Activated Sludge ブログ ~日々読学~

資料保存用書庫の状況やその他の情報を提供します。

●『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』読了(1/6)

2010年02月07日 16時57分48秒 | Weblog

下山事件〈シモヤマ・ケース〉』、2月に読了。森達也著。新潮文庫。2006年12月刊。単行本に続いて、購入。

 昭和最大のミステリーに対する、ワクチンなき「下山病」(p.68、325、376)。

 井筒和幸監督と『彼』こと柴田哲孝氏(p.400)。『彼』の正体は今回初めて「文庫版のための付記」で知る。

 国鉄三大ミステリー、あるいは、陰謀事件。「初代国鉄総裁である下山定則が、常磐線の線路上で轢死体で発見された下山事件、車庫にあった無人電車がいきなり暴走して運送店に突っ込み、多くの死傷者を出した三鷹事件、そして列車転覆してやはり死傷者を多数出した松川事件、この三つの事件が、一九四九年の七月から八月にかけて立て続けに起きた」(p.13、63、135、139)。
 「・・・初代国鉄総裁が就任早々に轢死体で発見されるというこの衝撃的な事件・・・。/・・・今も決定的な証拠はない。しかしこの事件がきっかけとなって、戦後日本の進路が、大きく軋みながらドラスティックに変わったことは間違いない。労働運動は大きな転機を迎え左派勢力は急激に衰退し、日本とアメリカの関係はより強固なものとなった。翌年に勃発した朝鮮戦争では、米軍からの特需がその後の高度経済成長の大きなきっかけとなり、その帰結が日米安保と五五年体制に結びついた」(p.31)。
 家永三郎さんは「・・・松川事件について、・・・「結果的にはこの事件が当時の権力者、支配者の側に大きなプラスをもたらした・・・。それまで政府は革新勢力に押されていたのだが、事件は・・・、日本の局面を大きく変えた」」(p.64)。

 児玉誉士夫、笹川、岸信介(p.44、162)。

 元共同通信の斎藤茂男さん(p.59)。新右翼「一水会」顧問の鈴木邦男さん(p.162)。安岡卓治さんと丹羽順子(にわ)さん(p.228、324)。
 斎藤茂男さんの訃報とやり残したこと。「こうして「週刊朝日」と自主制作ドキュメンタリー映画という二段構えの取材が始まった直後、斎藤茂男の訃報が届いた。一九九九年五月二十八日。享年七一歳。胃癌だった。・・・/・・・記事中には家族の談話として、斎藤が「ひとつだけやり残したことがある」と語っていたことが紹介されていた。/「その、やり残したことって何だと思う」/・・・「・・・・・・下山事件?」/「僕はそう思っている」」(pp.234-235)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

●『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』読了(2/6)

2010年02月07日 16時54分52秒 | Weblog

森達也著、下山事件〈シモヤマ・ケース〉』】

 ドキュメンタリー映画『』。「・・・オウム施設からみる社会の剥きだしの断面に衝撃を受けた僕は、「オウムを視点に見る日本社会」というテーマにこだわりつづけた」(p.133)。「オウムや下山事件以外にも、放送禁止歌動物実験、日本で死んだベトナム王族の生涯や超能力者の日常など、・・・視聴率が望めないことやテレビメディアにおいてはタブーであることを理由に、局からは拒絶されることが続いた」(p.133)。ドキュメンタリー映画『A2』(p.372)。
 「・・・「週刊朝日」のデスクに言われた「世紀のスクープ」という慣用句にあるのだろう。・・・このフレーズが、ここのところなぜかしっくりこない。口にするたびに舌の先に拭(ぬぐ)えない違和感が残る。/・・・事件の背景や真相を暴くこと・・・、それで終わって良いのかという感覚が、少しずつ僕の中に芽生え始めていたからだ。・・・ドキュメンタリー『』を撮る過程でメディアから疎外された僕は、それまで臆面もなく信じ込んでいた報道の客観性や中立性などの概念を、自分の中で一旦解体しなければならない局面に追い込まれた。その帰結として、僕らが取材で知ったつもりになっていた数々の事実が、実は事象の一面でしかなく、如何に不確かで脆弱な存在であるかということをつくづく思い知ってもいた。/要するに事実を暴くことは、僕にとっての最終的な目的ではない。知った事実を素材にして、そこから何を自分が感知するのかが重要なのだ。・・・「週刊朝日」が・・・それ以上は求められていない。僕の思いなど不要なのだ。/・・・僕はこの感情を封印した。想像すらできなかった事態が起きるのはこの翌年だ」(pp.199-200)。「・・・「週刊朝日」の短期連載では、事件の謎ときが主軸となる。・・・そこに付随する僕の煩悶(はんもん)や葛藤は、恐らく不要なものとして切り捨てられる。商業誌である以上、それは仕方がない。/謎は解きたい。でもそれだけで終わらせたくない」(pp.228-230)。
 『週刊朝日』の現編集長・当時記者山口一臣氏と諸永裕司氏(pp.195-197)。裏切り(p.313)。「『彼』・・・「もういいよ」と呆れたように言ったそうだ。・・・僕には連絡がない」(p.323)。「とことんやられている・・・。/呆れたように・・・」(p.368)、「・・・最低限の仁義はあるはずだ。・・・そのルールは守ってくれるはずだ・・・。」(p.372)。「・・・僕に一言知らせるべきだろう」(p.373)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

●『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』読了(3/6)

2010年02月07日 16時51分47秒 | Weblog

森達也著、下山事件〈シモヤマ・ケース〉』】

 キーとなるもの、「亜細亜産業」(p.65、316、367)、「矢板玄(くろし)」(p.41、66、203)、「キャノン機関」(p.132、160)、「ライカビル」(p.226)、初代国鉄副総裁・第二代目総裁加賀山(p.345)。
 「キャノン機関の犯罪であったことが公式に証明された鹿地事件や、・・・佐々木克己大佐事件・・・。・・・この時代はアメリカの諜報機関が背景に動く誘拐拉致事件が相次いだ。・・・。下山事件も含め、拉致監禁は占領軍諜報組織のお家芸のようだ」(p.160)。

 権力者やメディアの恣意的誘導。「・・・増田甲子七(かねしち)官房長官は公式発表した。三鷹事件直後の吉田茂の発言と同様に露骨なまでに恣意的な世論操作だが、アカ(共産党)への恐怖におびえる国民のほとんどは、この声明をまさしく額面通りに受け取った。/・・・子供の悪戯レベルの妨害事件までも、全国紙が大々的に報じ始めたと・・・。その理由は単純だ。不安や危機意識を掻きたてたほうが、読者の関心を喚起し部数は伸びるからだ。この構造は、・・・現在もまったく変わらない。いやむしろエスカレートしている。何か事が起きるとき、メディアはこれを煽り社会不安を掻きたて、そしてこれを利する力が闇に動く。/・・・自覚や葛藤をメディアが失ったとき、民意のスタンピード現象が起き、国家という共同体の暴走がいつのまにか始まっている。スタンピードを起こした牛の群れに、きっかけは最早わからない。ただ突進するだけだ。川に落ちるか崖にぶつかるまで。過去もそして現在も、日本はこの同じメカニズムをくりかえしている」(pp.139-141)。
 「・・・事件をきっかけに世論が大きく一方に動き、その流れを利する組織や人間たちが現れるというこの構造は、たぶん今も昔も変わらない。・・・地下鉄サリン事件を契機に国旗国歌法有事法制が具体的に決められ、北朝鮮拉致問題が大きくクローズアップされると同時に国交正常化が棚上げにされて最悪の日朝関係に閉塞したように、日本という国は常に、事件が起き、世相が沸騰し、行政やメディアがこれに便乗や従属するというダイナミズムをくりかえしてきた。/もちろんこの構造は日本だけの現象ではない。「9・11」後のアメリカ・・・」(p.208)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

●『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』読了(4/6)

2010年02月07日 16時49分25秒 | Weblog

森達也著、下山事件〈シモヤマ・ケース〉』】

 弱みにつけ込む宗教家もどき。「「・・・警視庁捜査一課は自殺と結論づけましたが?」/「一課? あそこは何が何でも自殺にしたかったんだよ。だから霊媒師まで連れて来た」/・・・捜査の打ち切りに、下山の家族、特に芳子さんは納得していなかった。自殺を主張する捜査一課の刑事が二人、霊媒師と称する女性を下山家に連れて行ったのはそのころだ。仏壇の前に座った彼女は突然、「私の死は自殺だ。このことをお前の口から世間に広めて欲しい」と芳子に語りかけた。要するに下山の霊が憑依したということらしい。/・・・/「芳子さんはすぐに彼らを追い返したひどい話だ、怒るのも当たり前だ」/「でも、どうして一課はそこまでして自殺にしたかったんでしょう」/「さあね。でもこれは事実だよ」」(pp.204-205)。

 
裏切りへの絶望と諦観、取材対象との関係。「・・・「週刊朝日」が店頭に並ぶ。その前に■■○○には会わねばならない。会って詫びねばならない。彼や彼の家の名誉やプライバシーを侵害することそれ自体を、過剰に詫びるつもりはない。加害はぼくらの仕事の宿命。掲載を止めろと詰め寄られても応じる気はない。・・・ただ予期しなかったこととはいえ、今回は明らかに手続きを誤った。加害が宿命だからこそ、僕はその加害に対して自覚的でありたかった。伝えねばならない。不意打ちだけはしたくない」(p.318)。
 「「最初から?」/・・・/「・・・・・・そのつもりでした」/「ずっと、俺や兄貴が下山事件の犯人かもしれないと思っていたのかい」/「思っていました。今もその可能性はあると思っています」/・・・/「・・・・・・信用した俺が甘かったんだよ。森さん、謝ることはないよ。あんたはそういう仕事なのだろう。信用したのは俺なんだから。」/・・・/■■○○は・・・仄かに赤みを帯びた目元が微かに潤んでいる。・・・/いつのまにか席を外していた奥さんが、皿に切り分けた西瓜をテーブルに運んできた。森さん食べてください。残されても困ります。夫婦二人で持て余すだけなんだから。切り分けた西瓜はもう元には戻せないんですよ。・・・甘さが左の奥歯に染みた」(pp.320-322)。「・・・静養中の■■○○に連絡を入れて、僕は撮影を打診した。連載が終わった直後だ。われながら呆れるほどの無神経さだ。/・・・/また新しい誰かを紹介してくれるのかい? と○○は受話器の向こうで快活に笑う。/・・・/・・・連載はすべて読み終えたはずなのに、彼の僕に対する姿勢には、まったくといっていいほど変化はない。・・・恨みごとのひとつも言いたくなるはずだと思うのだが、そんな気配は欠片もない。/もしかしたら○○は、最初に自宅を訪ねたその日から、僕の内心の思惑になんとなく気づいていたのかもしれない。・・・ふとそう思いたくなるほどに、○○は徹底して自然だった」(pp.362-364)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

