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未来技術の光と影。
SIYOU’s Chronicle




昔から嫌いな言葉がある。

映画における『長回し』だ。

一応お断りしておくが、以下の感想は私の悪意に満ちた偏見である。

「この映画の『長回し』のシーンがどーのこーの」と。

多分、一番初めに見た『長回し』のシーンのある映画の事前のレビューで「『長回し』のシーンがどーのこーの」と語られていて、実際に見たそのシーンが、なんか間延びしてて退屈だったのが、原体験になっているのだと思う。

『長回し』だから、なんだと言うのか?と。

以来、『長回し』のシーンがどーのこーのと語られている時は、
・それぐらいしか取り柄がない映画
・それぐらいしか話題を作れない監督が撮った映画
・それぐらいしか褒める点を見つけられなかった映画
・その程度の評論しか出来ない者のレビュー
・私は映画の撮影技法にまで詳しいと、映画通を気取っている者のレビュー
・自分の作品にこだわりがあると思われたい監督の自己満足
きりがないのでこの辺にしておこう。

『長回し』で検索して得られる、AIの回答
・映像に切れ目がなくなり、視聴者を釘付けにできる
・緊張感や臨場感のある映像に仕上げることができる
・独特の世界観を表現できる
・リアルタイム性の強調に効果的
のような効果を、実際の映画の『長回し』のシーンから受けたことがない。

ちょっと状況が変わったのは『1917 命をかけた伝令』を見てからだ。

当然のように『ワンカット(の様に見える)』映画を見る気はなかったのだが、同僚の「結構面白かったよ」の言葉に騙されてみようと思い、配信で見てみたところ「結構面白かった」。

確かに、『長回し』であることの、それなりの効果が得られている。

で、NETFLIXのドラマ「アドレセンス」だ。

どうやら「一話=本当にワンカット」で撮られていることを、Xのフィードで事前に知った。

すでに『長回し』に対するアレルギーも薄れていたので、ちょっと見てみることにした。

そこではじめて「なるほど、『長回し』ね」と、その効果を認めさせられた。

リアルタイム性とか緊張感とか臨場感ではない。いや、臨場感が近いかな。

何か非日常的なことに巻き込まれた時、現実感のないまま、思考停止の状態で、周りに流されて行動し、時が過ぎて行くことがある。

第一話、警察署と言う普段は入ったことのない所に入って行ってからの数分間、不安ながらもなんとも言えない「現実感のないまま流されて行く」あの感じが、ドラマを見ていて自分も追体験させられた。

自分がその場にいなければ感じることが出来ないはずの、その不穏な感覚は、臨場感を通り越している。

NETFLIXが「ワンカット」を前面に打ち出して作った作品だけのことはある。

ただ「ワンカット」にしたいがために、間延びしたり、シーンの繋ぎがぼんやりしたりなどにならないよう、「長回し」による弱点を十分熟知した者達が、いかにそれを回避するかに全力を投じている。

綿密に組み立てられたカメラワーク、人から人へと対象がテンポ良く移り変わる様は、ERを思い起こした。

それを、ちゃんと緩急付けながら、一時間ぶっ通しでやっている。

当然、様々な工夫が凝らされている。

でもやはりそうなると、ドラマの内容よりも「どうやって撮った?」が気になってしまうことがある。

一番気になったのは、第四話のホームセンターへ車で移動するシーンだ。


「引用元:Adolescence is the intensely emotional rollercoaster you'll want to ride again (Episode 4 review, ending explained)

カメラはまぁ、ボンネットなりバンパーなりに何らかの器具を付けて、それに載せているんだとは思う。

問題は「これ、役者さんが自分で運転してる?」だ。

安全の観点から、役者さんに自分で運転させない撮影方法が撮られていることが多い。との認識だ。

見た時には「うーん。何か細工がある様には見えない。一帯を交通規制して、ここは自分で運転しているんだろうな」と、納得させていた。

だが、答えはこれだった。

Making Of ADOLESCENCE - Best Of Behind The Scenes & Talk With Stephen Graham & Owen Cooper | Netflix


