何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

言の葉を守る 言の葉の力①

2016-12-04 16:29:00 | 
「桜色の頬のお姫様ものがたり」 「素晴らしい朝(あした)を重ねて」

このところ話題にしている「桜風堂ものがたり」(村山早紀)
<名誉宮司は猫の「あいちゃん」 岡山・伊勢神社で参拝者の人気者>ニュースと同じタイミングで読んだために、猫に注目して書いてきたが、本来 本書は書店員を主人公に、リアル書店の実情を書いた作品なので、その点につき記しておかねばならぬと思うのは、書店の現状に危機感を覚えるからだ。(注、「リアル書店は消えるのか、模索する現場の本音」

「桜風堂ものがたり」によると書店の店員さんは、一押しの本を知ってもってもらうために、あらすじや本の一節をかいたpopを作ったり、時には手作りの帯を作ったりと様々な工夫をされているようだが、その前に、とにかく書店に人を呼ばねば、はじまらない。
その方法の一つとして、本書でもブックカフェをあげている。 
これについては、「リアル書店を救うには」で私は、「他人がコーヒー片手に読んだ本を、買いたいとは思わない」と書いた。それは、今もこれからも変わらないと思うが、本書には、そのようなアイデアを取り入れざるをえない書店の実情も書かれている。 (『 』「桜風堂ものがたり」より)
『書店に限らず、店というものは人を呼んでからが、「商売」だった。ブックカフェという形態や、あるいは大型化した書店が流行るのは、それが人を呼ぶからだ。ただ本を売る場所であるということだけでは、今の時代、もう書店は人を呼ぶことができない。できるかもしれないけれど、難しくなる。
そうやって純粋な書店の形態でなくなっていくことを、嫌う人々もいるだろう。
けれど、店が生き延びるためにはそういう工夫もありだろうと一整は思っていた。
自分は、本を売る場所をなくさない。
(このまま、滅び去ったりはしない)』

その形態を嫌う人がいると分かっていながら、『本を売る場所をなくさない』ために「アリ」だと云わねばならぬほど切迫した状況に追い詰められる理由が、人口減少問題ならやむを得ないし、100歩譲って、書店で現物を確認しネット注文する客の心理も(本の管理状況という点に鑑みれば)理解できなくもない。
だが、議論の余地なく許すべからざる行為が、書店を追い詰めているのが、現実らしい。
それが悲しい現実にもかかわらず、おそらく客への配慮から丸善ジュンク堂代取が口にしなかった悪質な行為が、書店を追い詰めていると本書は教えてくれる。
万引き
7年前の調査ではあるが(今なら被害はもっと拡大しているだろう)、全国の書店の万引き被害額は年間二百億円にもなるという。
『今の時代の万引きは、伝え聞く過去の時代のそれとは違って、お金がないけれどどうしても欲しかった本を、魔が差して一冊だけ、などという殊勝なものではな』く、換金目的の窃盗であることが主で、高価な本や話題の新刊をごっそり持っていかれてしまうという。
そもそも書店という仕事は、人件費と家賃が相当かかるにもかかわらず利益は少ないので、「儲かる」という仕事ではないらしいが、そのような状況でギリギリ踏ん張っている書店に追い打ちをかけるのが、万引きだという。
店によっては、売り上げと変わらないほどを被害を与える万引きは、『ボディーブローのようにじわじわとした痛みを店に与え』ているどころか、『いやいっそ、とどめを刺そうとしていたといってもいい』というほど、深刻な問題だという。

本書は、万引きはただ金銭の問題だけでないと書いている。
『書店には、棚にも平台にも、本や雑誌が美しく並べられていて、店に来るお客様たちは、自由にどの本でも開き、選ぶことができる。それはある種無邪気な、人間を信じることができるが故の無防備な信頼だ。その信頼を裏切られ続ければ、金銭的にも被害を受けるけれど、その前に、書店で働く人々の心はひどく傷つき、折れていってしまう。』

それは、何も書店に限る問題ではないとは、思う。
だが、書店は、売り物が’’本’’だけに、店員が客層の善意を信じたい気持ちは強いのかもしれない、そしてだからこそ、裏切られた時のショックも大きいのかもしれない。
そうであれば、言葉を編む本を扱う店らしく’’言葉の力’’で対応できないか、そのあたりは続く

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする