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●「今の政治家は、戦後アメリカが利用するために地位を残した人間の子孫で、アメリカにへつらうのが家業」

2018年06月04日 00時00分13秒 | Weblog

青木理さん『情報隠蔽国家』…「客観的な事実すら隠蔽し…ねじ曲げて恥じない為政者たちの姿」を報じも… ↑】



日刊ゲンダイのインタビュー記事【HOT Interview 「戦争経済大国」 斎藤貴男氏】(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/230155)。

 《第2次世界大戦後、日本は復興を遂げ、平和と自由を享受し、平和憲法の下、戦争にも参加せず、先進国の一員として国際社会に貢献している、などというのは寝言でしかない。実態はアメリカ主導の戦争で、他国の不幸を踏み台に繁栄したのが日本なのだ…日本にとって朝鮮戦争ベトナム戦争は対岸の火事。しかし、せっせと油を注いでいたのが日本なのだ。積極的かつ自発的にアメリカに寄り添い、特需を享受した日本。その醜い姿は、現代史教育でもほぼ語られていない》。

   『●壊憲「国民主権の縮小、戦争放棄の放棄、基本的人権の制限」、
                   そして、緊急事態条項を絶対に許してはダメ
   『●壊憲への暴走: シビリアンが暴走し、
      アベ様の「我が軍」も既に暴走を始めているようだ…戦慄を覚える
   『●「戦争放棄を定めた憲法九条を支持する宣言や声明が
          繰り返されてきた…九条は世界で必要とされている」
    「いまや、基本的人権国民主権さへも怪しいけれども、
     《基本的人権国民主権は先進国では標準装備だから、
     戦後日本のアイデンティティーは平和主義といえる》のに、
     ニッポン《国の在り方を決定付けている》その《アイデンティティー》さへも
     失おうとしている」

 風前の灯火のアイデンティティーさへ壊憲しようとしている。加えて、そのアイデンティティーを守る過程において…《積極的かつ自発的にアメリカに寄り添い、特需を享受した日本。その醜い姿は、現代史教育でもほぼ語られていない》。さらに、アベ様らの醜き歴史修正主義者の噴出。

   『●ウヨクが「揶揄」した《赤い宮様》の死…、 
      血で「赤」く汚れた歴史修正主義者は、いま、何を思う?
   『●加害者性と被害者性…「私たち一人一人が被害者となり、
              加害者となり得る戦争。戦争はどこかで今も…」
   『●【NNNドキュメント/南京事件Ⅱ ―歴史修正を検証せよ―
                 …「消し去られた事実の重み…現代に警鐘」

   『●【南京事件Ⅱ―歴史修正を検証せよ】…
      「「公文書」がいかに重要な意味を持つかを、社会に毅然と示した」

 斎藤貴男さんは、さらに、《戦争で儲ける構造そのものは恥ずかしく罪深いこの史実の上に立って『これからもそれでいいのか』と問いたいです》と。そして、《本当は、本土の利益のために犠牲にするのが常態化した沖縄についても触れなければいけない。ただ、一冊のごく一部で書ききれる話ではないので、続編は沖縄を中心に必ず書きます》とも。
 青木理さんの言葉を思い出した…「日本は戦後、朝鮮戦争を梃子にして経済発展の土台を築いた基地は沖縄に押し付けたんですよ。つまり、今のこの米朝の対立も分断も、日本は歴史的な責任からは逃れられない。…朝鮮半島が平和になるために日本は努力をしなくてはいけない、ということは忘れてはいけない」

   『●「竹やりで…」「特攻艇・震洋」「人間機雷・伏龍」…
         「最も戦争に接近した八月」に「愚かな戦争に学ぶ」
    「青木理さんの言葉(【サンデーモーニング】、2017年9月3日)に全く同感
     …「日本がどう向き合うか。先の大戦で、ドイツは敗戦して分断された。
     ところが、アジアでは解放された朝鮮が分断された。プラス、日本は戦後、
     朝鮮戦争を梃子にして経済発展の土台を築いた。
     基地は沖縄に押し付けたんですよ。つまり、今のこの米朝の対立も分断も、
     日本は歴史的な責任からは逃れられない。歴史を考えた時に、
     北朝鮮と単に対峙しているだけではなくて、どう向き合うかというのは、
     自ずから明らかになってくる。むしろ、朝鮮半島が平和になるために日本は
     努力をしなくてはいけない、ということは忘れてはいけない」」

   『●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」…
                   米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その2)
    《高江という地域に暮らす人びとは北部訓練所に囲まれながら生き、
     そして60年代には米軍がベトナム戦争のゲリラ戦の訓練のために
     「ベトナム村」というものをつくり、高江の住民はゲリラ訓練に現地民の
     代わりとして動員させられていた。こんなにも屈辱的なことがあって、
     いままた違うかたちで訓練の標的にされようとしていることに対して、
     「本土から移り住んでいる人が多いでしょ」と言うことは、まったく道理が
     合わない。だってその人は県民だし住民なんですよ》

   『●柴田鉄治さん「キナ臭さが一段と増した年」、
      マスコミから失われる「ジャーナリズムの義務」…な1年
    《戦前・戦中のメディアは政府のお先棒を担いで戦意の高揚を図ったが、
     その反省から戦後の50~60年代はなんとか野党精神も健在で、
     ベトナム戦争にはメディアはこぞって反戦を貫いた
       ところが、80年代になると、読売・産経新聞が政府・与党寄りに
     論調を転換湾岸戦争を経て、イラク戦争でははっきり賛成の主張を
     打ち出して、自衛隊がイラクにまで派遣される事態を招いた》

   『●写真家・嬉野京子さん…
        「自分は逃げられるが、沖縄の人たちは逃げられない」
    《アレン・ネルソン~『沖縄に基地はいらない』を提唱した元・米軍海兵隊員~
     元海兵隊員のアレン・ネルソンさんは、1966年に沖縄のキャンプハンセンで
     訓練を受けて、ベトナム戦争に投入された》

