山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

水は澄みわたるいもりいもりをいだき

2011-04-28 15:32:44 | 文化・芸術
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―四方のたより― ふたり旅

この一月半ばかりで少々ストレスを溜め込んだらしい。
何処か、小さな旅をしたくなった。
ところが、連合い殿にはこの連休も思うにまかせずお休みとはいかぬらしい。
で、4月に4年生となった娘と、ふたり旅をすることになった。
もう10歳になるし、この二年で背丈は伸びに伸びて142㎝にまでなったものの、まだ幼さばかりが先立つ子どもだ。そんな娘と、もうすぐ67歳になる老親の、ふたり旅。
おそらく、今後とも、そんな機会は訪れないだろう。
彼女の、記憶に残る、旅をしよう。

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<日暦詩句>-25
  ≪根失い毬となってころげ
  風のなかに生きる沙漠の木≫
海をのんで
脳の皺かたどり 化石した鉱滓の陸
さらに液状の鉱滓-ノロ-
火の舌抜かれつつ散乱し
陽なく 陽炎もえる
嘔吐しきれぬトロッコを捨て 誰もいないが
製鉄所裏のそこには
いつも僕を抜けでた僕がいる
黄いろく風が吹く日
鎔鉱炉はスフィンクスに変り
頭をふると沙漠の木が走る
  -関根弘詩集「絵の宿題」所収「沙漠の木」より

―今月の購入本―
セルジュ・ラトゥーシュ「経済成長なき社会発展は可能か?」作品社
鎌田東二.他「モノ学の冒険」創元社
グスタフ・ルネ・ホッケ「迷宮としての世界-上-マニエリスム美術」岩波文庫
グスタフ・ルネ・ホッケ「迷宮としての世界-下-マニエリスム美術」岩波文庫
加藤隆「新約聖書の<たとえ>を解く」ちくま新書
佐藤泰志「海炭市叙景」小学館文庫

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―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-158
6月15日、同前。

午前は晴、午後は雨、これでとうやら本格的な梅雨日和となつた訳だ、空梅雨ではあるまいかと心配してゐた農夫の顔に安心と喜悦との表情が浮んでゐる、私も梅雨季は梅雨季らしい方を好いてゐる、行乞が出来ないので困ることは困るけれど。-略-
午前は松谷の松原を散歩した、一句も拾へなかつたが、石を一つ拾つた。
昨日今日はまことにきゆうきゆううつうつである、酒の代りにがぶがぶ茶を飲み、たびたび湯にはひつた。‥‥
-略-
ここに滞留してゐて、また家庭といふもののうるさいことを見たり聞いたりした、独居のさびしさは群棲のわずらはしさを超えてゐる。
このあたりは、ほんたうにどくだみが多い、どくだみの花が家をめぐり田をかこんで咲きつづいてゐる。
自殺した弟を追想して悲しかつた、彼に対してちつとも兄らしくなかつた自分を考へると、涙がとめどもなく出てくる、弟よ、兄を許してくれ。
昨日も今日も連句の本を読む、連句を味ふために。
どうやら「其中庵の記」が書けそうになつた。
だんだん心境が澄みわたることを感じる、あんまり澄んでもいけないが、近来あんまり濁つてゐた。
清澄、寂静、枯淡、さういふ世界が、東洋人乃至日本人の、つゐの棲家ではあるまいか-私のやうな人間には殊に-。
柿、栗、筍、雑木、雑草、杜鵑、河鹿、蜩、等々々。
いづれも閑寂の味はひである。
さみしい夜が、お隣の蓄音機によつて賑つた、唐人お吉、琵琶歌、そして浪花節だ、やつぱりおけさ節が一等よかつた。

※表題句の外、3句を記す

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Photo/川棚温泉松谷にある若宮神社


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冴える眼に虫のいろいろ

2011-04-28 13:41:52 | 文化・芸術
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-四方のたより- 選挙の公費負担と収支報告

