
マーガレット・アトウッド,鴻巣 友季子訳 「獄中シェイクスピア劇団」集英社 (語りなおしシェイクスビア 1 テンペスト,2020/9).
シリーズ・語りなおしシェイクスビア (Hogarth Shakespeare Series) としては,いまのところ本書以外に,エドワード・セント・オービン「リア王 ダンバー メディア王の悲劇」とアン・タイラー「じゃじゃ馬ならし ヴィネガー・ガール」が集英社から刊行されているようだ.
Amazon の紹介*****『テンペスト』の演出に心血を注いでいた舞台芸術監督フェリックスは、ある日突然、部下トニーの裏切りにより職を奪われた。失意のどん底で復讐を誓った彼は、刑務所の更生プログラムの講師となり、服役中の個性的なメンバーに、シェイクスピア劇を指導することに。
12年後、ついに好機が到来する。大臣にまで出世したトニーら一行が、視察に来るというのだ。披露する演目はもちろん『テンペスト』。フェリックスの復讐劇の行方は!? ――天才シェイクスピアと現代文学界の魔女アトウッドの才気が迸る、奇跡のような物語の誕生! *****
「テンペスト」は読んだことがない,というよりシェイクスピアは子どものとき,子ども向きに書き直した何編かを読んだ程度.あちらでも,シェイクスピアなら誰もが読んでいると言うわけではないらしく,ここでも原本から「テンペスト」オリジナル・ストーリーが訳出されている.ただし A5 版6ページ強に縮められると,登場人物が多くて何だかよくわからない.
山の手情報社 稽古場日誌に従い「テンペスト」を数行に要約すると
*****弟アントーニオの謀略によってミラノ大公の地位を奪われ,幼い娘ミランダとともにある島に流れ着いたプロスペローは,12 年後 復讐のために魔術で嵐を起こし,アントーニオとナポリ王アロンゾーら一行の船を難破させ島におびき寄る.彼はアロンゾーの王子ファーディナンドと娘ミランダが恋に陥るように仕向ける.いっぽうではアントーニオによるアロンゾー殺害の陰謀や奴隷キャリヴァンのプロスペローへの反乱が企てられるが,プロスペローは妖精エアリエルを使って阻止する.かつての仇敵たちを翻弄し懲らしめていくうちに,プロスペローは復讐のむなしさに気づき,彼らの罪を許す.ファーディナンドとミランダとのロマンスも実現する.*****
というわけで,獄中劇団による復讐劇テンペストの進行に,実社会でのフェリックスのトニーへの復讐が並行して進行するのが味噌.プロローグ - 第1部...第5部 - エピローグという構成で,第4部「荒ぶる魔術」が痛快.荒ぶるのは魔術ではなく,パソコン主体のチープなバーチャル・リアリティなんだけど.
そこに至る第3部までは登場人物とくに囚人たちと,シェイクスピア劇テンペストの登場人物との対比が面白いのだろうが,ぼくにはかなり保たれた.
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