Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

平山ピアノにて

2010年12月24日 | 演奏記録
12/19(日)、水戸の平山ピアノさんで、複数のピアノを用いたショパンコンサートを行ないました。
どのピアノが最も印象深かったか、お客さまにアンケートをとったところ、平山さんがリビルドされた1920年代のベヒシュタインを挙げる方が最多でした。これは、本当に素朴ですっきりとした音色のピアノで、デュプレックスやカポダストロ・バーなど、現在のほとんどのピアノにある、響きを増幅する「お化粧」装置がありません。華やかなピアノの音に鳴らされた耳にとって、お化粧のない「すっぴん」のピアノはかえって新鮮に響いたのではないでしょうか。

ショパンのハーフタッチ

2010年12月07日 | オピニオン


12/4(土)、滋賀県守山市のスティマーザールでショパンを弾かせていただきました。企画してくださった調律師の上野さん(当日のすばらしい調律も!)、コンサート運営に尽力してくださった主催のみらいもりやま21の皆さま、ありがとうございました。みらいもりやま21による当日のレポートはこちらです(写真も拝借させていただきました!)。

このコンサートでは、特別企画として、上野さんが修復・所有されている、1856年製のプレイエルでも2曲だけ演奏させていただきました。ショパンが愛用していたプレイエルと同じモデルの貴重な楽器です。



19世紀、フランスのピアノメーカー、エラールが、ダブルエスケープメントという仕組みを発明しました。これにより、アクションの動きが俊敏になり、ピアノの発展がますます促されました。リストは機能性に優れたエラールを好んで弾きましたが、ショパンは、アクションの動きは鈍いけれど、そのぶん指との一体感があり、ニュアンスを繊細にコントロールできるプレイエルを好みました。

今回プレイエルを弾いてみて実感したのですが、旧型のアクションでは、かっちりと深く打鍵するほど戻りが遅くなり、そのようなタッチでは、物理的に弾けない部分が多々出てきます。ですから、ショパンは、特に速いパッセージではハーフタッチを駆使して柔らかい音色を響かせていたに違いありません(そのほうが戻りが早くて済みます)。途中までの打鍵で音をコントロールしていくハーフタッチは、ともすると音が出ないリスクを伴う高度な技術ですが、鍵盤の底で発生するカチッとした「下部雑音」を含まないので、より柔らかくピュアな音色になります。

演奏者は、鍵盤を触ることで、鍵盤の先についているハンマーを遠隔操作し、音を出しています。ですから、演奏者は、鍵盤を操作しながら、ハンマーと弦を意識できるようになるべきだと思っています。そして、ハンマーの当たり方や離れ方で音色が変わるので、どんなタッチをすれば、ハンマーが弦にどんな風に当たり、どんな音色が生まれるのかを掴まなければいけません。生徒には、ハンマーを見ながら練習するように言っています。弦楽器と同じく、弦をいかに豊かに振動させられるかが鍵ですが、その点、ピアノは、弦までの距離が遠く、鍵盤機構を介した遠隔操作になるので、弦との直接的な一体感が無いぶん、音色のコントロールが非常に難しい楽器と言えるかもしれません。