何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

世界を股にかけるけったいな人

2023-05-06 19:42:42 | 

普段しんどい大変と愚痴ってばかりのくせに、いざ連休になると、家の掃除しか思いつかないというのは ちと悲しい。
とはいえ、このところすっかりご無沙汰だった図書館でゆっくり過ごすことができたのは有難い。
そこで面白いというか懐かしい響きの本を見つけた。

私の大学生活は、湊かなえ氏の云うところの「祭りの後 世代」(「山猫珈琲」(湊かなえ)より)だった。
それまでのバブルが嘘のように急激に日本経済が冷え切っていくのを様々な局面で実感する日々ではあったが、それでも、まだ多少のバブリーな余韻はあり、(当時猫も杓子も着ていた)ラルフローレンのポロシャツや ソバージュにブランド物のバッグで身をやつした(今でいうところの)チャラい学生が違和感なく町にはいた。

だから、毎朝通学電車で出会う女子学生は目立っていた、と思う。
通勤通学電車、特に朝のラッシュ時は、乗る時刻も駆け込むドアも固定されてくるので、毎朝電車で乗り合わせるのは、同じ面子になる。

そこにいつも、艶やかなストレートの黒髪をゆるく三つ編みにし、真っ白なブラウスに紺のジャンパースカートを清楚に着こなし、地味な帆布の鞄をもった女学生がいた。
それは、すし詰めの電車に揺られる疲れたおじ様方にとって一幅の清涼剤のような存在だったと思う。

ある時、私の前にその女学生が立った。
普段は一人で乗っている女学生だが、その日は珍しく友人と一緒で、なにやらヒソヒソ話している。

三つ編み女学生「どっちの子供か分からない。どうしたらいいと思う?」
其処ら中で、、、、息を飲むのが感じられたし、その女学生たちの半径2メートルくらいの人間が皆、一斉に耳をそばだてた(と確信している。因みに、私を含め彼女の前に座っていた人間は皆思わず顔をあげ、女学生を見てしまった)

友人「同時に何人もと付き合うとそういうことってよく起こるよね。どっちでもいいけど、お金・頭・将来性の有利な方にあなたの子ができた、と言うべきだよ。あっ、でも、もし産むことになったら、血液型が問題か・・・」と。

すると、三つ編み女学生は密やかな声でしかし自信に満ちた表情で、こう言った。
「そこは大丈夫。いつもちゃんと気をつけてるから。同時に何人かと付き合う時は血液占いを装って、まず血液型を訊くことにしてるの」
「ルックスがいい今一番好きな人を選ぶか、顔はいまいち趣味ではないけれど内定先がよい人を選ぶか?このところ悩んでいたの。○○ちゃんに相談して良かった。今のルックスより将来の出世よね。今日は朝からスッキリしたわ」と、晴れやかに言いながら電車を降りて行った。

残された乗客は、特に男性陣は、一様に摩訶不思議な呆然とした表情を浮かべた顔をしばし見合わせ、そうしてまた下を向いた。

最近は皆 電車に乗るなりスマホを見るか音楽を聴いて自分の世界に入り込んでしまうので、あまり見かけることはなくなったが、当時は通勤通学電車に揺られていると、オカシな人や面白い光景によく出くわした。
そして、そのオカシな人や面白い光景を、夕食のとき話のネタにするのが私の常だった。

ある時母が、「電車で見聞きしたことを本にすると面白い一冊ができるわね。タイトルは「けったいな人々」がいいじゃない?」というので、大笑いしたことがある。

それに似たタイトルを、連休中の図書館で見かけた。

「けったいな人たち」(藤本義一)
説明書きには、『けったいな人、けったいな事と思うのは周囲の人々の判断であり、当の本人は自分がけったいな人とは思っていない。彼らは生き方に信念を持ち続ける情熱家であり哲学者なのでなないか』とある。

確かに、二股ならぬタコ股をかけ、そのなかの一番有望株をお腹の子の父にしようなどと朝っぱらの電車で相談するような’’けったいな人’’は、自分がけったいなどとは思ってはいないだろう。
誰を傷つけようと、真実が何であろうと、人から後ろ指を指されようと、上昇あるのみ!

どうりで日本がけったいになってしまったわけだ、としみじみ感じ入っている2023年5月6日である。

 

 

 

 

 

 

あの当時そこかしこにいた’’けったいな人たち’’が今まさに世界を股にかけ(彼女らにとって努力とはまさに、またのしたのくそぢから、なのだから)伸し上がり練り歩いている。
兄一家を蔑ろにし、旦那を篭絡したのと同じ手口で舅姑に取り入り兄嫁をいびり倒し、内孫を放り出す策を練る一方で我が子は村一番のガッコウへねじ込み、日々 母屋と跡目を乗っ取るために権謀術数の限りを尽くす。
そのやり口が近所中の軽蔑と嘲笑の対象になろうとも、隣村の村長さんのお披露目には、呼ばれもしないのに、兄一家を押込にしてまで、出かけていく。

こんな日本に誰がした、と嘆いている2023年の連休である。


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