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タレントでプロの漫画家。

2016-04-26 22:35:25 | 仕事関係

番組最終回の収録。

私は、番組最後のコーナーで
カメラに向かって自ら描いたイラストを手に話す彼女を
モニター越しに見ていた。




彼女の職業は

「タレントでプロの漫画家」

出会いは2年とおよそ9か月前に遡る。





「電話でお話ししたのが彼女、koppyです」

そう言いながらマネージャーが
彼女のプロフィールと
彼女が描いたという漫画のコピーを差し出した。

そのマネージャーの後ろで
自分は今、
ものすごく場違いな場所に居るのでは?という空気を出しながら
彼女は立っていた。

「じゃぁ、カメラ前で原稿読んでもらえる?」


かなりのショートパンツと厚底のヒール。
この手の格好でオーディションに来るタレントも珍しいな…

私は、モニターに映る落ち着かない様子の彼女を見ながら
少しだけ笑った。



「まだ経験が無いんで…」

マネージャーが言っていた通り、
原稿は読めずフリートークも全然ダメ。

でも、最終的に私の番組の司会は彼女に任されることになった。



「何か楽しそうな展開が期待できそう」

ほかのスタッフの意見にも押され、番組は走り出した。



そしてあっという間の2年と9カ月。



走り出した当初、彼女は本当に原稿が読めなかった。
僅かしかないタレントとしての経験が番組の中で露呈していた。


いろんなことを、一つひとつ教えた。

アクセントのこと。

テレビで言ってはいけないこと。

日本語の決まり。


なかなか上達はしないが、常に彼女は前向きで一所懸命だった。

前向きな性格は、優しい家族に囲まれて育まれ、
それは自身が描く漫画にも溢れていた。

そんな彼女の漫画は、
連載していた月刊誌でも人気があり、
番組でもその人気にあやかった。

フリートークは本当に上達しないが
月日が経つにつれ、
番組は認知度を高め、それなりの人気を得ていた。



そんなある日、
彼女が私に相談があると言って来た。
去年の2月頃。
いつもの笑顔は無かった。



当時彼女は、メディアの露出も少しずつ増え、
順調にタレントの仕事を増やしていた。

しかし、順調なタレントの仕事とは裏腹に
漫画家としての仕事が伸びなかった。

4コマ漫画という枠からなかなか抜け出せない自分と
忙しくなるタレント業のせいで
漫画を描く時間が削られることに苛立っていた。



「タレントを辞めたい… できるだけ早く」



彼女は私の前で、タレントとして言ってはいけない言葉を躊躇なく吐いた。



夢は長編の漫画。
漫画にチカラのすべてを注ぎたい。

焦れば焦るほど
インクが切れたペンのようにかすれていく夢に
いつもの優しい自分を見失っていた。





気持ちは分かるが、
いま考えすぎるのは良くない。
君はまだ若い。
もう少しゆっくり考えて答えを出しても遅くないから。

そう言って、じっとしていられない彼女をなだめた。



とりあえず、今年の3月末まではキチンと頑張る。
それからのことは、またその時に考えると話し合って決め、
落ち着きを取り戻した彼女はまた
いつもの笑顔でカメラの前に立った。

しかし、偶然か、それとも運命なのか、
彼女の番組は、会社の都合で今年の3月末で終わることが決まった。





そして最後の収録日。

彼女が、
「さすがに昨日は寝れなかった」と言いながらのぞんだ
最終回の収録。


苦手なフリートークで彼女は、
私に教えられた日本語の決まりや言い回しを
わざと使っているかのように喋った。


いつものように
間違えないように
伝わるように
一所懸命に。



そんな彼女を私はモニター越しに見ていた。




番組終了の時期を同じく
彼女には、短編ながら新たな漫画の連載が決まった。

やはり運命だったのかもしれない。



番組オープニングのイラストやタイトルロゴなど
その殆どを自分で作り上げた。

そんな私の愛した番組は終わり、
スタッフは散り散りになったが
楽しかった時間は忘れない。

君と仕事ができて良かった。



彼女の漫画が
いずれアニメとなってモニター越しに見られることを
心から期待している。


君が自ら選んだ道は、きっとこれまでよりももっと厳しい。


だから

がんばれ koppy




彼女の職業は「プロの漫画家」。














コメント
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