新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

安全な輸血を作る:iPS細胞関連研究の発展を祈る

2013-03-22 22:00:38 | 医療

こんばんは

 

昨日、今日と比較的病棟などが忙しく大変でした。…というよりも、研究中心で生活している僕が病棟に出っ張る必要があるほど忙しい状態だった・・・というべきでしょうか。

ただ、周りの人間は異口同音に言います(病棟が移動になった前副師長と廊下ですれ違った時にも言われた)

「先生が病棟に行ったから、病棟が大変だったんだって?」

「逆です。病棟が大変だったから、僕が行ったんですよ」

 

まぁ、いいのですが。

 

さて、本日はまずこちらの記事を紹介します。

 あらゆる細胞になる能力を持つヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から赤血球を豊富に作る技術を、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)の中村幸夫細胞材料開発室長らが開発した。実用化されれば、少子高齢化で不足が懸念される輸血用血液の製造につながる可能性がある。21日に横浜市で始まった日本再生医療学会で発表した。

 中村さんらは、赤血球を次々と生み出す「赤血球前駆細胞」をマウスで既に作製しており、これをヒトiPS細胞に応用した。貧血治療に使われる薬「エリスロポエチン」の成分など血液増殖につながる物質を使って培養し、同様の前駆細胞の作製に成功した。

 この前駆細胞の集まりを赤血球にしようとすると、約25%がうまく変化するが、残りは不完全だったり、前駆細胞自身が死んでしまったりするという。前駆細胞自体はほぼ無限に増えるため、輸血に必要な量の赤血球は作れるが、コストを抑えるのにさらに技術改良が必要で、実用化には数年かかるという。

 iPS細胞から作った組織は、ヒトに移植すると異常な形で増殖してがん化する恐れがあるが、赤血球は他の細胞と違って核がなく、自分で増殖しないためその心配はない。ほぼ万人に輸血可能なO型Rhマイナスの赤血球を作って貯蔵すれば、ほかの血液型にも対応できるという。

 中村さんは「前駆細胞から赤血球を作製する効率を、現在の25%から100%に高めることが必要で、さらに研究を続けたい」と話している。【野田武】

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 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って、細菌の増殖を抑える特定の白血球を大量に培養することに、北海道大大学院の若尾宏准教授らの研究チームが成功した。薬が効かない院内感染や多剤耐性結核の治療法につながる可能性があるという。米科学誌セル・ステムセル電子版で22日発表した。
 研究チームは、結核菌の感染から体を守るヒト白血球の一種「マイト細胞」に着目。この白血球はそのままでは培養できないため、いったんiPS細胞に変えて大量に増やした上で、マイト細胞に分化させた。免疫不全のマウスに移植したところ、細菌の増殖を抑える効果が確認できたという。
 iPS細胞を作る際には遺伝子を傷つけない特殊なウイルスを使うため、移植後がんになる危険もないとしている。
 院内感染の原因となるバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)や多剤耐性結核菌など、薬剤では治療が難しい病気で治療に活用できるという。若尾准教授は「iPS細胞で新たな細胞治療を実現したい」と話している。

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マイトって何かと思ったらmucosal-associated invariant T cellということか。マイト細胞と書かれても何が何だかわからなかったw

http://www.hokudai.ac.jp/news/130322_pr_med.pdf

 

さて、輸血に関してですが本当にiPSから輸血用の血液が作れたらよいですね

 

実は輸血もわかっていないことがたくさんあります。有名なアレルギーの話もありますし、TRALI(輸血関連急性肺障害)などもあります。TRALIは基本的に献血者の血漿成分と患者さん側の関連があるといわれていますが(抗顆粒球抗体が原因と言われながらも、実際の抗体の保有頻度とTRALIの発生頻度に違いがあり、まだ分からないことばかりです)、こういう心配もなくなりますよね。

 

実はFFP(新鮮凍結血漿)や血小板のほうがTRALIの可能性は上がりそうなんですけど、呼吸困難の発生頻度は赤血球もそれなりに報告されているし…よくわからないですよね。

http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_shiryou080925-03.pdf

ちなみに上のpdfの一番下のあたりにも書いていますが、女性の血漿製剤は基本的に使われていないです(イギリスの話になっていますが、日本でも血小板は使われていますが、血漿は男性のみのようですよ)。そういう意味では血小板には血漿が必ず混入するんですよね。それがまた問題です。

妊娠中の女性の方も抗顆粒球抗体が出る可能性があるので献血はしてはいけないことになっています(ほかにもいろいろ理由はあると思いますが)

http://medicalfinder.jp/ejournal/1543102327.html

http://www.tokyo.bc.jrc.or.jp/current/index2.html

 

ということで、安全な輸血製剤を作るという意味では本当に素晴らしい話だと思います。

一番輸血をしているであろう血液内科医だから思うことかもしれませんが・・・。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

