Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

愛聴盤ひとことレビュー(23)

2009年01月05日 | レビュー
■モーツァルト:クラリネット協奏曲/プリンツ、ミュンヒンガー、VPO

モーツァルトのクラリネット協奏曲は、彼がその早すぎる晩年に遺したあまりにも美しい宝物。この純白の境地を伝え得ている録音は決して多くない。

僕が愛してやまないのは、アルフレート・プリンツがカール・ミュンヒンガー指揮ウィーンフィルと共演した録音である。

この演奏の第一の大きな特徴は、オーケストラの醸し出している独特の空気である。宗教曲で有名な指揮者カール・ミュンヒンガーは、一見地味な存在だが、その実力と音楽性はフルトヴェングラーの折り紙つきで、自身の後継者として一目置かれていたという。彼の音楽の特質は、室内楽のようなあたたかく血の通ったひびきと、隅々まで神経の行き届いた丁寧さ、そして真摯で禁欲的なまっすぐなアプローチから滲み出る求道的なオーラ。このモーツァルトでも、このうえなく真摯で丁寧な指揮振りで、モーツァルトの書いた音符のひとつひとつを、丹精こめて楷書で描き出していく、その生真面目すぎるほどの風情がこの曲にぴったりなのだ。音符を丹念に扱うほど、そこからえもいわれぬ哀しみがにじみ出てくる。

ミュンヒンガーはウィーンフィルにもしばしば客演していたが、これを聴くと、彼がウィーンフィルのメンバー達にいかに深い敬意と共感をもって迎えられていたかがよく分かる。ここに聴かれるオーケストラの響きには、呼吸を一にした、やや窮屈さをも感じさせるほどの一体感があり、それが異様なほどの透明な美しさにつながっている。そして、あくまで、美しくノーブルな響きを保ちながらも、心のこもった密度の深さを感じさせるのは、ミュンヒンガーの強い求心力の証である。

ソリストのアルフレート・プリンツは、当時のウィーンフィルの首席奏者で、レオポルド・ウラッハの弟子。ウラッハの淡い音色とは対照的な、硬質で明るい音色を持ち、伸びやかに旋律を歌い上げている。ウラッハの淡々とした歌い口からにじみ出るしみじみとした情緒も絶品だが、僕は、まばゆいばかりの光に満ちあふれた天国を感じさせてくれるプリンツの演奏に惹かれる。ミュンヒンガーとウィーンフィルのバックとの融合も絶妙であり、かっちりとして、隅々まで心のこもったウィーンフィルの響きが、過ぎ去ってゆく時を慈しむような趣を醸し出す。この演奏は、「あまりにも美しい音楽(時間)が過ぎていってしまう」哀しみが感じられる点で、稀有の魅力を放っているのである。



モーツァルト : フルートとハープのための協奏曲、クラリネット協奏曲
トリップ(ベルナー) プリンツ(アルフレート) ミュンヒンガー(カール)

ポリドール 1994-04-22
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