読書日和

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「風が強く吹いている」三浦しをん

2008-01-26 23:59:23 | 小説
今回ご紹介するのは、「風が強く吹いている」(著:三浦しをん)です。
多少ネタバレも含まれていますので、ご了承ください。


-----内容&感想-----

竹青荘に住む10人が、ゼロから箱根を目指す青春小説。
彼らが通うのは「寛政大学」。
陸上の弱小校で、当然箱根駅伝に出場したことなどない。
ある日、蔵原走と清瀬灰二が運命的な出会いをしたことによって、清瀬灰二がずっと心に抱いてきた思いが動きはじめる。
清瀬灰二はずっと、竹青荘のみんなで箱根駅伝に出たいと思っていたのだ。
箱根に出るには選手が最低でも10人必要になる。
竹青荘には9人しかいなかったが、蔵原走が入ったことで、ついに10人になった。
かくして、箱根を目指す壮大な物語が始まっていく。


以下が竹青荘の10人です。

                  あだ名
蔵原走(くらはらかける)    走
清瀬灰二(きよせはいじ)   ハイジ
城太郎(じょうたろう)      ジョータ(双子の兄)
城次郎(じょうじろう)      ジョージ(双子の弟)
平田彰宏(ひらたあきひろ)  ニコチャン先輩(ニコチン大魔王なので)
岩倉雪彦(いわくらゆきひこ) ユキ
ムサ・カマラ           ムサ (留学生だがスポーツの留学生ではない)
坂口洋平(さかぐちようへい) キング(クイズ王なのが由来)
杉山高志(すぎやまたかし)  神童 (地元で神童と呼ばれていた)
柏崎茜(かしわざきあかね)  王子(漫画オタク。顔が王子っぽい。)


この10人は変わった人が多いです
タバコの吸い過ぎで部屋の外まで煙を撒き散らすニコチャン先輩。
電気を消して、真っ暗闇の中で風呂に入るムサ。
クイズ番組ばかり見ているキング。
部屋の床から天井まで漫画で埋め尽くされている、漫画オタクの王子。

こんな個性の強い面々を、うまくまとめるのが清瀬灰二です。
それぞれの特性にあった練習メニューを作ってあげたりと、選手としてだけではなく、指導者的な役割も担っています。

そして、天性の才能を持つ蔵原走。
彼は高校時代陸上部で、回りに注目される逸材でした。
しかしあることが原因で高校を退学。。。
以来、競技とは距離を置くようになった彼ですが、走ることだけは毎日欠かさず続けていました。
10人中最速のスピードを持つ走から見ると、ほかのメンバーの力量を物足りないと感じることもある。
ときに衝突し、仲直りし、ひたすら練習する日々。
もう部活のようにみんなで練習するのはこりごりと思っていた走だが、箱根を目指す毎日の中で少しずつ仲間の大切さを知っていく。
そして箱根駅伝三連覇中の王者・六道大学のエース藤岡の存在も、走の闘争心を沸き立てていく。
そして藤岡と清瀬灰二は、同じ高校で陸上部をしていたという過去がある。
お互いの実力を認め合う二人だったが、藤岡は名門六道大学へ、清瀬は弱小寛政大学へと、全く違った道を歩むことになった。
だが寛政大学が箱根の舞台を目指せるところまできたことによって、再び藤岡と相対することになる。

また、走の過去を知る者もいる。
東京体育大学の榊(さかき)だ。
榊と走は同じ高校で陸上部をしていた。
走が起こした事件が、榊には許せないらしい。
何かにつけて喧嘩を売ってくる榊が、私は大嫌いです。
済んだことをいつまでもネチネチと。。。
この榊に対して、走はたびたび感情的になってしまいます。
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな気配に、何度もはらはらしました
カッとなりやすい主人公は、しをん先生の作品では珍しいです。
でも、箱根を目指すには強い闘争心が必要だから、この性格は走るのに向いているかも知れません。

寄せ集め集団と思われていた寛政大学も、走やハイジのエース級の存在や、ほかのメンバーの進歩によって、徐々に注目を集めていくようになります。
奇跡の箱根物語、ここにありです


以下に、物語中で気に入った言葉や文をご紹介します。きっとこの本への興味が増すはず


心地いい。切り裂く風も、踏みしめる道も、この瞬間だけは俺のものだ。こうして走っているかぎり、俺だけが体感できる世界だ。

たとえば俺が1位になったとしても、自分に負けたと感じれば、それは勝利ではない。

頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ。

ジョージは、大切な兄であるジョータと自分を、だれかに比べられたりしたくなかった。ただ、「よく似た顔の兄がいるひと」として、自分自身を自然に認めてほしかった。

たすきに刺繍された「寛政大学」の銀色の文字が、風に翻った。

今日でおしまい。だけど最初で最後に、このスピードを味わえてよかった。

俺はなあ、ハイジ。これが夢であってほしいと思うんだ。二度と覚めたくないほどいい夢だから、ずっとたゆたっていたいと思ってるんだよ。

なんだろう、この感覚。熱狂と紙一重の静寂。そう、とても静かだ。

止めることはできない。走るなということはできない。走りたいと願い、走ると決意した塊を、とどめられるものなどだれもいない。

頂点が見えたかい?


