Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

en sourdine ひそやかに

2016年02月12日 | コンサート
Calmes dans le demi-jour
Que les branches hautes font,
Pénétrons bien notre amour
De ce silence profond.
―En sourdine(Paul Verlaine)

高い枝々の醸し出す薄明かりに
ひそやかに身を沈めて
ぼくたちの恋にしみこませよう
この深い沈黙を。
―ひそやかに(ヴェルレーヌ)より

 本日はEn sourdineにご来場いただきありがとうございます。
 アトリエミストラルには、1905年製のプレイエルがあります。こよなく繊細な楽器であり、今回は、このピアノで奏でてみたい小品を集めてみました。いずれも静かなる余韻の美しさにそっと耳をそばだてたくなる音楽です。En sourdine ひそやかに というヴェルレーヌの美しい詩があり、ドビュッシー、フォーレらがこぞって曲を付けていますが、この詩のタイトルを今日の公演に据えてみました。
 19世紀、ピアノの発展とともに、ペダルで音を溶け合わせ、夢幻的な音響効果を創り出すことができるようになりました。ショパンはペダルの達人にしてピアノによる「響き」の先駆者で、ジョン・フィールドが始めた夜想曲(ノクターン)というジャンルを魅惑的な芸術に高めました。その後、フランスでは、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、サティ、プーランクらが、ドイツにおける巨大管弦楽の潮流から背を向けるように、精緻な音の素描を追求しました。ドビュッシーの前奏曲集では、タイトルが曲頭ではなく各曲の終わりの余白に書き込まれており、聴き手の想像力にゆだねる「ほのめかしの美学」が体現されています。西隣のスペインでも、フランスのピアニズムから多くを吸収しつつ、それを古来の踊りの音楽や、メリスマ(装飾的な母音唱)を伴うスペイン的な歌いまわしと融合させ、アルベニス、グラナドスらが、魅力的なピアノ音楽を生み出しました。グラナドスの「ゴイェスカス」はゴヤの絵画に触発された官能美あふれる音画。フェデリコ・モンポウの瞑想的な音楽は、ひそやかに、魂の奥深くへと沈みゆきます。そして、エストニアのアルヴォ・ペルトは、最も簡素でストイックな筆致で孤高の音世界を創り出しました。
 音の粒子が空気中に放たれ、倍音とともに混じり合い、彼方へと消えてゆく―その響きの妙と微かな余韻の行方に耳を澄ませていると、深海に引き込まれてゆくような感覚に襲われます。かのショパンの愛したフランスの名器プレイエルは、そんな「静寂の神秘」に浸れる絶好の楽器です。この楽器との一期一会のコンサート、どうぞ、最後までごゆっくりお楽しみいただけましたら幸いです。

内藤 晃


2月13日(土)高崎アトリエミストラル

Programme

F.プーランク:夜想曲第1番 ハ長調FP.56-1
E.サティ:夜想曲第3番
F.プーランク:即興曲第15番 ハ短調「エディット・ピアフ讃」
G.フォーレ:夜想曲第3番 変イ長調Op.33-3
F.モンポウ:湖(「風景」より)/歌と踊り第1番/庭の乙女たち(「子どもの情景」より)
M.ラヴェル:悲しい鳥(「鏡」より)
E.グラナドス:嘆き、またはマハと夜うぐいす(「ゴイェスカス」より)
I.アルベニス:プレガリア(祈り)T.86D

A.ペルト:アリーナのために
C.ドビュッシー:
前奏曲集第1巻より VI.雪の上の足跡
前奏曲集第2巻より V.ヒースの荒野/VII.月の光のふりそそぐテラス/VIII.水の精
F.ショパン:夜想曲第18番 ホ長調 Op.62-2/舟歌 嬰ヘ長調 Op.60


フェデリコ・モンポウへのオマージュ

2016年02月12日 | コンサート
フェデリコ・モンポウへのオマージュ



 フェデリコ・モンポウの音楽の深淵に分け入ろうとするとき、いつしか現世的な感情から離れ、無心へといざなわれてゆくような気がする。静けさはしばしば死の予感と隣り合わせだが、フェデリコの音楽に響きわたる孤独は、どこまでも透明で、不思議なあたたかさがある。フェデリコは言う、「幸せの一瞬をおぼえているとしても、すべての記憶は、さびしさである」。これは、孤独と瞑想を愛する吟遊詩人が、心のおもむくままに紡いだ音楽なのだ。
 フェデリコが生まれたのはスペイン・カタルーニャ地方。独自の言語と文化の息づく地だ。母方の祖父は鐘を鋳造する職人で、フェデリコ少年は、工場に鳴り響く鐘の神秘的な響きに魅せられた。この残像は、フェデリコ特有の付加和音の響きに溶け込み、内省の旅を促す端緒となる。静謐な余韻の行方に耳をそばだてると、意識はその軌跡の遥か彼方を浮遊し、潜在意識の奥深くへと沈潜してゆく。
 フェデリコの音楽は同調を求めては来ない。彼は、自らの音楽についてこう語った。「この音楽は、ひそやかです。なぜならば、これを聴き取るのは内面だからです。自制と慎重。その感動は秘密のものであり、われわれの孤独の冷たい円天井のもとにこだましてのみ、音響の形をとるのです。それは、空間の数ミリ先までより遠く響き届くことを求められはしないが、われわれの魂の奥深く浸透することは、強く求められるのです。」こうして、音楽は、私たちの心の深奥を映し出す鏡となる。今日は、大勢の聴衆のひとりとしてではなく、あなたという個人として、そっとフェデリコの内密な音楽に向き合っていただきたい。
静かな夜、
黎明の夜、
ひそやかな音楽、
響きわたる孤独、
憩わせ、愛情をはぐくむ夕食
※十字架のヨハネ(16世紀スペインの神秘主義詩人・カトリック司祭)の詩「魂とその伴侶キリストの間の霊的な歌」より。フェデリコ・モンポウは、この詩にひときわ強い共感を寄せていた。

内藤 晃


「フェデリコ・モンポウの世界」
1月29日(金)東音ホール
1月31日(日)entracte自由が丘サロン

【新譜】川岸秀樹さん作品集 11 songs pianoworks

2016年02月03日 | お知らせ
札幌でお世話になっている調律師の川岸秀樹さん。とても品のある素敵な音をつくってくださり、いつも信頼させていただいています。


実は作曲家でもあり、打ち込みのCMの音楽などを多数手がけていらっしゃいます。

おなじみのTV番組「水曜どうでしょう」のオープニングテーマも川岸さんの作品です。


このたび、川岸さんにお声掛けいただき、オリジナルのアルバム制作に協力させていただきました!



演奏者は、新海節さん、木村ゆうさんと、内藤の3人で、内藤は、aozora、noviembre、haru、Laberintoの4曲を演奏しています。
aozora(内藤演奏)がこちらで試聴できます。
ちなみに、ピアノは1896年のベヒシュタイン(貴重!)です。

ご興味ありましたら、officekumo@gmail.com にご一報ください。
定価税込1,500円+送料で、お送りいたします。