   『●「日米地位協定が米軍に“特権”を与えているからだ。
         「半分主権国家」…編集者で作家の矢部宏治氏」
    《日本は戦後、数多くの米軍の戦争を支援してきましたが、そのことで
     日本国民が生命や財産を脅かされる心配はなかった。いくら米軍の
     爆撃機が日本から飛び立って北朝鮮やベトナム、イラクを攻撃しても、
     相手国には日本を攻撃する能力がなかったからです。しかも、
     米軍の戦争に全面協力することで日本が手にした経済的な見返りは、
     非常に大きかった》

 最後に、 斎藤貴男さん《今の政治家は、戦後アメリカが利用するために地位を残した人間の子孫で、アメリカにへつらうのが家業》…すごく納得。

   『●タンカ記念日と15年「「獣医学部いいね」と安倍さんが言ったから、
                        2月25日は加計記念日」で滅公奉僕
   『●「3本の矢」「女性活躍」「1億総活躍」「働き方改革」「人づくり革命」
                            …そんなものを有難がってる…
   『●《愛僕者》らの暴走と無責任さを放置して平気?
      野党の批判の前に、《愛僕者》や与党・癒党の批判を
   『●《もはやカルトだ》…《もはやこの国の総理は
      カルト教団の教祖のような絶対的存在となっているらしい》
   『●『銃を持つ権利は子どもが生きる権利より重い』?
       普天間で起きている、辺野古で起きようとしていること
   『●《消費増税…2兆~3兆円を増税対策に計上する構想》…
              《企業救済策に消費税を流用》…《本末転倒》

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https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/230155

HOT Interview

「戦争経済大国」 斎藤貴男
2018年5月31日

     (斎藤貴男氏(C)日刊ゲンダイ)

 第2次世界大戦後、日本は復興を遂げ、平和と自由を享受し、平和憲法の下、戦争にも参加せず、先進国の一員として国際社会に貢献している、などというのは寝言でしかない実態はアメリカ主導の戦争で、他国の不幸を踏み台に繁栄したのが日本なのだ

 本書は、朝鮮戦争ベトナム戦争の特需に焦点を絞り、戦後日本の真の姿をあぶり出した労作である。

昭和史や戦後史の本はたくさんありますが、特需を中心に書いた本はない。僕は20代の頃、日本工業新聞の鉄鋼担当記者で、鉄鋼系企業の社史を読む機会も多かったのです。そこではとにかく『朝鮮特需で儲かった、我が社の礎ができたと自慢げに書いてあって、すごい違和感を覚えました。この本の構想の芽生えは、その違和感です

 朝鮮戦争時は、金ヘン景気・糸ヘン景気と呼ばれ、鉄鋼業と繊維業を筆頭に日本経済全体が発展の基礎を築いた。ベトナム戦争時は、兵器や物資の製造・輸送に積極的に加担し、「死の運び屋」とも呼ばれた。問題は直接特需よりも、民生品取引による間接特需だという。

直接特需の実態がうかがいしれる資料はアメリカが提供するもののみで、非公表の部分も大きい。さらに間接特需はデータ化しにくく、経済学者も実態が掴みにくいんです。要はアメリカが戦争協力の見返りに、アメリカ市場を開放してくれたおかげで、対米輸出が驚異的に増え、高度経済成長となったわけです。一般的な高度経済成長のイメージは『三丁目の夕日』や『プロジェクトX』なんでしょうが、本来なら貿易摩擦が起こるレベルですし、公害などの高度経済成長のマイナス面は語られなくなってきています

 日本にとって朝鮮戦争ベトナム戦争は対岸の火事。しかし、せっせと油を注いでいたのが日本なのだ。積極的かつ自発的にアメリカに寄り添い、特需を享受した日本。その醜い姿は、現代史教育でもほぼ語られていない。

戦後史なんて学校教育でやってもダメですよ。仮に今教育したら、ひたすら対米従属を洗脳されるだけあとは対韓国・対中国の差別と、いかに日本はすごいか、と体制側に都合よくつくられるそもそも今の政治家は、戦後アメリカが利用するために地位を残した人間の子孫で、アメリカにへつらうのが家業なんですそれ以外のアイデンティティーがない安倍はその典型。大臣も大企業の経営者も、当事者意識や当事者能力が最初からない。どうせ決めたのはアメリカだから、と何の責任も感じないんでしょうね

 もちろん、市民が立ち上がり、戦争に加担しないための闘いもあった。石川県の内灘村議会を機に起こった基地反対運動(内灘闘争=1952年)、兵器製造に反対した活動家が起こした日特金属襲撃事件(66年)、戦車の輸送に反対した市民が96日間通行を阻んだ戦車闘争(72年)。教科書では決して詳しく語られない史実があるのだ。

 本書では当時の活動家だけでなく、通産省の元官僚や、朝鮮戦争時に掃海作業艇に乗った船員にもインタビューを敢行。

特需を享受した人々に罪の意識はないですね。ただ、僕の世代の視点から彼らを一方的に断罪するつもりはない。知らず知らずに、または仕方なく国に誘導されていたのだから。ただ、戦争で儲ける構造そのものは恥ずかしく罪深い。この史実の上に立って『これからもそれでいいのか』と問いたいです

 取材・執筆に10年。だが、達成感はないと言う。特需もまだ書き足らず、湾岸戦争に至るまでの現代編という課題もある。一生をかけて書くテーマだと覚悟したそうだ。

本当は、本土の利益のために犠牲にするのが常態化した沖縄についても触れなければいけない。ただ、一冊のごく一部で書ききれる話ではないので、続編は沖縄を中心に必ず書きます」(河出書房新社 1800円+税)

▽さいとう・たかお 1958年生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学商学部卒業。英国・バーミンガム大学大学院修了。「日本工業新聞」入社後、「プレジデント」編集部、「週刊文春」の記者を経て独立。弱者の視点に立ち、権力者の横暴を徹底的に批判。本紙コラム「二極化・格差社会の真相」を連載中。「機会不平等」「ルポ改憲潮流」「戦争のできる国へ 安倍政権の正体」「ちゃんとわかる消費税」など著書多数。
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●軽減税率というお零れと「ジャーナリズムの義務」: 「権力の犯罪を暴くためなら、権力に対しては…」

