なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

むずむず脚症候群

2016年09月01日 | Weblog

 8月31日のNHK「ドクターG」は草場鉄周先生で症例は「むずむず脚症候群Restless legs syndrome:RLS」だった。昨年のプライマリ・ケア学会で、壇上の草場先生を(遠くから)初めて見た。いい声で滑舌も良く、男性局アナのようでかっこよかった。

 むずむず脚症候群は、睡眠障害の項でちょっとだけ出てくるのを読んだ程度で、れっきとした、それもコモンな神経疾患という認識はなかった。神経治療学会でガイドラインができていた(30ページくらい)。治療も、通常のベンゾジアゼピン系ではなくて、クロナゼパムを使用するくらいと思っていたが、ドパミンアゴニストを使用するのだった.

 機序は何だか難しいが、中枢のドパミン系の機能低下によるらしい。脳のドパミン濃度が夜間~早朝に低下するのが発症時間に関係している。

 併発する(睡眠時)周期性四肢運動periodic limb movement (in sleep)を伴うこともあり、厳密には睡眠ポリグラフ検査polysomnography(PSG)が必要になるが、普通の外来ではできない。NIH診断基準(2003年)では、臨床症状(というより定義そのまま)で診断するようになっている。

 面白いのは、体内の鉄欠乏がRLSの発症要因になっていて、低フェリチン血症(50ng/ml)があれば、経口鉄剤を投与するそうだ。また高齢者(特に認知症のある)では、RLSの症状をうまく表現できないので、変な訴えまたは不穏として見逃している可能性がある。認知症を伴う高齢者RLSの診断基準もちゃんとできていた。

 数年前に30歳代前半の女性で、いかにも神経質そうな方が日曜日の救急外来を受診したことがある。不定主訴~過換気症候群?として、アタラックスPの点滴静注をしたが、よくよく話を聞くと、RLSで不眠ではと思われた。県内有数の総合病院の精神科に通院していた。クロナゼパムを内服してもらうと症状が軽減した(自然経過かもしれないが)。3日分処方して、RLSの疑いがあるので、かかりつけの先生に相談するよう勧めた。

RLSの診断基準
1. 脚を動かしたいという強い欲求が存在し,また通常その欲求
が,不快な下肢の異常感覚に伴って生じる
2.静かに横になったり座ったりしている状態で出現,増悪する
3.歩いたり下肢を伸ばすなどの運動によって改善する
4.日中より夕方・夜間に増強する
診断を補助する特徴
1.家族歴
2.ドパミン作動薬による効果
3. 睡眠時のperiodic leg movementsが睡眠ポリグラフ検査上有
意に多く出現

認知症を伴う高齢者RLSの診断基準
1. 下肢の不快感を示す症状として,脚を揉む,さするなどの行
為や,下肢をつかみ苦しそうな状態を示す
2. 脚の過剰な運動が観察される.たとえば歩き回る,あるいは
ベッド上で蹴る,両脚をこすり合わせる,などの動作が見ら
れる.またじっと座位を保つことができない
3.下肢の不快感を示す症状が安静時にみられる
4.下肢の不快感を示す症状が運動により消失する
5. 下肢の不快感を示す症状,および脚の過剰な運動は日中より
も夕方から夜間にかけて強く出現する

 非薬物療法
• 原因疾患の検索と治療
• RLSの原因となる薬物や嗜好品の中止
 ドパミン遮断薬
 抗うつ薬(SSRI,三環系)
 抗ヒスタミン薬
 嗜好品:カフェイン,アルコール,ニコチン
• 睡眠衛生指導
 規則的な就寝と起床
 就寝前の激しい活動は避ける
• 簡単な行動介入
 就寝前に短い時間歩く
 暖かい風呂または冷たいシャワー
 四肢(脚)のマッサージ
• 適度な運動:全く動かないことや通常にない過剰な運動はRLS
の発症要因になりうる
• 体重の管理:健康的な食事と十分な活動
• RLS症状から注意をそらす工夫
 退屈でじっとしているときにはゲームなどに意識を集中する
• 情報サイトの利用(Information support:web sites and
patients support group)

RLSの治療に用いられる薬物
1.ドパミンアゴニスト
非麦角系  プラミペキソール (0.125 ~ 0.75mg/day)*
      ロピニロール (0.25 ~ 4mg/day)
      タリペキソール (0.4 ~ 0.8mg/day)
麦角系   カベルゴリン (0.5 ~ 2mg/day)
2.L-DOPA/ DCI製剤 (100 ~ 200mg/day)
3.ベンゾジアゼピン系薬物─クロナゼパム (0.5 ~ 2mg/day)
4.抗けいれん薬─ガバペンチン (800 ~ 1,800mg/day)
5.オピオイド
6.鉄剤
*保険診療の適応あり

わが国の現状に即したRLSの重症度別の対応例
• 軽症・間歇型
 1) 非薬物療法
 2) 低フェリチン血症(血清フェリチン値<50ng/ml) →経口鉄剤
 3) 薬物療法 
少量のドパミンアゴニスト(プラミペキソール)*またはクロ
ナゼパム
• 中等症・重症
 1) 非薬物療法
 2) 低フェリチン血症(血清フェリチン値<50ng/ml) →経口鉄剤
 3) 薬物療法 
① ドパミンアゴニスト(プラミペキソール)*
  RLS症状と不眠の両者をターゲットにするときは,タリペ
キソール
② ①単独で効果がないとき,または残遺不眠例では,クロナ
ゼパムを併用
③ ②併用でも効果不十分あるいは疼痛の訴えがあるときは,
ガバペンチン**を併用
*腎機能低下のある例では,ロピニロール
**ガバペンチンは保険診療上,他の抗てんかん薬との併用が必要

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