読書日和

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「美女と竹林」森見登美彦

2014-06-16 22:11:26 | 小説
今回ご紹介するのは「美女と竹林」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
「これからは竹林の時代であるな!」
閃いた登美彦氏は、京都の西、桂へと向かった。
実家で竹林を所有する職場の先輩、鍵屋さんを訪ねるのだ。
荒れはてた竹林の手入れを取っ掛かりに、目指すは竹林成金!
MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)のカリスマ経営者となり、自家用セグウェイで琵琶湖を一周……。
はてしなく拡がる妄想を、著者独特の文体で綴った一冊。

-----感想-----
森見登美彦氏自らを主人公にした、エッセイのような自伝的小説のような物語。
一人称は「登美彦氏」。
「エッセイのような自伝的小説のような」としているのは、ある程度自分の身の回りのことをエッセイ風に書いてはいるようなのですが、妄想が入ってぶっ飛んだ内容になっていて、どこまでが本当の話でどこからがフィクションなのかがよく分からなくなっているからです。

この雰囲気は「宵山万華鏡」に少し似ているとも言えます。

冒頭から
「森見登美彦氏は、今を去ること三年前、大学院在学中に一篇のヘンテコ小説を書いて、ぬけぬけと出版界にもぐりこんだ人物である」
とあってウケました(笑)
このヘンテコ小説とは「太陽の塔」のことです。
森見登美彦氏は京都大学農学部卒、さらに京都大学大学院農学研究科修士課程修了という農業学の王道を歩んだような経歴の人で、ここから大学院在学中に小説家への道を進んだのはかなり異例のことだと思います。

エッセイ風の作品だけあって、赤裸々な執筆事情も綴られていました。
「なりふりかまわずに大団円へ持ちこもうとしつつある『夜は短し歩けよ乙女』という小説」とあって、あれはなりふりかまわずに物語を終わらせていたのか…と思ったりもしました(笑)

登美彦氏は2006年の晩夏の夕暮れ、吉田山のふもとにある喫茶店にて、お気に入りのめんたいこスパゲティを食べていました。
小説家としての将来を不安視していた登美彦氏は思案に耽っていて、そして思いつきました。
「多角的経営!これだ!これしかない」
こうして登美彦氏は小説家の職業だけでは不安なので竹林ビジネスを始めることにしました。
ちなみにこの作品によると登美彦氏が大学院の研究室に在籍していた頃、研究対象は竹だったとのことです。

この当時登美彦氏は小説家をしつつ、職場で働いてもいたようです。
その職場の先輩に「鍵屋さん」という人がいて、鍵屋さんの実家が京都の桂にあり、竹林を所有しています。
鍵屋さんから竹林を刈る許しを得て、竹林整備に乗り出す登美彦氏。
内容紹介欄にあるような、とんでもない未来を夢見ているようでした。

竹林伐採は人生と同じである。彼の前に道はなく、彼の後ろに道ができる。
これは何だか良い表現でした。
あちこちに妄想が入ってはいますが、たまにシリアスな決め台詞的なものが出てきます。


登美彦氏は親友の明石氏に頼んで一緒に竹林を刈っていました。
しかし二人ともパワー系ではないので、すぐに体力的に限界になってしまいます。
この二人は「机上の空論(登美彦氏のこと)と司法試験勉強(明石氏のこと)にそれぞれ特化」とあって、まあこの二人で竹林を伐採するのは無謀だなと思いました。
明石氏は司法試験が近付いてきたため途中で離脱し、代わりに登美彦氏の担当編集の人達が援軍としてやってきたりもしました。

また、河原町BALのジュンク堂にて、「きつねのはなし」刊行記念としてサイン会を行ったとありました。
狐のお面をつけた関係者が威嚇する、たいそう薄気味の悪いサイン会だったとのことで、本当かどうか分かりませんが想像するとたしかに怖いなと思います

職場の同僚の恩田さんと桃木さんは、「聖なる怠け者の冒険」に出てきた、「充実した休日」を送ることに血道を上げている恩田先輩とその彼女の桃木さんのモデルになったのだろうと思いました。
結構森身見さんの作品を読んでいるので、こういうのが分かって面白かったです。

「登美彦氏が暮らしていた四畳半王国においては」などともあって、やはり登美彦氏は四畳半で暮らしていたのだなと思いました。
この経験が「四畳半神話大系」「四畳半王国見聞録」の執筆へと氏を導いたのでしょう。

竹林を刈りに行く道中、桂駅で降り立つのですが、「桂駅に降り立つ人間は、みな『阪急蕎麦』を食べなくてはいけない」とあって、阪急蕎麦がどんなものなのかちょっと興味を持ちました。
作中では食べるのが恒例になっていました。
ちなみに、竹林を整備するのがメインの題材のはずなのに、登美彦氏は色々やることが山積していてなかなか竹林を刈りに行くことができません。
その言い訳として色々な作品を執筆中だったらしく、「新釈 走れメロス 他四篇」「宵山万華鏡」のトップバッターを飾った「宵山姉妹」の名前が出ていました。
これらの執筆の大変さを熱弁し、竹林整備をさぼっているのを必死に正当化しているのが何とも面白かったです。

あと、2007年の本屋大賞で「夜は短し歩けよ乙女」が2位になったことにも言及がありました。
この作品によると、登美彦氏は本屋対象の授賞式に出席していたとのことです。
その受賞式会場での狼藉行為は本当なのか妄想なのか、よく分かりません(笑)
この時の上位三作品は

1位 「一瞬の風になれ」(著:佐藤多佳子)
2位 「夜は短し歩けよ乙女」(著:森見登美彦)
3位 「風が強く吹いている」(著:三浦しをん)

で、三作品全て読んだ私としては、この順位付けは妥当であったと思います。
「夜は短し歩けよ乙女」はその後「山本周五郎賞」を受賞しましたし、この辺りから登美彦氏の作家としての地位が磐石になっていったのではないかと思います。

本作「美女と竹林」で勉強になったのが、竹は百年に一度一斉に花を咲かせ、花が咲くと今度は一斉に枯れてしまうということ。
竹にそんな性質があるとは知りませんでした。

そして、なぜ本作のタイトルが「美女と竹林」なのか。
鍵を握るのはかぐや姫と本庄まなみさんかなと思います(笑)
美女は竹林であり、竹林は美女である、等価交換の関係にあると謎の理論を登美彦氏は語っていました。
最初から最後まで実話と妄想の境界線の見極めがつかない、くるくる回る万華鏡の世界に迷い込んだような作品だったなと思います。


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