なんと40日ぶりの言挙げとなってしまった。
例年3月は、いくつかの確定申告と身内の会社の決算準備に追われ、ブログの更新も滞りがちになるのだが、このたびはそんな事情に加えて、或る候補者の選挙-大阪府議選-にかかずらったために、とうとうこんな仕儀になってしまったのだ。
まず選挙準備に2週間もなかったのだから、破天荒もいいところ、寝る暇もあらばこそ、こんな無茶なスケジュールはない。おかげで告示日を迎えた朝、すでに極点に達したかと思うほどに疲労困憊だった。
急遽集めた僅か5人のウグイスたちと有償の街宣車用運転手、それに日によって増減甚だしいが延べ10人前後の初老ボランティア軍団-、といったところが9日間の選挙を支えた実働部隊だったのだが、そんな経験もまったく乏しいこの不揃いの兵士たちも、選挙戦後半ともなってくると逞しく当千の強者たちに変貌してくるのだから、この騒擾劇、ただバカバカしいだけの熱狂というわけでもない。ひと握りの素人集団ながら、よくぞここまで闘えり、と彼らに賛辞を捧げてもよい9日間ではあった、と思う。
一炊の夢、闘いは終えても、後始末の務めは残る。収支報告などという事務は、精確を期そうとすればするほどに煩わしさは増す。
100円、200円の少額のレシートから数十万の額が記された大小200枚ほどに及ぶ領収書を精査仕訳し、最終的に仕上がったその報告書は、領収書写しの綴りも含め、計48頁に及ぶ厚手のものとなった。
だが、それにしても、公職選挙法というもの、どうせ政治家たちのご都合が端々に込められた自家撞着だらけのものなのだろうが、こんな奇妙奇天烈なものはない。
公営選挙と称され、選挙運動のための自動車や推薦葉書、選挙用ポスターなど、選挙費用の一部公費負担制度が導入されたのは、小選挙区・比例代表制へと変わった1994-H4-年の改正公職選挙法からだが、今に至るもこの公費負担制度と収支報告のありようが、いったいどういう論理で貫かれているのか、面食らってしまうばかりなのだ。
このたび私が関わった候補者は、街宣車に関する費用を公費負担の請求せずとしたのだが、この姿勢が却って収支報告を複雑なものにする羽目と相成った。
たとえば簡単な例で街宣車のガソリン代、この費用は狭い選挙区内を毎日走り回ったとてほぼ1万円前後にしか過ぎないが、この僅かな額を公費負担とするには、ガソリンスタンドの会社と所定の契約書を交わし、尚かつ請求は売り手側のほうからなされなければならないという、彼らにとっては面倒なばかりの業者泣かせの制度だ。
これを公費負担とせず、給油のつど現金で払ったのだから、私は当然の如くこれを収支報告に記載した。ところが選管の職員に言わせると、公選法第159条にこの計上は禁止されているから削除せよ、と曰う。
さらには、当方は街宣車をその看板や拡声器と込みでレンタルし、これを公費請求もしなかったものだから、その全額を計上していたのだが、公費負担の対象とされている車両のレンタル料分は記載するな、と仰る。
要するに、公費負担の対象となっているモノについては、此方がこれを請求せず、たとえ自弁で対処したとしても収支報告に計上してはならないのだ。
ところが他方で、ポスターの作成・印刷代については、公費負担であるのに、その単価・枚数などの詳細を記載しなければならないなど真逆の規定があるから、当然、収支報告なるものはバランスを欠き、選挙の実体を映すものとはならない。
抑も公費負担のものもすべて収支報告に明示・記載されるような制度であってこそ、選挙の実体を映すガラス張りの収支報告となるのだが、公選法はまったくそのようにはなっておらず、此方が精確を期せば期すほど、奇妙な報告書とならざるをえないのだ。

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<日暦詩句>-24
祈らうとひざまづくと
背後から襟がみ掴まれ蹴つとばされて
俺は火口の一つにつきおとされた
耳もとを過ぎる熱気が夢の膜を払いのけ
俺は落下と速度の悲しみに気付き始める
青い煙のなかを落ちてゆく

不安定な楕円
俺はいま位置をもたない
  -山本太郎詩集「かるちえ・じやぽね」-昭和29年刊-より

―3月の購入本―
亀井孝編「日本語の歴史-7-世界のなかの日本語」平凡社ライブラリー
茨木のり子集「言の葉-2-」ちくま文庫
茨木のり子集「言の葉-3-」ちくま文庫
スラヴォイ・ジジェク「ポストモダンの共産主義-はじめは悲劇として、二度目は笑劇として-」ちくま新書
松岡和子「深読みシェイクスピア」新潮選書
結城浩「数学ガール-乱択アルゴリズム」Softbank
小島寛之「キュートな数学名作問題集」ちくまプリマー新書
M.ワトキンス「公式の世界」創元社

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―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-157
6月14日、同前。

晴、朝の野べから青草を貰つてきて活ける、おばさんから貰つて活けてをいた花は、すまないけれど、あまり感じよくないから。
青草はよい、葉に葉をかさねて、いきいきとしてゐる。
来信数通、みんなうれしいたよりであるが、殊に酒壺洞君、緑平老、井師からの手紙はうれしかつた。
返事を書かうと思つても端書がない、切手を買ふ銭がない、緑平老への返事は急ぐので、やうやくとつておきの端書一枚を見つけて、さつそく書いた。
-略- 嚢中まさに一銭銅貨一つ、読書にも倦いたし、気分も落ちつかないので、楠の森見物に出かける、天然記念保護物に指定されてあるだけに、ずゐぶんの老大樹である、根元に大内義隆の愛馬を埋葬したといふので、馬霊神ともいふ、ぢつと眺めてゐると尊敬と親愛とが湧いてくる。
往復二里あまり、歩いてよかつた、気分が一新された、やつぱり私には「歩くこと」が「救ひ」であるのだ。
-略- けふもサケナシデーだつた、いやナツシングデーだつた、時々、ちよいと一杯やりたいなあと思つた、私は凡夫、しかも下下の下だ、胸中未穏在、それは仕方がない、酒になれ、酒になれ通身アルコールとなりきれば、それはそれでまたよろしいのだが、そこまでは達しえない、咄、撞酒糟漢め。
夕方また歩いた、たゞ歩いた。
自から嘲る気分から、自からあはれみ自からいたはる気分へうつりつゝある私となつた、さて、この次はどんな私になるだらうか。
-略-

※表題句の外、15句を記す

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Photo/川棚温泉大楠の森


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