのに、毛穴もテカリも見せない、さらに13時間の化粧持続を実現した化粧なおし知らず』という優れものです。」
「メイク初体験の私には、今一ピンと来ませんが。」
「長年この仕事をしていますと、新商品の謳い文句は時として大げさで、特にファンデーションなどの基本的なものは、もうこれ以上技術開発の余地など残されていないものと、諦めておりました。ですがこの『トゥルーリキッド ロングキープ UV』を使ってみたところ、謳い文句同様、いや、それ以上の効果が実感でき、化粧品販売員としての私の使命を再覚醒させてくれたほどの出来栄えです。個人の感想ではありますが。」
「それほどのものであれば、私が使っても、街行く人が振り返るほどの効果が期待出来るのではありませんか?」
「ラピスラズリを含んだ絵具を使ったからと言って、誰もがフェルメールの様に描けるわけではない。ということでしょうか。そもそも、『演技派女優』の言葉が誤解を生んでいるようですが、満島ひかりさんほど、化粧品のモデルに相応しい人を、私は知りません。もう、正直に申し上げてしまいますと、今のお客様の顔立ちのままで、『トゥルーリキッド ロングキープ UV』のみご使用された場合、別の意味で街行く人が振り返ることになるのでは?と。」
「それはつまり、整形が必要だ。と、おっしゃってますか?」
「正直ついでに申し上げてしまいますと、お客様の場合、整形程度では難しいかと思われます。実は、先ほどから失礼を承知で大胆なことを申し上げておりますのには、理由があるんです。」
「理由?」
「はい。実は弊社では今、新開発された美容機器のモニターさんを募集しております。」
「美容機器。。。ですか?」
「STAP細胞理論と3Dプリンタ技術を組み合わせ、人体の表皮細胞を初期化し、任意の形状に再構築させる。というものです。」
「つまり、デジタルデータさえあれば、好きな形に顔を変えられる。と言うことですか?」
「さすがに男性の方は、飲み込みが早いですね。」
「もしそれが本当であれば、希望者はいくらでもいるんじゃないですか?」
「実はまだ臨床試験前の準極秘扱いの情報でして、公募はしておりません。その上性染色体の影響とかで、現時点では男性の方にしか効果が確認できていないようです。実は今回のCM契約の一環で、満島ひかりさんのお顔のデジタルデータを入手しております。『整形以上の施術を覚悟の上で、満島ひかりさんの顔になることをお望みの男性』という、極めて厳しい条件の、普通に考えれば絶対にありえない条件の男性を探していたところ、たまたまお客様が現れた。ということになります。」
「そんなこと、ありえるんでしょうか?」
「正直、私も驚いています。もう、これは、天命としか言い様がないのではないでしょうか?」
「それ、費用はどれくらいかかるんでしょうか?」
「もちろん無料です。弊社の化粧品セットと、このピンクのワンピースが買える程度の謝礼も出るようです。」
「んー、魅力的ではありますが、さすがに急には決められませんね。」
「では取りあえず、シミュレーションだけでもしてみせんか?」
「シミュレーション?」
「はい。お客様の3Dデータを取得させて頂き、それに満島ひかりさんのデータを合成して、いわゆる完成予想図を再現出来ます。それをご覧になってからまた、考えて頂いても良いのでは?と。」
「そのぐらいであれば、ちょと、やってみましょうか。」
「では、こちらにどうぞ。」

・・・

「お待たせ致しました。初めに申し上げておきますが、一つ制約がございまして、骨を加工することは出来ないんです。」
「ええ、それは、全然かまいません。何か含みのある言い方ですが?」
「はい。ですので、お客様の頭蓋骨が満島ひかりさんのデータに収まらない場合には、比率を保ったままで、全体を拡大する必要がありますので、若干、満島ひかりさんご本人とは、プロポーションが異なって来る場合がございます。」
「それは、しょうがないんじゃないですか?見せて頂けます?」
「では、どうぞ。」
「こっ、これは..」
「そうですね。どうやら満島さんは小顔の方のようで、若干お客様のお顔の方が大きく感じられるようです。」
「これの、どこが『若干』なんですかっ!?まるで『サイコジェニー』みたいになってますよね?」
「『サイコジェニー』?あぁ、あの顔が飛んでるやつですか??」
「アニメ版ではなく、原作コミック版に出て来る方ですよ。『サイコジェニー』で画像検索してみて下さい。」
「・・・あぁ、なるほど。。。」
「今、『なるほど』って、言いましたね?つまり、『あぁ、ほんとにそっくりだわ。』って、意味でしょう?」
「いや、これはこれで『小悪魔』的な魅力に溢れているように感じられますが。」
「どこがですかっ!『小悪魔』どころか『悪魔』そのものの禍々しさに満ち溢れてますよねっ!!」
「いえ、良く見て下さい。実は彼女、とても整った顔立ちをしていますよね?」
「だったら、なんです?」
「ええ、だったら彼女の時代に『トゥルーリキッド ロングキープ UV』があれば、彼女の人生もまた、もっと別の形の幸福なものになっていたかもしれません。そうは、思われませんか?」
「思わねーよ。」


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする