Activated Sludge ブログ ~日々読学~

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●『思考停止社会 ―「遵守」にむしばまれる社会―』読了(1/3)

2010年02月14日 14時06分56秒 | Weblog

思考停止社会 ―「遵守」にむしばまれる社会―』、2月に読了。郷原信郎著。講談社現代新書。2009年2月刊(2009年4月第六刷)。

 本の帯から。「日本の経済と社会を覆う閉塞感の正体/相次ぐ食品企業の「不祥事」、メディアスクラム、年金記録「改ざん」問題、裁判員制度・・・・・・/コンプライアンス問題の第一人者が、あらゆる分野の問題に切り込み再生への処方箋を示す!」 相次ぐ種々の不祥事に対して、メディアの扇動に同調して批判するだけで思考停止しているのではないか、自省する・・・。

 「法令、規則、規範、あらゆるものの「遵守」を押しつけられ、思考停止状態に陥っている現在の日本の社会と組織・・・。/・・・/今こそ、何も考えないで遵守するという姿勢から脱却して、起きている物事の本質、根本を理解し、認識し合い、めざすべきものを明確にした上で、・・・。/・・・様々な分野で法令・規則や「偽装」「隠蔽」「改ざん」「捏造」の禁止という印籠が思考停止を招いている現実について・・・。・・・「遵守」による思考停止のプロセスを検証・・・。・・・「遵守」という考え方から脱却するために・・・」(pp.9-10)。

 「無理解や誤解」に基づく「不正確」な不二家報道で、「特にひどかったのは、TBS系の情報番組「みのもんた朝ズバッ!」」(pp.22-23、p.41、163,166)。「・・・単なる形式的な社内基準違反に過ぎず、しかも、作為的な隠蔽を図ったわけでもないのに、不二家は「隠蔽」を理由に猛烈なバッシングを受け、企業としての存亡にかかわる事態に・・・」(p.23)。
 「食品企業として最も基本的な義務」である「食品を安定供給する社会的義務」を負う伊藤ハム。「社会全体の利益という観点から」考える必要があり、「客観的にみて健康被害の恐れがない程度の問題でただちに工場の生産を全面的に止めることが、本当に社会の要請に応えることと言えるのでしょうか」(p.39)。
 「このような日本の食品をめぐる報道の異常性を指摘し、問題提起しているジャーナリストもいます(松永和紀『メディア・バイアス ―あやしい健康情報とニセ科学』光文社新書、・・・)」(p.40)。

 一級建築士による「耐震強度偽装問題」。「建築確認申請の手控えや審査手続きの大幅な遅延」や「建築が一時的にストップし、住宅着工件数が激減、建築、不動産をはじめ関連業界は大変なダメージ」、「ビジネスの機会を奪う」、「建築不況」(p.46、47)。「建築確認が形骸化していたからと言って、日本の大規模建築物の安全性が低かったということではありません。・・・設計者、施工会社の信用が大切にされ、技術者の倫理観がしっかりしていたからです。/つまり日本の建築物の安全性は、従来から、建築基準法という「法令建築確認という「制度ではなく、会社の信用と技術者倫理によって支えられてきたのです」(p.49)。
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●『思考停止社会 ―「遵守」にむしばまれる社会―』読了(2/3)

2010年02月14日 14時01分37秒 | Weblog

郷原信郎著、思考停止社会 ―「遵守」にむしばまれる社会―

 上手く理解できない部分・・・。「二〇〇六年の前半、「史上最強の捜査機関・東京地検特捜部」が、堀江貴文と村上世彰という二人の「時代の寵児」に対して行った「劇場型捜査」は日本中を興奮の坩堝(るつぼ)に巻き込みました。・・・。検察が主体となって企業や証券市場に関連する経済犯罪を行うことの怖さを思い知らされたためか、その後三年以上、特捜警察による経済犯罪の摘発で目立ったものはありません。/一方で・・・消極姿勢をとっていることで、証券市場の公正を害し、一般投資家の利益を著しく損なう、悪質な証券犯罪が野放しになりかねない状況が生じています」(pp.78-79)。
 