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それでは、また。

 

 

 

 

 

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4 コメント

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医学の進歩 (えがお)
2013-03-23 08:08:03
おはようございます。

輸血に対しての研究すごいですね。
3.11の時
福島方面の献血が足りなかったことを思い出しました。

報道でも ニュースでも

緊急 献血お願いします 血液が足りません
と いう事態を。

骨髄移植患者 交通事故で たくさんの輸血が必要な方々を助けてください

と ブログで発信するナースさんなど

血液の必要な方々がたくさんいることを知りました。

輸血しないと 治療できないかた 手術でたくさんの血液が必要な方々

あらたな医学の進歩に
マウスのあと 治験参加して
承認されたら

近い将来 多いの方々に 血液が届くこと
すばらしいですね

研究をされる先生には頭が下がるおもいです
日々の研究に感謝します。

研究しながら 診察室 病棟へいろいろ多忙な中
日々 お疲れです
病棟が忙しいのは 異口同音でしたが

人は十人十色です。

最近 桜の満開近い木々を見て写真を撮る毎日です。
同じ場所で同じ木を撮っていて ズームにしたり 桜全体を撮ったり 自然の美しさに感謝して 気持ちがリフレッシュ出来て、笑顔になれて幸せを感じてます。

桜の美しさにうっとりして カメラ持ちながら 深呼吸したり 鳥の鳴き声聞いたり
森林浴しています。

先生も 桜とお酒 最高です♪
返信する
Unknown (アンフェタミン)
2013-03-24 11:40:44
>えがおさん
こんにちは、コメントありがとうございます

献血は本当に足りていない状況です。特に血小板は期間が短く、人によっては「抗HLA抗体」などを産生し、限られた献血者の血小板しか有効でなくなる場合もあります。

そういうことを考えると本当に医学が進歩していくのは素晴らしい話だと思います

桜に関して、家の近くの桜が本日満開になりました。家のベランダから見てみたりしておりますがいいですよね。

時間があれば花見にもいきたいなぁと思う今日この頃です

また、コメントいただければと存じます
返信する
癌検診と献血 (イルカちゃん)
2013-04-18 20:06:38
はじめまして。

近藤誠先生の本を読みまして納得できるところとできないところがあったので、ネットで検索したところ、こちらにたどり着きました。

納得できなかったのは検診は意味がない、アメリカでもそうである、という部分です。
私は素人ながら、日経のメディカルオンラインなどで、アメリカなどの報告を以前読んでいて、たとえば前立腺がんでPSA検査は60歳以上で有効でそれより若いと偽陽性が多い、など読んでいたので、まったくがん検診が不要とはアメリカは言ってないはずで、誤解をまねく本ではないかなと思ったのです。
そこでこちらのブログでアンフェタミン先生の見解が見られて、私としては納得できました。
ありがとうございます。
医療はケースバイケースですよね。
あとは患者や家族の納得感が必要かと。


あと一点
私は2か月に1度、成分献血をしている30歳代女性です。
「女性の血漿製剤は基本的に使われていないです(イギリスの話になっていますが、日本でも血小板は使われていますが、血漿は男性のみのようですよ)。そういう意味では血小板には血漿が必ず混入するんですよね。それがまた問題です。」
とあるのを見て複雑な心境になりました。
成分献血は普段ほとんど血小板ですが、1,2度血漿献血になったことがありました。
女性の血漿は使用しないのですか?
その時の血漿献血は無駄になっちゃったのでしょうか?

とはいえ、血液が人工的に充分に製造できるまで献血は必要だと思いますので、これからも健康である限り貢献していきたいとは考えております。

長々失礼いたしました。
返信する
Unknown (アンフェタミン)
2013-04-19 22:13:29
>イルカちゃんさん
こんばんは、コメントありがとうござます

まず、がん検診に関してはまったくおっしゃっている通りだと思います。そして今言われていることも、医療(治療)の進歩や検査技術の進歩で変わっていくのだと思います。

以前も書きましたが早期発見しなくても治るようになれば検診はいらないのです。また、感度と特異度が十分にある検査で有病率が高い年代であれば行う価値はあります。検査のそういった性能が上がれば意味は変わってくると思います。

献血に関しては不安を与えてしまったようですいません。血小板に関しては日本は男女ともに当然行ておりますし、少量の血漿の混入が大きな影響があるかは不明です。少し僕も研究しようかと思っているくらいの状況です。

血漿の献血に関しては無駄なことを行うことはありません。男性のみを使用する方向性になったのはごく最近ですので、おそらく献血されたころは普通に使用していたのではないでしょうか?

いつも医療に貢献していただき、ありがとうございます。特に血小板は常に不足しておりますので、現場では本当に助かっていると思います。ありがとうございます。

また、コメントいただければと存じます
返信する

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