
アリ・スミス,木原善彦 訳 「冬」新潮社 (クレスト・ブックス,2021/10).
カバーイラスト Sora Mizusawa.
図書館で借用.
出版社の紹介*****
年末の帰省で母に紹介するはずだった恋人と大喧嘩した男が、代わりに移民の女性を連れてきた。だが、実業家を引退し孤独に暮らすその母は、すっかり塞ぎ込んでいる。そこで息子は、母とは正反対の性格の伯母を呼び寄せた。水と油の人々の化学反応は、クリスマスをどう彩るのか。英のEU離脱が背景の「四季四部作」冬篇。*****
記述では現実と幻想がないまぜになり,時も行ったり来たりするので,時間がかかったが,いったん慣れた後は快調に読了.英語ならではの言い回しが頻出しているようで,翻訳の苦労が偲ばれる.
登場する「男」は優柔不断でつまらない奴だが,登場する女性たちはみな強烈.男の気の強い「恋人」は男のノートパソコンを破壊したりブログを乗っ取ったりする.実業家を引退した「母」と不仲な「伯母」は警察からも目をつけられている過激な政治活動家だった.
恋人と入れ替わりに,代役として男に雇われる「移民の女性」がいい.クロアチア難民のホームレスの彼女が「今までに目にした中で、いちばん美しかったもの」は,カナダの図書館に所蔵されている古い本のページに残されていた薔薇のつぼみの痕跡だという.著者の術中にはまった感じだが,いい雰囲気.
というわけで,本書カバーのキャッチコピーは*****分断の時代,見失われた人生に,嘘から始まった出会いが灯す小さな光*****である.
小説の時制上の現在は 2016 年のクリスマスなので,「冬」なんだろう.この著者は初体験だった.四部作の「夏」以外は邦訳が出ている.読んでみようかな...
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