読書日和

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「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦

2014-06-02 23:52:59 | 小説
今回ご紹介するのは「新釈 走れメロス 他四篇」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
あの名作が京都の街によみがえる!?
「真の友情」を示すため、古都を全力で”逃走する”21世紀の大学生(「走れメロス」)。
恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀(「桜の森の満開の下」)。
馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者たちの行き着く末は?
誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

-----感想-----
森見登美彦さんが過去の文豪の作品をタイトルはそのままに、中身は現代にアレンジして書いた短編集です。
以下の五編によって構成されています。

山月記(中島敦)
藪の中(芥川龍之介)
走れメロス(太宰治)
桜の森の満開の下(坂口安吾)
百物語(森鷗外)

山月記は唐代の伝奇「人虎伝」に材を採り、「詩」に心奪われた李徴(りちょう)の悲劇的な運命を描いた短編。
藪の中は「古今物語集」に材を採り、一つの事実を多視点で語ることで心理の絶対性への懐疑を突きつける、芥川の中でも最も多用な<読み>が試みられている作品。
走れメロスは人間の信頼と友情の美しさ、大切さを力強く描いた太宰治の中期を代表する短編。
桜の森の満開の下は絢爛たる美の奥に潜む恐ろしさを幻想的に描いた作品。
百物語は日本の伝統的な怪談会スタイルの一つである百物語の集いを描いた、森鷗外円熟期の一篇。

これらを森見登美彦さんが書くとどうなるのか。。。
山月記は相当奇想天外な感じになりました。
まず最初の出だしから、

京都吉田界隈にて、一部関係者のみに勇名を馳せる孤高の学生がいた。
その名を斎藤秀太郎(しゅうたろう)という。


とあります。
またとんでもなくへんてこな大学生なんだろうなと思いました
しかもこの学生、留年と休学を巧みに使いこなし、11年も大学に居るというのです
ろくに単位も取らず、日々誰も読み手のいない小説を書いていました。
周りからは「器が大きいのか、底抜けの阿呆なのか。それは彼らには分からなかった。実際のところ、この両者を見分けるのは容易ではない」などと評されていました。

それから1年後、大文字山では前年の夏頃から風変わりな事件が相次いでいました
その風変わりな事件では森見さんの小説によく出てくる「詭弁論部」の部員も被害に遭っていました。
警察が大文字山に捜査に行ってみると衝撃の事実が明らかになり…といった物語です。
小説を書くことに心を奪われた斎藤秀太郎の悲劇的な運命だったなと思います。
まぎれもなく、「山月記」をモチーフにぶっ飛んだアレンジをした作品になっていました。

斎藤秀太郎は残りの四つの作品にも登場します。
五作品は全く違う短編のように見えて、実はつながっているのです。
それぞれの作品の登場人物が「一乗寺杯争奪戦」なる麻雀の勝負をしに一乗寺にある某家に集ったりもしています。

森見さんの普段の作風からはかなり異質な感じだったのが「桜の森の満開の下」。
かなりしっとりとした物語で、森見さんがこんなしとやかでもの悲しい文章を書くとは意外でした。
何度も登場する「哲学の道」、私も歩いてみたくなりました

「百物語」では「夜は短し歩けよ乙女」とのリンクがありました。
「偏屈王」というゲリラ演劇が学園祭を騒がせていましたが、それを指揮していた人が登場するのです。
その正体は何とも怪談チックでした。

そして五作品の中で圧倒的に面白かったのが「走れメロス」。
もうこれは爆笑ものでした(笑)
芽野史郎は激怒した。
という一文から物語は始まります。
「メロスは激怒した」のパロディというわけです。
芽野史郎には芹名雄一という親友がいます。
二人はともに「詭弁論部」に所属し、たがいに一目置いていました。
詭弁論部とは「世間から忌み嫌われることを意に介さずにのらりくらりと詭弁を弄し続ける」というすごい活動をする部活です
その詭弁論部の部室が突然「自転車にこやか整理軍」と名乗る屈強な男たちに襲撃され、こちらが詭弁を弄するスキも与えずに部室を封鎖されるという事件がありました。
しかも「自転車にこやか整理軍」を指揮しているのは、かの「図書館警察」の長官。
森見さんの他の作品で何度か名前の出てきた組織で、読んでいて「おおっ、あの組織がここで出てくるのか」と思いました。

図書館警察とは、そもそも付属図書館の図書を借り出したまま返却しない連中に制裁を加えて図書を回収すべく設置された学生組織である。
しかし近年、特異な情報網を大学内外に張り巡らせることで全学生の個人情報を一手に握り、あらゆる方面に隠然たる勢力を及ぼし始めた。
その頂点に立つ図書館警察長官はいわば陰の最高権力者であり、私設軍隊「自転車にこやか整理軍」を指揮して気に食わぬものを片づけ、酒池肉林も思いのままであるという噂であった。


とのことです。
ちなみに森見登美彦さんの小説に出てくる大学は「京都大学」なのですが、森見作品を読んでいると京都大学はとんでもなくへんてこな学生ばかりで、部活もへんてこなのがあり、さらにはへんてこな組織が好き放題暗躍しているとんでもない大学というあらぬ誤解をしてしまいそうです(笑)

芽野は詭弁論部を救うため、図書館警察長官に直談判。
すると図書館警察長官はある条件を突きつけてきます。
そこで芽野は
「一日だけ猶予をくれないか。じつはこれから郷里に戻って、姉の結婚式に出なければならないのだ。明日の日暮れまでには必ず戻ってくる」
と言います。
そして親友の芹名を人質として長官のもとに置くことになります。
ここまでは「走れメロス」のパロディなのですが…
校舎から外へ駆け出した芽野は、なんとそのまま逃走
しかも姉なんかおらず、全くの嘘でした。
親友を人質に出しておきながら、長官との約束など守る気はなく、バックレる気満々なのです。
芹名も落ちついたもので、
「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うなよ」
と悠然と言い放ちます。
激怒した長官は何としても芽野に約束を守らせようと、配下の者たちを刺客として逃走した芽野のもとに送り込みます。
こうして芹名と並ぶ詭弁論部屈指のひねくれ者、芽野と図書館警察長官の、京都の街全域を舞台にしたかつてない激闘の火蓋が切って落とされたのでした。
何という馬鹿馬鹿しい話なのだと、読んでいてかなりウケました。
長官の情報網は尋常ではなく広く、ちょうど通りかかって芽野の逃走を助けてくれたかに見えた人力車が実は長官の息のかかった者で、芽野を乗せて京都大学に連れて行こうとしたりしていました。
行く先々で長官の意向を受けた人が芽野を捕まえようとします。
「五十万の懸賞首よ!」
「おのれ長官、そこまでするか!」
この図書館警察長官と芽野の対決は面白すぎて笑いが止まらなかったです(笑)
森見登美彦さんバージョンの「走れメロス」、大爆笑物語として楽しませてもらいました


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