というわけで、三浦しをん先生のすごさを改めて実感した今作でした
走っているときのランナーの心中を、驚くほどドラマチックに描き出していました。
テレビで見ているとわかりずらいですが、ランナーは常に仕掛けどころを狙っていたり、正確なラップを刻むよう細心の注意を払ったり、自分自身の体と対話したりしています。
この本ではそういうのが詳しく描写されていて、少しだけランナーの心理がわかったような気がします。
そして、熱い想いも。
自分の身を削ってまで必死でたすきをつなごうとする姿に、涙が出そうになりました。
もう走れなくなってもいい覚悟で戦うのは、正真正銘チームのためという心境なのだと思います。

こんなに熱い青春小説は初めて読みました。
500ページを超える長編ですが、話が圧倒的に面白いので、途中で読みやめることはありませんでした。
何より、ストーリーに魅力があります。
「この先はどうなるんだろう」と気になり、どんどん読み進んでいけます。
しをん先生の本は必ずストーリーに魅力があるのですが、今回は特にそれが際立ちました。
この本は、直木賞受賞の第一作だそうです。
直木賞受賞作の「まほろ駅前多田便利軒」と比べても、互角以上の面白さがあります。
久しぶりに青春を感じました。
興味を持った方はぜひ読んでみてください

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
わーいわーい (あかね)
2008-01-27 15:10:16
素敵レビューありがとうございます

読みたかった作品だったけど
今まで以上にさらに「読みたくなっちゃった」じゃないですか
三浦先生の作品ってけっきょく1冊しか読んだことがないのですが、読書サンのレビューを読んでいると
登場人物それぞれが個性的ってだけじゃなく
それぞれの関係性が深く描かれているから
魅力的なんだろーな~って思いました
とにかく私は「まほろ駅前~」読んだら、こちらを読みたいです
返信する
すごい! (viviandpiano)
2008-01-27 17:53:03
もう、絶対読みます!(キッパリ)
熱い青春小説にハマりたいお年頃(笑)
陸上の世界の奥の深さ、ちょっとは知ってるつもりだったけど、
この本読んだら、もっと知って好きになりそう♪
いい本を紹介してくださって、ありがとうございます!
返信する
あかねさんへ (読書日和)
2008-01-28 11:44:53
そうですね、三浦しをん先生の作品は、登場人物それぞれの関係性が深く描かれることが多いと思います。
だから先の展開も気になり、ワクワクしながら読み進められるのだと思います
ますますこの本に興味を持ってもらえて、私も嬉しいです
返信する
viviandpianoさんへ (読書日和)
2008-01-28 11:48:37
お年頃ですか(笑)
この本読んだらきっと熱くなると思いますよ
駅伝に詳しいviviandpianoさんでも、この本で新たな発見をするかも知れませんね。
ぜひ読んでみてくださいね

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こちらもおもしろかったです♪ (ふうたん)
2008-04-07 20:22:48
こんにちは。
三浦しをんさんの本は、この本くらいしか読んでいなくて、
あまりにもインパクトが強かったので、三浦しをんさんの
他の本に手を出すのをためらっていたのですが、
やっぱり、読んでみますね。

こうやって、自分以外の人が同じ本を読んでどう思ったか
知るのは、とても興味深いものだなあって楽しませて
いただきました。
これからも、いろいろな本を紹介してくださいね。
楽しみにしています♪
返信する
ふうたんさんへ (はまかぜ)
2008-04-08 14:06:39
三浦しをんさんの本はどれもオススメです

楽しくテンポ良く読めるのは、
「格闘するものに〇」、「仏果を得ず」。
シリアスでスリリングなのは
「月魚」、「白い蛇眠る島」。
ハードボイルドな雰囲気なのが
「まほろ駅前多田便利軒」です。
あと、人間ドラマがすごいのが
「私が語りはじめた彼は」。

どれもレビューを書いているので、良かったら参考にしてみてください

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Unknown (藍色)
2008-10-01 01:05:59
こんばんは。
二つの記事の、トラックバックありがとうございます。

はまかぜさんの記事を読みながら、読んだ時のことを思い出して熱い気持ちになりました。
箱根の部分からページを繰る手が止まらない位、ひとりひとりの気持ちが伝わってきましたね。
駅伝の舞台裏、参加条件や戦略までよくわかりました。
想いの熱さに夢中の一冊でした。
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藍色さんへ (はまかぜ)
2008-10-01 01:32:11
こんばんは。
「波打ち際の蛍」のトラックバックも無事に届いたようですね♪

箱根は本当に一人一人の気持ちが丁寧に描かれていると思います。
自分も物語の中に入って、一緒に箱根を走っているかのような気持ちになりますね☆
三浦しをんさんの作品の中で屈指の名作だと思います
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大好き (hito)
2008-10-04 18:33:47
はまかぜさん、TB&コメントありがとうございました!

本当にこれはいい作品ですよね!
熱い青春ストーリーが大好きで、「一瞬の風になれ」で感動した時にこちらを薦められたのですが・・大正解!すっかり魅了されました。

個性的で魅力的なメンバー、波はあったけれど結束した小さな弱小チームの箱根の戦いには何度も何度も泣かされました。

とても入り込んだので、しばらくは読み返すことができなさそうですが、何年か経ったら又繰り返し再読することと思います。
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hitoさんへ (はまかぜ)
2008-10-04 23:02:28
私も青春ストーリーは好きです^^
箱根での戦い、またそこにたどり着くまでの戦い、ともに熱かったですよね☆
最後、ハイジが選手生命を懸けた激走を見せたり、六道大学の藤岡と走の区間賞争いがあったりして、最後の最後までドラマチックでした。
文庫本が出たらまた読んでみたいと思います。
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