竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

挽歌を捧ぐ

2011年04月03日 | 万葉集 雑記
挽歌を捧ぐ

集歌3336 鳥音之 所聞海尓 高山麻 障所為而 奥藻麻 枕所為 我葉之 衣浴不服尓 不知魚取 海之濱邊尓 浦裳無 所宿有人者 母父尓 真名子尓可有六 若草之 妻香有異六 思布 言傳八跡 家問者 家乎母不告 名問跡 名谷母不告 哭兒如 言谷不語 思鞆 悲物者 世間有

訓読 鳥が音(ね)の 聞こゆる海に 高山を 障(へだ)てになして 沖つ藻を 枕になし 蛾羽(がのは)の 衣よく着ずに 鯨魚(いさな)取り 海の浜辺に うらもなく 宿(こや)せる人は 母父(おもちち)に 愛子(まなご)にかあらむ 若草の 妻かありけむ 思(おも)ほしき 言伝(ことつ)てむやと 家問へば 家をも告(の)らず 名を問へど 名だにも告(の)らず 泣く児なす 言(こと)だに語らず 思へども 悲しきものは 世間(よのなか)にぞある

私訳 鳥が啼く声が聞こえる海で、高い山を部屋の壁として、沖からの藻を枕として、蛾の羽のようなうら汚れた粗末な衣すら着ずに、鯨を取るような大きな魚のいる海の浜辺で、人の気配もなく横たわっている貴方は、母や父には愛しい子でしょうか、若草のような初々しい妻がいるのでしょうか、横たわっている貴方が願うことを伝えようと想い、家を問うと家の場所も告げず、名前を問うとその名前すら告げない。母を乞うて泣く赤子のような片言の言葉すら語らない。思って見ても悲しいものごとは、人の生きるこの世の中だからある。


反歌
集歌3337 母父毛 妻毛子等毛 高々二 来跡待異六 人之悲沙
訓読 母父(おもちち)も妻も子どもも高々(たかだか)に来むと待ちけむ人の悲しさ

私訳 母や父も、妻も子供も背を伸ばし首を伸ばして彼方を眺め、貴方が還って来るでしょうと皆に待たれている、その貴方の身の上が哀れです。


集歌3338 蘆桧木乃 山道者将行 風吹者 浪之塞 海道者不行
訓読 あしひきの山道(やまぢ)は行かむ風吹けば波の塞(さや)ふる海道(うなぢ)は行かじ

私訳 葦や桧の生える山道こそを行こう。風が吹くと波が道を塞ぐ海沿いの道は行くまい。



想い

集歌793 余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理
訓読 世間(よのなか)は空(むな)しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり

私訳 人の世が空しいものと思い知らされた時、いよいよ、ますます、悲しいことです。



願い

集歌801 比佐迦多能 阿麻遅波等保斯 奈保奈保尓 伊弊尓可弊利提 奈利乎斯麻佐尓
訓読 ひさかたの天道(あまぢ)は遠しなほなほに家に帰りて業(なり)を為(し)まさに

誤訳 投げやりになり死にたいと思ってもあの世への道は遥か彼方です。今は本来の天職に戻って、その仕事に励んでください。


集歌996 御民吾 生有驗在 天地之 榮時尓 相樂念者
訓読 御民(みたみ)吾(あれ)生(い)ける験(しるし)あり天地の栄ゆる時にあへらく念(おも)へば

誤訳 みなさんと私は生きている甲斐があります。この日本(ひのもと)の天も地も栄える時をみなさんと共に迎える機会があると思うと。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 万葉集 枕詞「押し照る」を... | トップ | 次の記事へ »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (通りすがり)
2012-03-20 21:36:38
このような歌があるのですね。
なるほど、あの後にこれを選んだのですね。
もう一年、まだ一年 (作業員)
2012-03-24 10:09:52
丁寧にたどっていただきありがとうございます。
あれから一年、しかし、まだ一年です。

コメントを投稿

万葉集 雑記」カテゴリの最新記事