やはり、裁判員制度には非常に大きな問題が。「・・・強盗のような伝統的な犯罪に対しては適切に対応できても急激に変化する経済社会の中で起きる経済犯罪や企業買収などに対して、適切な判断を維持していくことは極めて困難です。/・・・/この状況を打開するためには経済分野の事件の判断に関して検察、裁判所の組織を市民に開かれたものにしていくしかありません。司法制度改革の対象として、まず取り組まなければならないのは、経済司法の分野なのです」(pp.84-85)。「殺人、強盗致死などの伝統的な重大犯罪だけに市民を参加させようと裁判員制度は、司法制度の改革としてまったく方向を誤ったものと言わざるを得ないのです」(p.86)。

 
「市民が、被告人が死刑無期懲役かを判断する心理的重圧にさらされることです。それは、職業裁判官にとってすら、とてつもなく重いものです。・・・市民がそのようなとてつもなく重い重圧にさらされるのが、裁判員制度なのです」(pp.92-93)。ヨーロッパ型参審制とアメリカ型陪審制の「両者を混ぜ合わせて妥協した結果、・・・世にも稀な国民の司法参加制度が出来上がったのです」(p.95)。「最高検を頂点とする組織ぐるみで広報活動が行われ、検事正が法被を着たり、検察庁職員が幟を持って街頭キャンペーンをやったり、などというお祭り騒ぎが全国で展開され、挙句の果てには、「サイバンインコ」などという珍妙なキャラクターまで登場して、法務大臣がその着ぐるみを着てみせたりもしました。/こうした関係者の滑稽とも思える努力・・・」(p.96)。その法務大臣は「死神」と揶揄されたりした、現首相の弟である。
 
公判前手続きや裁判員の就業予定期間など、「そのような中途半端な状態で有罪か無罪かをきめたりすること自体が大きな問題になるでしょう。・・・/・・・ラフジャッジ粗雑司法)の恐れを生じさせます」(p.98)。
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●『思考停止社会 ―「遵守」にむしばまれる社会―』読了(3/3)

2010年02月14日 13時56分55秒 | Weblog

郷原信郎著、思考停止社会 ―「遵守」にむしばまれる社会―

 メディアに関する問題点も。「事件報道が冷静かつ慎重に行われているのであれば、・・・日本のマスコミ報道はそれとはほど遠いものです。/一度、メディア・スクラム(マスコミによる集団過熱取材)状態になると、個々の記者や個々のマスコミの力ではどうにもならないほど報道が過熱することは、松本サリン事件などの過去の多くの事件の例からも明らかです。重大であればあるほど、不正確な報道、歪曲されたセンセーショナルなものがあまりに多いというのが実情なのです」(p.100)。「このような一連の報道が、断片的に視聴した一般人に相当な予断・先入観を与えた可能性・・・。・・・裁判員裁判・・・、公正な裁判を行う上で重大な支障・・・」(p.101)。
 「「司法への市民参加」だけが自己目的化」(p.114)。

 年金制度の問題点。「制度で解決できないことを「非公式な調査」で解決」(p.137)しようとしている。
 もう一つの問題点は、トップの姿勢としての当時の舛添厚生労働大臣の発言と態度(p.150)。「自分の部下である社保庁職員をこき下ろし事実を確認する前から組織や部下の職員の刑事責任にまで言及したのです。/・・・基本的な事項について十分に理解していたとは思えません。/・・・社保庁職員に対する批判がここまでエスカレートすることはなかったでしょう」(p.151)。

 歪むマスメディア報道が「思考停止」状態の要因(p.160)。「記者クラブ制度による行政や政治とマスメディアとの癒着の問題」(p.161)。
 「ジャーナリズムには、真実に迫るための最大限の努力が求められるのは当然ですが、真実であるとの確証まではつかめない場合でも、事柄の性格によってはあえて取材結果を報道すべき場合もあります。また、速報性が要求される場合、まだ不確かな情報しか得られていない場合でも、その情報をあえて報道することが求められる場合もあります。そういう意味では、報道内容が百パーセント真実であるということは、もともとあり得ないはずです。/問題は、報道した内容について真実性に問題があるとの指摘があった場合にどう対応するかです」(p.183)。


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