2016年09月27日 00時00分22秒 | Weblog


『憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。/マガジン9』(http://www.magazine9.jp/)の斎藤貴男さんのインタビュー記事の(その2)です。【この人に聞きたい/斎藤貴男さんに聞いた(その2) 「報道の自由」と軽減税率の危ない関係】(http://www.magazine9.jp/article/konohito/30251/)。
 (その1)はコチラ

   『●斎藤貴男さん、税率を上げても「「スウェーデンのような
           高福祉国家を目指すんだ」なんて、誰も言わない」

 《マスコミの現状については、言いたいことがたくさんあるのですが(笑)、中でもきわめて重要で、かつほとんど知られていないのが、この軽減税率の問題です。…ただ、それでも今回の新聞業界のやり方には、大きな問題があると考えています。…最大の問題は権力に報道内容に干渉する余地を与えることです》。

   『●斎藤貴男さん、大新聞社は「自分たちだけは例外。
        権力にオネダリして、そうしていただいたのである」
    《このままではジャーナリズムが死に絶えてしまう。反権力的な番組を
     流した放送局の電波停止を示唆した高市早苗総務相の発言など、
     安倍晋三政権のメディアコントロール戦略だけを指すのではない。
     恐ろしいのは圧力よりも自滅だ
    「アベ様に逆らう者は「誰一人残っていなかった」
     …という惨状なジャーナリズム。「電波」な「凶器」高市総務相の暴走と 
     「報道現場の声」から見えてくるのは、「自粛」「忖度」「委縮」…が「内部から」
    「どうやら消費税増税に賛成する理由は、アベ様らによる、
     新聞社への軽減税率適用という「御慈悲」にあるらしい。
     報道機関・ジャーナリズムであれば悪税制度・消費税そのものに
     反対すべきなのに…」

 斎藤貴男さんは、以前、軽減税率について、上記の記事で《自分達だけは例外。権力にオネダリして、そうしていただいたのである》と言っています。そのココロは、《最大の問題は、権力に報道内容に干渉する余地を与えることです》ということです。 
 ジャーナリズムの落日。
 青木理さんや神保哲生さんら、尊敬できるジャーナリストは数少ない。斎藤さんもそのうちの一人。斎藤さん曰く《極端に言えば、権力の犯罪を暴くためなら権力に対しては何をしたっていいとさえ、僕は思っています。それがジャーナリストの義務なんですから》。亡くなったフォトトジャーナリスト福島菊次郎さんも同じようなことを言っている…《問題自体が法を犯したものであれば、報道カメラマンは法を犯しても構わない》と。そして、「「福島菊次郎91歳の写真集『証言と遺言』」の「最後に赤々と押印、「闘え」「」と」。そう、「闘わねば」!」。

   『●失われる「メディアの作法、矜持」…
     「権力を監視する機能が失われ」、しかも、アベ様の「思う壺」
   『●青木理さん: ジャーナリストの矜持
      「権力や権威の監視」「強者にこそ徹底した監視の目を」
   『●反骨の報道写真家・福島菊次郎さん亡くなる:
      『証言と遺言』の最後に赤々と押印、「闘え」「菊」と

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http://www.magazine9.jp/article/konohito/30251/

2016年9月21日up
この人に聞きたい
斎藤貴男さんに聞いた (その2)
「報道の自由」と軽減税率の危ない関係

「もっともシンプルで、公平な税制度」──しばしば、そんなふうにも説明される「消費税」。安倍政権は今年6月に増税の延期を発表しましたが、「増税」そのものについては、「いっそうの高齢化社会に向けて、社会福祉の財源を確保するためにはやむを得ない」というのが一般的な認識ではないでしょうか。しかし、ジャーナリストの斎藤貴男さんは、これに真っ向から反論します。「消費税は、まったくシンプルでも公平でもない、『弱い者いじめ』の税制度だ」──その理由をうかがいました。



斎藤貴男(さいとう・たかお)ジャーナリスト/1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経てフリーに。主な著書に『機会不平等』(文春文庫)、『ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『「東京電力」研究 排除の系譜』(角川文庫)、『ジャーナリストという仕事』(岩波ジュニア新書)など多数。


新聞への軽減税率適用。
何が問題なのか

編集部 さて前回、消費税制度の「おかしさ」とともに、それについてまったく報じてこなかったマスコミの責任にも言及されましたが、それと深く関連するのが、生活必需品など一部の商品に標準の税率よりも低い税率を適用する「軽減税率」の問題です。昨年12月の閣議決定では、酒類・外食を除く飲食料品と並んで、新聞の定期購読料が軽減税率の適用対象とされましたが斎藤さんはこのことを厳しく批判されていますね。

斎藤 マスコミの現状については、言いたいことがたくさんあるのですが(笑)、中でもきわめて重要で、かつほとんど知られていないのがこの軽減税率の問題です。
 閣議決定のとき、マスコミは食料品への軽減税率適用についてはかなり詳しく報道しました。外食は適用対象外だけど、じゃあコンビニの飲食スペースはどうなんだとか、テイクアウトで頼んだけど席が空いたから食べて帰ることにしたケースは、とか…。一方で、新聞への適用については、文化人を使った広告などで「新聞は活字文化の中心だから」「日本人の知的水準を維持するために必要だ」といった主張を繰り返すばかりでした。
 僕も活字の世界で食べている人間ですし、そうした主張にまったく共感できないわけではありません。ただ、それでも今回の新聞業界のやり方には、大きな問題があると考えています。


編集部 新聞の読者としては、増税されても購読料が高くならないならありがたい、とも思ってしまいそうですが…。具体的に、何が問題なのでしょうか。

斎藤 最大の問題は、権力に報道内容に干渉する余地を与えることです。
 日本新聞協会は、1989年の消費税導入のときから、一貫して「軽減税率の適用」を要求してきました。いわば政権与党、とりわけ税制調査会への「おねだり」を続けてきて、それが今回通ったわけですが、常識として強いものにお願いをするときには、何かお礼をしなきゃなりませんよね。


編集部 どういうことでしょう?

