【検証 万博の現在地】:<5>ワクワク 伝わる広報は…機運醸成 秋までが勝負
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【検証 万博の現在地】:<5>ワクワク 伝わる広報は…機運醸成 秋までが勝負
「みんなで命について考える機会になる」。日本国際博覧会協会(万博協会)副事務総長の高科淳(58)は3月25日、佐賀県武雄市を訪れ、市長の小松政(47)に2025年大阪・関西万博の意義を説明した。
高科が、大屋根(リング)の写真などを見せると、小松は「開幕前から一緒に何かしましょう」と応えた。
広報部門を束ねる高科は、この1年間で沖縄から青森まで約20の自治体を訪問して万博をPRしてきた。
ところが、会場建設費の増額などを受け、万博に行きたいと考える人の割合は減っている。三菱総合研究所の意識調査では、23年10月の来場意向は26・9%と22年10月の31%と比べて4・1ポイント低下した。
危機感を抱いた高科は今年3月、「本格的に全国行脚する」と宣言し、アポ入れに注力するよう事務方に指示した。人員が足りず渋られたが、「直接話せば好意的な反応が返ってくる」とし、他の幹部も含めて地道な訪問を続けるつもりだ。
開幕半年前の10月から、販売中の入場券について来場日とパビリオンの予約が始まる。高科は「万博に行くイメージが膨らみ販売に弾みがつく」として秋までを勝負の時と位置づける。
機運醸成の打開策はあるのか。万博協会が今月4日、打ち出した行動計画の柱の一つが、ターゲット層を明確化した情報発信だ。
若者には、パビリオンの展示など具体性のある内容を短い動画にまとめてSNSで発信する。高齢者には、1970年大阪万博を経験した人たちを通じ、日本の文化や技術を紹介することを検討している。
ただし、肝心の内容の公表はパビリオン任せとなっている。万博協会事務総長の石毛博行(73)は「各パビリオンはタイミングを計っており、その魅力はまだ全然、お伝えできていない」と話す。
行政広報に詳しい東海大客員教授の河井孝仁は「戦略なき広報だ。テーマ『いのち輝く未来社会のデザイン』が一体何なのかが伝わってこない」と手厳しい。
2005年の愛知万博は、予定地にオオタカの営巣が確認されて計画が見直された経緯やリサイクル推進でテーマの「環境」が認知され、入場者数が目標を上回る約2200万人に達したと指摘。「市民それぞれが万博に抱く期待を詳細に分析し、明らかにすることが求められる。その過程で集まった万博への思いを多様に提示することで、共感が得られる」としている。
万博協会が頼りにするのが公式キャラクター「ミャクミャク」だ。38都道府県で1000件以上のイベントに登場し、ベトナムでは盆踊りに参加した。
だが、人気が来場意欲には結びついていない。3月末、大阪市内のイベントで、ミャクミャクと写真を撮った大阪市西区のパート従業員女性(39)は、「ミャクミャクはかわいいけれど、肝心の万博の内容がよく分からず、まだ入場券を買おうとは思わない」と話した。
万博協会幹部も「対戦相手が分からない試合のチケットを買ってほしいと頼んでいる状態だ」と認める。
万博協会の想定では、約2820万人の万博の来場者のうち、海外からは約350万人(12%)。万博協会は、訪日外国人客(インバウンド)の誘客に本腰を入れ始めた。アジアを中心に国や地域別の戦略を練り、入場券の販売につなげる。
今月4日には、万博のテーマに沿った日本各地の体験型の旅行商品を掲載する専用サイトを開設した。英語や中国語など多言語で予約から決済までできる。
自治体も万博を絡めた誘客に積極的だ。台湾出身の鳥取県国際交流員、洪佳●(47)は3月28日、台湾の旅行会社3社に、万博と鳥取観光を合わせたツアーを提案した。(●は王へんに其)
関西広域連合に加盟する鳥取県は、同連合が出展する関西パビリオンに参加し、鏡張りの空間に鳥取砂丘の砂を敷き詰めた「無限砂丘」を表現する。洪は「訪日客を万博会場から鳥取に、鳥取から会場へと誘導したい」と計5日間、旅行会社の担当者3人に鳥取砂丘などを案内した。
ただ、旅行会社の反応はさえない。「開催されること以上の中身が伝わってこず、台湾での関心はまだ低い。現状では団体旅行の企画は難しいだろう」
万博協会は、魅力を具体的に示して関心をかきたてることができるのか。残された時間は少ない。(敬称略、おわり) (この連載は、万博取材班が担当しました)