波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

2015-05-02 09:38:26 | 散文詩



 ◇鞄 



すり切れた鞄を抱えた男が
鞄屋に入れば
鞄がどれも河馬のような口を開けて
男を呑込もうとする
こうなると
鞄の品定めをするどころではない
あたふたと鞄屋を飛び出し
逃亡者に成り変る

男の挙動に不審を感じて
鞄屋の追跡が始る
しばし後を付けて気づいたことには
男の手にあるのは
商品とはほど遠いすり切れた鞄一つ
それでは何故
あの男は逃げるのか
カバ、カバ、カバン
たった「ン」のあるなしで、
カバンがカバに変貌したなどと
信じて良いはずはない

だが、男の中には
かっと河馬が牙を剥いて大口を開いている
そこに落込んだら最期
熱い臭い息を吐出す焦熱地獄が待っている
一体いかなる潜在意識が、
男の底深く眠っているのか
乳児の頃、生母の背から大口の中に
填り込みそうになったのか。
手掛りを掴もうにも若死の母の記憶はなく
街を彷徨う身となった男に
時として
こんな馬鹿げた仕掛けの中から
沸々と恐怖が発酵してくる
カバ、カバ、カバン
その鞄屋が追ってくる
大口を開いて追ってくる


  ◇



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