斎藤 「新聞は活字文化の中心だから」というけれど、あらゆる業界はそれぞれ何らかの存在意義をもっているからこそ存続しているわけです。どこの業界だって、「うちは重要だから軽減税率にしてくれ」と主張しますよね。食品みたいに「買えないと死んでしまう」ような分かりやすいものだけではなくて、たとえば「過疎地では自動車がないと生活できない」とか「ラップは食品を売るときの必需品だから、同じように軽減すべきだ」とかいう主張だってできるわけです。
 そう考えると、これは「どこの会社が」というのではなくて一般論ですが、あらゆる業界が永田町や霞ヶ関に日参し、さまざまな「バーター」を提案しに行くということになるに決まっている。その中で、業界としては大きいといえない新聞を優遇するんだったら、お金とか天下りとかよりも、「おまえのところの新聞の論調はどうにかならないか」という話に当然なりますよね。僕が安倍政権の人間だったらそう考えます。


編集部 「軽減税率を適用する代わりに政権批判は控えろ」とか…。

斎藤 最近、新聞の「首相動静」の欄などで明らかなように、マスコミ各社幹部が首相としばしば会食していることが指摘されていますが、そこでこの軽減税率とそのバーターについて話し合われてきた可能性はきわめて高いと思っています。
 今回の増税延期で、軽減税率の適用も延期になったわけですけど、これはいわば「鼻面にぶら下げられた人参」が逃げていったようなもの。であれば、その人参をポイッと捨てられてしまわないように、人参がもらえるまでずっと言うことを聞きます、ということになるんじゃないか。


編集部 そうなると、メディアの重要な役割であるはずの「権力の監視」なんて、できるはずがないということになってしまいますね。ただ、新聞に軽減税率を適用するというのは、ヨーロッパなどでも一般的だと聞きます。

斎藤 新聞協会も、軽減税率適用の根拠としてその話を挙げています。それはたしかにそのとおりで、特にイギリスでは、新聞だけではなくすべての出版物が「ゼロ税率」なんです。
 ただ、そこに至る経緯は日本とは大きく違っています。イギリスでは18世紀、新聞というメディアが初めて現れて勃興したときに、それによって市民が知識をつけることに危機感をもった政府が、厳しい弾圧をしたんです。そしてその一環として、税の仕組みを変えて新聞に重い課税をしようとした。それに対して市民社会が「自分たちに知識や知恵をくれる新聞を弾圧するなんて、ふざけるな」と声をあげて。チャーチスト運動(※)の中心人物なども加わり、何人も投獄されるような事態になりながら、150年くらいかけて勝ち取られたのが、現在の「出版物ゼロ税率」なんですよ。


   ※チャーチスト運動…英国で1830年代後半に起こった、労働者階級の
     普通選挙権獲得運動。世界最初の労働者による組織的政治運動といわれる。


編集部 新聞社ではなく、読者からの声によって実現した制度なんですね。

斎藤 だから、それに倣うというのであれば、同じように読者の、市民社会の支持があって初めて、「軽減税率を適用してくれ」という資格があるのであって。どこからも求める声があがっていないのに自分たちだけで我々は日本の文化の中心だみたいなことを主張するのはまったく話が違うと思うんです。


編集部 ちなみに、新聞だけではなく出版業界からも軽減税率適用を求める声が上がっているそうですが…。

斎藤 こちらは、主に有害図書の扱いをどうするかがネックになってペンディングの状態になっています。たしかに、アダルト本は除くなどのある程度のゾーニングがないと一般的に理解は得られないでしょうが…。ただ、こうした「線引き」は非常に危険なものでもあります。
 業界内だけでやっている間はいいのですが、税制などにからめてしまうとこの記事はいいけどこっちはダメ権力に口を出させる余地を与えることになる。ある雑誌に掲載される記事が気に入らないから、巻頭グラビアのヌード記事を口実にして取り締まるなんてこともできるようになってしまいます。もちろん、権力がなんだってけちを付けようと思えばいつでもできるんですけど、わざわざその種をこちらから与えているようなものではないでしょうか。


「メディアであること」よりも
ビジネスを優先させてきたマスメディア

編集部 消費税以外の問題についても、マスメディアの「萎縮」ムードは顕著です。

斎藤 NGOの「国境なき記者団」が発表する「報道の自由ランキング」の2016年版で、日本は72位でした。2010年には11位でしたから、この落ち方はすさまじいとしか言いようがありません。
 その後、国連人権委員会特別報告者のデービッド・ケイ氏が来日して記者会見し、日本における報道の自由や表現の自由への懸念を示しました。このとき指摘されていたのが、「高市発言」(※)に象徴される安倍政権からの圧力、そして特に3・11以降に広がるメディアの萎縮ムードです。
 マスコミ業界の人間はどちらかというと「政権からの圧力」を強調したがりますし、それは僕も事実あると思いますが、それだけで片付けてしまうのには不満がありますね。


   ※高市発言…2016年2月の衆院予算委員会で高市早苗総務大臣が、
      テレビ局が「政治的公平性」を欠く放送を繰り返し、行政指導にも
      応じなかった場合、放送法違反を理由に電波停止を命じる可能性に
      言及したことを指す。


編集部 というと?

斎藤 現政権が特にひどいというのはあるとしても、権力というのは常にそういうもの、メディアに対して圧力をかけるものでしょう。それをいまさらどうこう言っても始まらないし、そんなことで萎縮してしまうんだったらプロじゃない。圧力がかかったときこそ記者クラブなどで団結して、抵抗するのがメディアの職責だろうと思うんだけど、全然そうはならないんですよね。
 これは、メディアがメディアであるよりも、企業であること、つまりビジネスを最優先させてきた結果。消費税のおかしさについて誰も報道しないのも、一つには記者もサラリーマンで関心がないからでしょうけど、仮に「おかしいな」と思った記者がいても、経営的には書かせたくないので書かせてもらえないということもあると思います。


編集部 政府からの圧力だけではなく、読者からの批判──罵声罵倒に過ぎないものも含め──に対する耐性も非常に弱くなっているように感じます。

斎藤 本来、メディアなんて批判されて当たり前のはずですよね。
 15年くらい前、朝日新聞社の月刊誌『論座』に原稿を書いていたときに、ある編集者がやたら「こんなこと書いたら『諸君!』になんて書かれるか」と気にしていたことがあって、「バカじゃないか」と思っていたんだけど(笑)。最近では、ネットでの反応をすごく気にするようになっていて。「何を書かれるか」と心配するというよりも、「ちょっとでも危なそうなテーマはやらない」という感じになってきていますね。耐性がないにもほどがあると思います。


編集部 2014年に特定秘密保護法が施行されたときにも、「これでますます報道の自由が制限される」と懸念の声がありましたが…。

斎藤 もちろんそれはあるでしょうが、本当に「特定秘密保護法違反だ」といって逮捕されるような記者がいればたいしたもんだと思いますよ。僕にもできないから言えた義理ではないけれど。実際にはいないから問題なのであって。
 僕は、もしこれから権力批判の報道をしたことが理由で逮捕されて有罪になるような記者がいれば、業界で賞金を出せばいいと思っています(笑)。法律に触れたのは事実だから刑には従うけど、メディアにはそれとは違う価値観があるんだから、ということです。
 今は、政治家相手に隠し録りをすることもすべて問題視されたりするけれど、そんなのはばかばかしいですよ。極端に言えば、権力の犯罪を暴くためなら、権力に対しては何をしたっていいとさえ、僕は思っています。それがジャーナリストの義務なんですから。


ジャーナリストの存在意義は
「強いものに立ち向かう」こと

編集部 ちなみに斎藤さんご自身は、どんなきっかけでそのジャーナリストという仕事を選ばれたのですか?

斎藤 僕は、もともとはなんの志もありませんでした(笑)。
 僕の家は東京の池袋にあった鉄くず屋だったんです。親父は明治生まれで、丁稚奉公に来てそのまま婿入りした人。戦後にシベリアに送られて、昭和31年の末に帰ってきて、その翌々年に僕が生まれました。そんなわけで、僕もずっと「中学出たら地方の鉄くず屋に丁稚奉公に行って、帰ってきたら後を継げ」と言われて育ちました。
 僕もそのつもりだったんだけど、いざ中学を出るときになったら、高校全入時代だったし、まだ働くのは嫌だなあ、と思って。「よりよい商人になるために」という口実で、高校、大学と進学させてもらったんです。


編集部 じゃあ、卒業後はお父様の後を継ぐ予定だった…。

斎藤 ところが、その親父は僕が20歳のときに亡くなり、店もたたんでしまったので、後を継ぐ必要がなくなっちゃったんです。それで卒業前に、一度は一般企業に内定をもらったんですが、なぜか途中で連絡が途絶えてしまった。こちらから連絡したら「君は内定取り消しだ」って言われて。理由も教えてもらえませんでした。
 後日、ジャーナリストになってから、ネタ元だった公安のおまわりさんに何気なくこの話をしたら、「そりゃ、シベリア帰りのせがれが普通の会社に入れるわけはないよ」と笑われました。シベリア帰りの人間は基本的に、全員ソ連のスパイだという扱いをされるのだそうです。


編集部 ええ?

斎藤 「いや、親父はたしかにシベリア帰りだけど、小学校しか出てない男なのに、どうやってスパイなんかできると思うんですか」と言ったら、「いや、そういう下層階級の出身だからこそ、国家に対してルサンチマンがあると我々は考えるんだ」。なるほどなあ、と思っちゃいました。
 それでともかく、別の職を探さなきゃいけないというので、一般企業より少し試験の遅かったマスコミを受けることにしたんです。もともとジャーナリズムには憧れがあったし…結果、産経新聞にだけ受かって、その系列の「日本工業新聞」に入社することになりました。そこで「鉄くず屋のせがれだから」という理由で、「鉄」を担当することになったんです。
 最初は、せっかく経営者にアポイントを取っても、何を聞いていいか分からなくて黙り込んじゃうようなこともありましたが、1年もやっていると業界の「事情通」みたいな感じになってくる。そうしたら、やたら接待を受けるようになって、「これはまずい」と思ったんです。


編集部 というと?

斎藤 僕はまだ20代前半の若造なのに酒席で、もう還暦を過ぎた大企業の重役が「斎藤さん、お流れをください(目上の人に酒を注いでもらうこと)」って正座して、頭を下げてくるんですよ。こんなことをずっとやってたら人間が腐る、と思って。それで配置換えを希望したんだけど通らなくて…つてをたどって「週刊文春」に入れてもらったのが、ジャーナリズムの世界のもろもろを考えながら仕事をするようになった最初です。


編集部 そこから、一貫して権力批判を続けてこられて…。

斎藤 それは、いろんな問題を追いかけるうちに、せざるを得なくなったというほうが正しいですね。
 ジャーナリストというのは、つまるところ強い者に立ち向かうという点にしか存在意義がないと思うんですよ。特に、今はこれだけのネット社会でしょう。かつては、企業の新製品発表とか行政や警察からのお知らせなどを載せて広く知らせるのもメディアの役割だったけど、今はそれぞれがネットで直接発信できてしまうから、そんな必要もなくなった。その中で、メディアが生き抜いていく余地があるとしたら、それはやっぱり調査報道でしかないと思うし、僕もそれを着実にやっていくしかないと思っています。

構成/仲藤里美・写真/塚田壽子
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●斎藤貴男さん、税率を上げても「「スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだ」なんて、誰も言わない」

2016年09月26日 00時00分32秒 | Weblog


『憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。/マガジン9』(http://www.magazine9.jp/)の斎藤貴男さんのインタビュー記事(その1)【この人に聞きたい 斎藤貴男さんに聞いた(その1) メディアが報じない「消費税のカラクリ」】(http://www.magazine9.jp/article/konohito/30149/)。
 ちなみに、(その2)はコチラ

 《消費税常に弱い者に負担が行く不公平な税制度…『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)…書評もまったくしてもらえません。新聞も雑誌も、この問題についてはほとんど書かせてくれないですね。もちろん、増税反対の論調は時々載るけれど、僕が本で書いているような、そもそも消費税は仕組みとしておかしい、という話はいっさい載らないんです。最たる例が、「消費税は、実は転嫁できない、弱い者が自分で負担するしかない税制」という話です》
 《税率だけはどんどん上がるのに、スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだなんて、政治家は誰も言わない…むしろ、どんどん社会保障は削られてアメリカ型の社会になっていっている

 どう考えても、最悪の税制・消費税。マスコミもほとんど指摘しない。なぜ? 

   『●投票者自身の首を絞めてはいけない: 
      「格差是正のための税制を求め、豊かな層に多く課税すべき」
   『●スガ殿曰く「報道が萎縮するような実態は全く生じていない」
                …「日本は今や世界の笑い者」、恥ずかしい…
   『●アホらしき税収不足! 日本の「報道の自由度」72位で、
              「パナマ文書を調査しない国は…と日本くらい」
   『●斎藤貴男さん、大新聞社は「自分たちだけは例外。
        権力にオネダリして、そうしていただいたのである」
   『●2016年報道の自由度ランキング72位:
       「メディアは二流ならば社会も二流」、アベ政治も…粗悪

 斎藤貴男さん流に言えば、《大新聞社は「自分たちだけは例外。権力にオネダリして、そうしていただいたのである》。どうやら消費税増税に賛成する理由は、アベ様らによる、新聞社への軽減税率適用という「御慈悲」にあるらしい。報道機関・ジャーナリズムであれば悪税制度・消費税そのものに反対すべきなのに…。
 アベ様の大好きな、番犬様の本国アメリカの税制はどうなっているのですか? 社会保障費のために消費税やってるの? 一方、しばしば税率の高い国として比較される《スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだなんて、政治家は誰も言わない…むしろ、どんどん社会保障は削られてアメリカ型の社会になっていっている》。消費税増税分が社会保障に回っているの? 法人税減税分に代替され、大企業の内部留保分に回っているだけ。それでも自公や「癒」党、民進党ムダ元首相ら消費税増税一派に投票するなんて、オメデタイ人達

 《海外にいっては金をばらまいてきているのに。海外で自分らだけがいい顔をできればそれでOKか。でも、そのお金は血税。…あたしたち国民に向かって、「税収が足りない」とか二度といわないでほしい。そのまえにやることあるでしょう? 世界を揺るがしたパナマ文書》という背景を受けて、室井佑月さんの至言税収が足りなくば、法の抜け道を閉ざし、適正に課税して金持ちからお金をとったらいい》。
 【雨宮処凛がゆく!: 第327回/ピケティ・ブームと税制。の巻】(http://www.magazine9.jp/article/amamiya/17757/)に良いことが書いてある。《ひとつは民間税制調査会。…もうひとつは、「公正な税制を求める市民連絡会(仮称)準備会」。こちらの呼びかけ人は弁護士の宇都宮健児氏…そして私だ。どちらの団体も、格差是正のための税制を求め、豊かな層に多く課税すべき、という点では一致している》。全く同感。消費税増税延期を喜ぶのではなく、消費税そのものを止めよう。消費税なんて、要らない

   『●『消費税のカラクリ』読了
   『●そういうことで騙される人はたくさんいる: 
      内閣支持率49.4%、アベ様による消費増税賛成46・5%
   『●「軽減税率か給付付き税額控除か」なんてことよりも、 
        そもそも消費税を否定する経済学者はいないのか?
   『●消費税増税見送り? アベ様は、「アベドアホノ丸」という
                難破船・泥船が座礁したことを認めた訳だ
   『●斎藤貴男さん、大新聞社は「自分たちだけは例外。
       権力にオネダリして、そうしていただいたのである」

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http://www.magazine9.jp/article/konohito/30149/

2016年9月14日up
この人に聞きたい
斎藤貴男さんに聞いた (その1)
メディアが報じない「消費税のカラクリ


「もっともシンプルで、公平な税制度」──しばしば、そんなふうにも説明される「消費税」。安倍政権は今年6月に増税の延期を発表しましたが、「増税」そのものについては、「いっそうの高齢化社会に向けて、社会福祉の財源を確保するためにはやむを得ない」というのが一般的な認識ではないでしょうか。
しかし、ジャーナリストの斎藤貴男さんは、これに真っ向から反論します。「消費税は、まったくシンプルでも公平でもない、『弱い者いじめ』の税制度だ」──その理由をうかがいました。



斎藤貴男(さいとう・たかお)ジャーナリスト/1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経てフリーに。主な著書に『機会不平等』(文春文庫)、『ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『「東京電力」研究 排除の系譜』(角川文庫)、『ジャーナリストという仕事』(岩波ジュニア新書)など多数。


消費税は「常に弱い者に負担が行く」
不公平な税制度


編集部 安倍政権は今年6月、消費税の税率10%への引き上げを2019年10月まで約2年半延期すると発表しました。斎藤さんは以前から消費税増税に強く反対するとともに、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)というご著書などで、消費税の仕組み自体の「おかしさ」についても指摘されていますね。

斎藤 本を出してから6年になり、もう6刷で累計3万5千部と今どきにしてはけっこう売れています。しかし、書評もまったくしてもらえません新聞も雑誌も、この問題についてはほとんど書かせてくれないですね。もちろん、増税反対の論調は時々載るけれど、僕が本で書いているような、そもそも消費税は仕組みとしておかしい、という話はいっさい載らないんです。
 最たる例が、「消費税は、実は転嫁できない、弱い者が自分で負担するしかない税制」という話です。


編集部 どういうことでしょう?