●『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』読了(5/6)

2010年02月07日 16時45分48秒 | Weblog

森達也著、下山事件〈シモヤマ・ケース〉』】

 誰が得をしたのか? 「「あの事件で得をしたのはだれだと思いますか」/「それは、・・・加賀山さんだろうなあ」/・・・視線が合った。ほんの一瞬だけ停止した。・・・視線を逸らす。思わず口走ってしまったことを反射的に後悔した動作のようにも見えるが・・・。/得をしたのは加賀山。この台詞(せりふ)は、当時の国鉄関係者の何人かが口にした」(p.345)。
 佐藤栄作元首相と検閲で消えた名前。「・・・佐藤(栄作)に頼まれて、下山事件の下手人を逃がすために弘済会を利用させたんだ」(p.347)。「・・・ゲラを見て驚いた。「佐藤栄作」と記したはずが、「宰相経験者のA」という表記にかえられている。・・・/「・・・朝日は過去に佐藤栄作の自叙伝を出しているからだって」/「ジョークにもならない」/・・・連載に触発されて後世に残すべきかと煩悩しながら、意を決して僕を訪ねてくれたのだ。・・・決意と思いを、過去にその人物の出版物があるからという下らない理由で踏み躙られたくない」(pp.356-357)。

 バンクーバー映画祭での盛況下、次回作について。「・・・次回作について聞かれ、そのたびに僕は「シモヤマ・ケースのドキュメンタリーを今撮影しています」と答えていた。・・・事件の概要と併せて、「オウムを撮りながら、・・・シモヤマ・ケースがその後の日本の進路を変えたことは明白な事実だが、日本人のメンタリティにも大きな影響を与えた可能性があると思うのです」などと動機も説明した」(pp.360)。

 「その中曾根が田中角栄や児玉誉士夫と共に関与が噂されたロッキード事件の際に、子飼いの中曾根の逮捕だけは見送るようにと法相だった稲葉修に圧力をかけたことを四元は・・・インタビューで自ら明らかにしている。ちなみにこのときの検事総長は、かつて東京地検で下山事件を担当した布施健だ。/・・・/・・・四元の威光を背景にした中曾根は首相となって行革を推進し、一九八七年には念願の国鉄分割民営化も実現した。新しく発足したJR総連・・・は、革マルとの関係を取りざたされ、二〇〇二年には警視庁公安部によってJR東労組組合員六名と元組合員一名が強要容疑で逮捕されるという浦和事件が起きた。JR総連側は冤罪不当逮捕を主張している」(pp.383-385)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

●『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』読了(6/6)

2010年02月07日 16時41分20秒 | Weblog

森達也著、下山事件〈シモヤマ・ケース〉』】

 森さんの見るシモヤマ・ケースShimoyama Caseの本質。「アメリカにとって最も都合が良い展開は、下山殺害の背景に共産党が暗躍していたというイメージを日本人が抱くことだ。・・・共産化はくいとめられる。・・・マッカーサーとしては、最も好ましい展開だ。しかし警察が他殺の線で本格的に動けば、捜査の手がいつかは真相に及ぶ可能性はある。・・・警察や検察は抑えることはできるとしても、メディアによってこの謀略が世に知られることだけは、絶対に防がねばならない。なぜなら日本という国は総体として民意で動く。そしてその瞬間、アメリカは極東での足場を失う。/だからこそ公式には自殺にして、捜査は中断させねばならない。しかし総裁は殺されたのかもしれないという意識だけは、日本に根付かせたい。「何をするかわからない」共産主義によるテロの脅威を、しっかりと植え付けたい。/事態はまさしく、このとおりに展開した。下山の後に三鷹、松川と事件が続き、実際に共産党員が検挙されたことで、日本国民の不安と共産党への警戒心充分に喚起された。裁判はどうせ長引く。そのあいだに日本を変えればよいハリウッド 映画や野球やコカコーラで、アメリカナイズすればよい」(p.389)。その後の日米同盟関係、イラクへの侵攻、北朝鮮との関係・・・ご存じの通り。

 三つの書物の不幸な関係。解説は佐野眞一氏「戦後という時空間の底知れない闇」(p.407)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする