Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

楽譜を読むチカラ

2013年01月18日 | レビュー
 久々に、生徒さんや後輩たちにお勧めしたい本が新たに1冊加わりました。

 ★ゲルハルト・マンテル著(久保田慶一訳)『楽譜を読むチカラ』(音楽之友社)

楽譜を読むチカラ楽譜を読むチカラ
ゲルハルト・マンテル 久保田 慶一

音楽之友社 2011-11-12

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 著者はチェリストですが、よくある固定的な楽曲分析(アナリーゼ)ではなく、演奏の上で、どう弾いたら聴き手にどんな印象を与えるか、という点まで踏み込みながら、複数の表現の可能性について考察されているのがすばらしい。適切な譜例を用いながら、リズム、ディナーミク、アーティキュレーション、テンポなど、各パラメーターごとに一般化された形で提案されているので、譜例を追いながら読み進めていくうちに、「楽譜をどう読んでどう表現するのか」という演奏上の「引き出し」がみごとに整理されていきます。
 例えば、「テンポ」の章ひとつとっても、音楽のつなぎ目(場面転換)でどうするか、「小節線で突然テンポを変化させる」「つなぎ目でリタルダンドして最後に元のテンポに戻す」「つなぎ目でリタルダンドしてから急にテンポを変化させる」「つなぎ目でアッチェレランドして速いテンポに移る」「リタルダンドして遅いテンポに移る」「リタルダンドを先取りしてゆっくりする」「リタルダンドしてからテンポを加速する」「つなぎ目でリタルダンドしない」「つなぎ目の前でリタルダンドして新しいテンポに移る」…等々、さまざまな可能性が示され、それぞれの表現について、聴き手の印象に与える効果が考察されています。このような「演奏のあり方」「演奏上の語法」について分かりやすくまとめられた本はなかなか無いのではないでしょうか。何となく経験則として感得されていることが明快に言語化されており、指導者の先生方にもお勧めしたいと思います。

著者まえがきより引用
 この本ではいろいろな考察をしていきますが、「音楽史やスタイルの視点からどう演奏すべきか」という、とても真っ当な問いかけなどはしません。「まずは自分自身が成長するために、そして次に自分が感じた音楽を聴衆に伝えるために、何をしなくてはならないのか」ということを問いかけるのが、この本のテーマなのです。どうしたら聴衆の関心をひき、彼らを熱狂させ、魅了できるのかです。そして、どうしたらそれができるのかを最初に問うのではなく、そうなるために自分には何ができるのかを、この本ではまず問うてもらいます。

ピアノの状態と椅子の高さ

2013年01月17日 | オピニオン


最近、複数の出演者によるジョイントコンサートに出演する機会が続けてありました。このようなコンサートでは、一人のリサイタルとは異なり、調律師さんへの調整のリクエストができませんし、本番のピアノでの当日リハーサルが数分しかできないこともあります。今日は、そんな時に私が数分間で何をしているかをブログでご紹介してみたいと思います。

単刀直入に申し上げると、「椅子の高さを決める」…これに尽きます。ピアノの状態によって、自分の弾き方にフィットする椅子の高さは変動するものなのです。先日のモンポウのコンサートで、あるお客さまから、「椅子だいぶ低くされましたね」と声を掛けていただいたのですが、実は、会場のピアノへの対策だったのでした。

鍵盤を押し下げていくと、指にかっくんと抵抗を感じさせるポイントがあります(アフタータッチ)。そこですでにハンマーは弦に到達しており、アフタータッチは言わば鍵盤の「アソビ」の部分になります。鍵盤の底を狙った深い打鍵をすると、下部雑音を伴って輪郭のくっきりした音色になり、アフタータッチのポイントを狙ってやや浅い打鍵をすると、下部雑音を伴わない淡い音色になります。

まず、このアフタータッチの量が大きな問題で、例えば、アフタータッチの少ない調整のピアノで普段と同じように弾こうとすると、淡い(浅い)タッチのところで音がかすれたり抜けたりしてしまうということが起こり得ます。この現象への対策として、例えば、アフタータッチの少ないピアノでは、椅子を少し低くして、もっと鍵盤の底ギリギリの辺りでコントロールを試みるというのも工夫のひとつです。

また、鍵盤のタッチ感の「重さ」(実際に重さが変わっているのではなく、ハンマーと弦の距離[打弦距離]や、そのほか様々なアクション調整上の要素によって、重く感じられたり軽く感じられたりします)も、椅子の高さを決めるうえで大事なポイントです。椅子を高くするほど、重力に助けられ、鍵盤自体のタッチ感は軽く感じられると思います。例えば、指に感じるタッチ感が軽すぎる状態で弾くと、人によっては暴走や転倒(笑)のもとになりかねません。ピアノの状態を的確に診断したうえで、そのピアノと自分の弾き方に丁度良くフィットする椅子の高さを見つけることが肝要なのです。

1月13日(日) モンポウ祭 at 雑司ケ谷音楽堂

2013年01月13日 | コンサート


1月13日(日)に、雑司が谷音楽堂にて、知る人ぞ知るスペイン(カタルーニャ)の素敵な作曲家、フェデリコ・モンポウのピアノ音楽を楽しむ長大なイベントが催され、プロ・アマ問わず数多くのピアニストが出演します。私も、モンポウ・ファンの1人で、これまでも好んで弾いてきましたが、今回、企画の笹倉さんから熱心にゲスト出演のお誘いをいただき、モンポウの珍しい小品「橋(ムンジュイックの橋)」でトリを務めさせていただきます。詳細はこちら。出演時間など詳しいこと分かりましたら追って掲載いたします。]
私の出演はトリで18:00過ぎ頃の予定です(1/3追記)
なお、当作品は楽譜が日の目を見たばかりであり、調べた限りでは、日本初演となる可能性があります。

プログラムノート
私の大好きな作曲家、モンポウの音楽を味わう集いで、ゲストにお招きいただきましてありがとうございます。静寂を慈しみ、余韻から立ちのぼる微かな倍音の重なり合いに耳を澄ませる、モンポウの限りなく繊細な音楽世界は、こっそりと一人だけで味わっていたい気もしますが、今日、同好の士である皆さんとともに浸る喜びも、おそらく格別のものになると思います。
今日弾かせていただく「ムンジュイックの橋 El Pont de Montjuic」(1941-47)は、モンポウが、のちに妻となる恋人カルメン・ブラーボとの「初めての散歩の思い出に」作曲したピアノ小品(生前未出版)です。モンポウとしてはロマンティックな作品ですが、その哀愁漂う旋律は一度聴いたら忘れがたいものです。当初モンポウはこの曲を「風景 Paisatges」の第2曲として構想していましたが、結局「湖 El Llac」に差し替えて破棄してしまいました。のちに、カザルス生誕100年に際して、モンポウはこの楽想を転用し、「橋 El Pont(チェロとピアノのための)」(1976)として発表しました。ピアノ版は、2010年にようやく楽譜が出たばかりで、私の調べた限りでは、今回の演奏が日本初演になるのではないかと思います。(内藤 晃)

1月6日(日) ニューイヤーコンサート at 横浜リリスホール

2013年01月06日 | コンサート
2013年1月6日(日)19:00より、横浜リリスホール(JR本郷台駅前)にて開催されるNew Year Concertにて、出演者の1人として演奏いたします。
私の出演は最後から2番目(恐らく20:30頃~)で、演目は J.S.バッハ:フランス組曲第3番 ロ短調 BWV814(全曲)になります。また、高校時代から暫く来日の度に親しくレッスンしていただいていたすばらしいピアニスト、David Korevaar氏も、最後にゲスト出演されます(フランク:プレリュード、コラールとフーガ)。Korevaar氏の招聘元の主催です。
チラシはこちら。チケット取り置きになりますので、おみえになる方は、こちらのフォームに「1月6日チケット希望」と「枚数」を入力して直接お申込みいただけましたら幸いです。よろしくお願い申し上げます。