斎藤 多くの人の理解は、消費税というのは消費者が何かものを買ったときに払うもので、お店の人は代金と一緒に税金分を預かってそのまま納める、というものだと思います。だから、本来なら税率が上がったら、小売業者はその分を売値に転嫁して、税込み価格を上げないといけないわけです。でも、今のように安売り競争が激しい中で、「消費税率が上がったから」といって、本当に値上げができるでしょうか
 運賃や光熱費などの公共料金は政治的に決まるから、増税されればその分を上乗せして値上げ、となりますが、一般の商品やサービスの値段は市場原理で決まるわけで、近くに激安スーパーがあるのに「増税されたから値上げします」とはなかなか言えません。結果として、売値は据え置き、でも年間売り上げ1000万円以上の業者には納税義務はあるから、小売業者が自腹を切って納税するしかない──ということが、あちこちで起こるわけです。
 しかも、ややこしいことに財務省などに言わせれば、これは「増税分はきちんと転嫁できている」ことになるんですね。


編集部 えっ? だって、売値は上げられていないわけですよね。

斎藤 でも、自腹を切ってでもなんででも、増税分はきちんと「納めている」わけだから。つまり、実質上は小売業者が単に自分の利益を削っているに過ぎないんだけど、帳簿上は無理矢理「本体価格を値下げして」転嫁した、という扱いになるんですよ。
 たとえば、本体価格1000円のものなら、5%のときの消費税は50円ですね。それが8%に増税されたら80円になるので、本来の税込み価格は1050円から1080円になるわけだけど、値上げができないのでそのまま1050円で据え置いたとする。でも税金は80円に見合った金額を払わないといけないから、その差額は小売業者が自腹を切って払うしかない。この場合、帳簿上は「本体価格を値引きして972円にして、そこに消費税8%分を乗せて1050円で売った」という計算になるわけです(※)。


  ※消費税8%のときの税込み価格は(本体価格×1.08)円で表せるので、
    税込み価格を1050円にする場合、本体価格をX円として、
    以下の計算式が成り立つ。


     X円×1.08=1050円

          ゆえにX=972・2222…

    つまり、本体価格1000円のものを税込み1050円で売った場合、
    帳簿上は本体価格を972円に値引きし、そこに消費税8%(78円)を
    乗せて販売した、という計算になる。


編集部 消費税はちゃんと8%分もらっているから、転嫁できているじゃないか、という理屈ですね。でも、実際には小売業者の利益が削られているわけで、そんなことが長続きするとは思えません。

斎藤 だから、消費税というのは納税義務者の滞納がすごく多いんです。これは国税庁のホームページにも出ているデータですけど、国税の滞納額全体のうち、60%近くが消費税なんですね。国税収入のうち消費税が占める割合は25%くらいに過ぎないのに、これはどう考えても異常です。
 消費税というのは、法人税や所得税とは違って、利益ではなく取引にかかるので、利益が上がらず赤字になったときでも払わなくてはならない。だからみんな自腹を切って払うわけですけど、その余裕もなくなれば滞納するしかないですよね。そうした「払おうにも払えない」人がたくさんいる、無理のある税制が消費税だということなんです。いわば、中小零細企業いじめと言ってもいい。


編集部 消費税が上がると、倒産する中小企業が増えるというのはそういうことなんですね。そして、そんなに滞納者が多いのなら、税制としても失敗というべきではないでしょうか。弱い立場の人に負担を押しつけている、という気がします。

斎藤 今お話ししたのは、どちらかといえばデフレ状態で値上げができないときの話ですけど、逆にある時期やある商品が非常に売り手市場で、少々値上げしても大丈夫だという状況のときは、当然ながら買い手である最終消費者が増税分を負担することになるし、どちらにしても、「弱いほうが負担する」ことには変わりがありません。財務省はよく、消費税は広くて薄くて公平で中立な税制だみたいなことをいうけど、「広く薄く」はともかく全然公平でも中立でもないんですよ。
 夏の参院選で自民党が圧勝したのは、増税延期をありがたがった中小零細企業の人たちがそっちに流れたというのもあるんでしょうが、そもそも増税を決めたのは政府ですよね。それなのに「増税を延期してくれた」と喜ぶのはさんざんナイフで突きまくられたのに、最後の一撃を心臓に食らう前に手を止めてくれたからと、相手に感謝するようなものだと思います。


消費税が「社会保障の財源になる」
のは本当なのか

編集部 一方で、増税延期についての是非はともかく、増税自体や、まして消費税そのものに正面から反対する人は決して多くはないですよね。大変だけどしょうがないという感じで…もちろん、お話しいただいたような問題点が知られていないということもありますが、社会保障の財源にするための増税という認識が強いことも一つの理由ではないでしょうか。

斎藤 そこがまた厄介な点で。いわゆるリベラルといわれるような人でも、むしろ消費税増税には賛成だったりするんですよね
 僕自身は、仮に本当に全額社会保障に使われるとしても、今お話ししたような弱い者いじめの税制はおかしいだろうと思うので反対ですが、もし仮にちゃんと実行されるのであれば──たとえばスウェーデンのような福祉国家を目指すから、税制もスウェーデンをマネするんだというのなら、それはそれで筋は通っていなくもないかな、とは思えます。それでも単純すぎるぐらいですけれど。
 でも、税率だけはどんどん上がるのに、「スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだなんて政治家は誰も言わないでしょう?


編集部 たしかに、「スウェーデンは素晴らしい」という話はあっても、「日本もああするんだ」という話は聞いたことがないかも。

斎藤 数年前にも、読売新聞の一面に「いかにスウェーデンの福祉社会が素晴らしいか」という記事が載っていました。スウェーデンにおける消費税である「付加価値税」が非常に社会福祉に役立っており、高負担でも国民は納得している──という内容で、日本とヨーロッパ各国の消費税率を比較したグラフを示して、「それに比べて日本の税率はまだまだ低い」というんです。でも、別に政府は「スウェーデンのような社会福祉国家を目指す」なんて一言も言ってないんだからインチキこの上ない記事ですよ。むしろ、どんどん社会保障は削られてアメリカ型の社会になっていっているのに、消費税の話をするときだけスウェーデンを持ち出すのはどう考えてもおかしいでしょう。それをいうなら、アメリカには合衆国レベルでの消費税は存在しないんですから。一見似たような税制はありますが、それは小売段階にしかかからない、しかも州単位の地方税です。

 そもそも「社会保障の財源のために増税」という話にも、カラクリがあるんです。たしかに、消費税引き上げを決めた2012年の三党合意の時点では、「増税分は全額社会保障に充てる」という附則が、税制改正法に明記されていました。ところが、5%から8%への増税後、初年度(2014年)の税収は5兆円増えたにもかかわらず社会保障費は5000億円つまり増えた税収の1割分だけしか増額されなかったんです。


編集部 「増税分は社会保障に充てる」んじゃなかったんですか?

斎藤 ところが、これも政府に言わせれば「増税分はきちんと全額社会保障に充てた」ことになる。というのは、増えた税収5兆円のうち5000億円を除いた残りはどこに行ったかというと、それまで別の財源を充てていた社会保障施策に使われたんですね。つまり、新しく増えた分はたしかに全額社会保障に使われたけれど、一方でこれまで社会保障に使われていた分の財源を、別の用途に使っちゃったわけです。たしかに、「増税分を社会保障に充てる」とは言ったけど、「今社会保障に充ててる財源はそのままでとは一言も言ってないから、嘘ではない、という理屈ですね。


編集部 えーっ。詐欺! と言いたくなります。

斎藤 今だって、10%への増税延期で低年金・無年金の人たちへの救済措置が先送りになるとか言われていますけど、本来なら8%に増税した時点で、それくらいどうにかするのが当たり前でしょう。もともと社会福祉に使っていた分を他に回したからいけないのであって、「年金生活者の生活」を口実さらに増税しようというのはひどい話ですよ。
 こんな与太話に騙される国民もどうかと思うし、政府の言い分をそのまま伝えたマスコミに至ってはもう犯罪だと思いますね。ここまでお話ししてきたような話は、消費税の「イロハのイ」みたいなものなんだけど、それさえもまったく報じないんだから。


源泉徴収制度の起源は「戦費調達」!

編集部 報じないメディアの責任についても後ほどうかがいたいのですが、それだけではなくて、私たち自身がまず税の問題にそれほど関心がない、という問題もあるように思います。「なんだか難しそう」だからまあいいや、と流してしまったり…。

斎藤 そうなんです。誰かに話をする機会があっても、「消費税は転嫁ができなくて…」とか説明しだすと、それだけでもうなかなか聞いてもらえない(笑)。


編集部 でも、自分たちの生活に直結する問題ですよね。

斎藤 そのとおりです。たとえば、「交通費込み」の給料で働いている派遣労働の人などは、自分で確定申告して交通費を経費として申告すれば、源泉徴収されたうちの結構な額が返ってくるはずなんですよ。でも、確定申告の仕方や仕組みなんて学校でも教えないから、それさえ知らない人が多い。結果として「取られ損」になっちゃってるんです。
 一方で、正社員の人たちは所得税の納税なども全部会社任せだから、なかなか興味も持てないし。僕だって、新聞社に勤めてたときはほとんど興味がなくて、庶務課から「生命保険の控除証明を持ってきたら還付金がありますよ」とか言われても「めんどくさい」というだけの理由で何もしなかったくらいですから。


編集部 それが、会社を辞めてフリーになって変わられた。

斎藤 もう、なんとか経費として認めさせようと、必死に領収証を集めるようになりましたね(笑)。それに一時期、年収が1000万を超えて課税業者になったことがあって、そうすると自分が消費税を納めなきゃいけないでしょう。それなのに、原稿料とか印税収入とかに消費税の分を上乗せしてくれない出版社などがいくつもあったんですよ。つまり「転嫁できていない」という状態ですよね。
 「原稿料は消費税分を払ってもらってないのに、僕は納めなきゃいけない。これっておかしくないですか」と税理士さんに聞いたら、「おかしいよ。だけどそういうおかしな税制を国会で通しちゃったのが日本国民なんだから、しょうがないだろう」と言われて。それが消費税の仕組みのおかしさに気がついた最初ですね。


編集部 会社員も、全員自分で確定申告をするというシステムになれば、少しは関心が高まるのかもしれません。

斎藤 まったく違うでしょうね。グローバルスタンダードでいえばそれが当たり前。アメリカだってイギリスだって、みんな自分で申告していますよ。
 ちなみに、源泉徴収や年末調整の制度は、もともとはナチスドイツが戦費調達のために発明したものなんですよ。



編集部 そうなんですか! 取りっぱぐれがないから、ということですね。

斎藤 日本も、日中戦争のさなかの1940年に源泉徴収だけを導入して。年末調整はないまま、「取りっぱなし」の制度でした。それで敗戦後に「日本の税制はあまりに封建的だ。ちゃんと市民一人ひとりが自分で確定申告をするのがデモクラシーだ」と、GHQにさんざん批判されたんです。
 大蔵省はかなり抵抗したけれど、最終的には折れるしかなかった。そのときに、バーターとして導入されたのが年末調整なんです。史料によると「日本人はバカだから、自分たちで申告なんてできない。そんなことしたらみんな脱税をする」という意味の主張を日本側がしたんですよ。敗戦まではずっと「日本人は世界一優秀だ」と言ってたのにね(笑)。


編集部 それがそのまま、今でも続いているんですか。

斎藤 本家本元の西ドイツは、戦後に選択制を導入しました。つまり、会社にやってもらうこともできるけど、確定申告を自分でしたい人はそうできる、と。日本は今も、正規雇用の会社員の場合、年収が2000万円以上の人や2カ所以上の会社から給与を得ている人、あとは家を買ったなどの特別な事情があるときしかできませんからね。
 本当は、これだけ非正規労働者が増えているんだし、ユニオンなどが主導して「確定申告運動」みたいなのを始めてもいいと思うんだけど。さっき言ったように、交通費の分を申告するだけでもかなりの金が戻りますから、影響力は小さくないと思います。

その2に続きます)

構成/仲藤里美・写真・塚田壽子
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●『分断される日本』読了(1/3)

2009年06月10日 07時09分44秒 | Weblog

『分断される日本』、4月に読了。斎藤貴男著。角川文庫。200810月刊。

 何年もの間、同じことばかり書いておられる
(p.7)。『ルポ改憲潮流』、『機会不平等』、等。特に後者は、「機会格差」ではない。ある学者の言葉、「行政の人たちは、〝格差〟とは言っても、絶対に〝不平等〟という言葉は使いませんね。・・・〝不平等〟と言ってしまったら、そこには行政の失敗のイメージが生まれます」(p.12)

 「第1 構造改革の先にある「封建社会」」、「第2 監視カメラを覗くのは誰か」、「第3 格差拡大がホープレス社会を招く」、「第4 市民階層が分断されゆく」、「第5 この息苦しさは何だろう」
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