あっぱれ!「ワンカット」にするために、こんな何気ないショットであってもここまでやっている。

簡単な撮影ではローローダーと言う、車高の低いトレーラーに車を載せて撮影する。

The 2 Ways To Shoot Car Scenes


以下、これまで私が気になった、「どうやって撮ってる?」を集めてみた。

■2013年:インドネシア映画「ザ・レイド GOKUDO」

生身のアクションがウリのこの映画らしい撮影方法が、作品にマッチした仕上がりになっている。

The Raid 2 Shooting a Car Chase side by side


アマプラやネトフリで配信されていないようだが、ここのシーンの全編はここで見れる。

日本からも遠藤憲一、松田龍平、北村一輝が参加しており、そのキャスティングの「分かってる」感が好印象だったのだが、恐らく「ケガをさせてはいけない」との配慮から、完全にお客さん扱いだったのが残念だった。

ラストが明らかにパート3に続く終わり方だったので「こんどはアクションやらせてよ」と期待していたが、映画自体が作成されなかった。

■2016年:韓国映画「アシュラ

現時点で自分が一番好きなカーアクションシーンはこれだ。

韓国ノワールの映画の最高傑作だと思っている。

要するに、私の好みの、シリアスな内容に派手なアクションで血がドバドバと飛び交う映画だ。

いかに観客を喜ばせるか?に、アイデアも労力も惜しみなく注ぎ込む、不屈の精神の賜物である。

영화 '아수라' 비하인드 - 카체이싱 장면 제작 영상


■2024年3月:HNH特集ドラマ「高速を降りたら

今調べていて、一年前のドラマとのことだが、もっと前な気がする。

デジタルが故にTVドラマっぽいクリアな感じになっていたが、それはTVドラマなので、作品にマッチしている。

本ドラマ作品は全編の70%が走行している車両の車中シーンで構成されている。車中シーンをはじめ、パーキングエリアの駐車場、海を背景に堤防のシーンは「清澄白河BASE」内にあるバーチャルプロダクションスタジオで撮影が行われた。
ソニーPCLは東京から新潟間の走行風景を自社で開発したシネマカメラ2台を活用した360°カメラカーで撮影し、バーチャルプロダクションの背景として送出している。
日中でも、深夜のドライブシーンの撮影を成立させることで、安全且つ効率的な制作環境を実現した。

「引用元:NHK特集ドラマ「高速を降りたら」

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■長年に渡って積み重ねられて来た創意工夫の数々

How Car Chase Scenes Have Evolved Over 100 Years | Movies Insider | Insider


How to Film a Car Scene — Everything to Know About Car Cinematography


■2022年:「Versatile Media」社のデモ映像


もう、これだけあれば、他はいらないんじゃないかって位に、システム化が進んでいる。

Virtual Production Behind-The-Scenes | Robots, Unreal Engine & Crashing Cars


■Virtual Production で検索すると、最近の状況が良く分かる

Virtual Production Explained — Is This The End of the Green Screen?


Lux Machina | What Goes into Building an LED Virtual Production Volume - Extended Version


この様なことが可能になった背景には、コンピューターの処理能力の飛躍的な向上がある。

予め作成した映像を背景に投影するのではなく、カメラに取り付けられたマーカーを読み取り、カメラの位置や向きを検出し、それに合わせて3Dでモデリングされたデータから、リアルタイムに背景をレンダリングする。

あの大きさのLEDディスプレイが、いったい何ピクセルあるのか不明だが、カメラに追従してリアルタイムで背景が変わる技術には、目を見張るものがある。

現在放映中のNHK大河「べらぼう」でも、平面タイプのLEDディスプレイが使われている。

100カメ」でも取り上げていたが、吉原のあの長い大通りは、NHKのスタジオではなく、映画スタジオで撮影されている。

通りの半分以上はCGによる映像だが、見ていてい違和感がない。


「引用元:大河ドラマ『べらぼう』デザイン、美術制作、VPや展示関連業務

「これってCGかな?」ぐらいには思うが、「100カメ」の中で演出からの、背景に映っている大勢の町人の中から、そのシーンの主役2人の間に映っていてじゃまだからと、特定の一人を消して欲しいとの要望に、すぐに対応していた。

3Dモデルの中のその町人を、非表示に設定したのだと思う。

見えない所でも、思った以上に技術が進歩している。

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