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岡村雄輔探偵小説選1

2013年04月28日 | ミステリ
密林のコメントに煽られて読んでしまいました。
コメント主の本格探偵小説観をそのまま受け取ったこちらが早とちりだったと反省。
本格探偵小説ならば、プロットやトリックがどんなにチープでも、
いちおう合理的な論理で解決されるはず、と思っていたわけなんですが。
最初の「紅鱒館の惨劇」から「盲目が来りて笛を吹く」「うるつぷ草の秘密」の3編を読んで、
頭グルグル。超恋愛理論でホワイダニットを説明する、ある意味超ミステリ。

で、「ミデアンの井戸の七人の娘」は小栗虫太郎/法水麟太郎もののエピゴーネンですね。
そういえば、岡村雄輔のシリーズ探偵である秋水魚太郎という名前が、
みずから法水麟太郎/小栗虫太郎に連なっていることを宣言しているようなものです。
「黒死館殺人事件」(河出文庫版)の19ページに
「最近現れた探偵作家に小城魚太郎」とあるので、
たぶんにそこから頂戴した名前でしょうか。
おまけに、秋水魚太郎と事件をともにする警察幹部の熊座退介警部という名前は、
「黒死館殺人事件」に登場する熊城捜査局長を思いおこさせ、
文中に小栗虫太郎の名前が出るにいたっては、確信犯に近いのでは。
(言及されている小栗の作品は「完全犯罪」)
小栗の中世趣味ぺダントリーを超恋愛理論に置き換えて10倍くらいに希釈した感じです。

と思っていたら、解題に似たようなことが書いてありました。
そりゃそうですね、あまりにあからさまですから。

小栗虫太郎であるなら、読む側の座標もはっきりするので逆に安心して読めます。
「紅鱒館の惨劇」「盲目が来りて笛を吹く」「うるつぷ草の秘密」も、
小栗虫太郎と考えれば腑に落ちるんですが、
それより木々高太郎が提唱する芸術探偵小説に挑戦してみた結果、という気もします。

さらに言えば本格探偵小説作家とされているようですが、
本質は江戸川乱歩に連なる幻想作家なのでは。
幻想文学的な構想を無理やり犯人探しの本格ミステリとして書いているので、
本格探偵小説としては最初から破綻しているような。
それでも「盲目が来りて笛を吹く」の盲人が語る部分は
乱歩を思わせる文章でよどみがないのに比較して、
他のところは大仰な表現と独りよがりな描写で、読んでいる側は頭グルグルです。

後半「廻廊を歩く女」「余毎に父と逢ふ女」「加里岬の踊子」は
前半の作品より少し読みやすく、
とくに「廻廊を歩く女」は意外にすっきりしていて、
奇譚モノとして面白い(ミステリとしては疑問ですけど)。

いままで雑誌連載されただけで、
一度も単行本になっていないことが悲運だったのでしょうか。

■岡村雄輔探偵小説選1 論創ミステリ叢書
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