読書日和

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「きつねのはなし」森見登美彦

2014-06-14 14:48:50 | 小説
今回ご紹介するのは「きつねのはなし」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
「知り合いから妙なケモノをもらってね」
籠の中で何かが身じろぎする気配がした。
古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。
彼はそこで魔に魅入られたのか(表題作)。
通夜の後、男たちの酒宴が始まった。
やがて先代より預かったという”家宝”を持った女が現れて(「水神」)。
闇にわだかまるもの、おまえの名は?
底知れぬ謎を秘めた古都を舞台に描く、漆黒の作品集。

-----感想-----
物語は以下の四編で構成されていました。

きつねのはなし
果実の中の龍

水神

四つの作品は全くの無関係というわけではなく、それぞれ少しずつ繋がっているものがあります。
芳蓮堂という古道具屋であったり、謎のケモノであったり。
どの作品にも狐に似た胴の長い謎のケモノが出てきて、すごく不気味でした
一番面白かったのは表題作にもなっている「きつねのはなし」でした。

京都の一乗寺に芳蓮堂という古道具屋があります。
店主はナツメさんという30歳過ぎくらいの人です。
語り手はそこでアルバイトをする大学三回生の武藤。

物語に大きく関わってくるのが天城さんという変わったお客さん。
長い坂の上にある古い屋敷に住んでいて、裏手には常暗い竹林があります。
ある日、武藤が天城さんのもとへ行くことになった時、ナツメさんが言いました。

「お礼は後日、私が直接お持ちすると伝えて下さい。あなたは何をする必要もないのですよ。天城さんが冗談であなたに何か要求するかもしれませんが、決して言うことを聞いてはいけません。どんな些細なものでも決して渡す約束をしないで下さい。あの人は少し変わった人なのです」

武藤にくっつくほど額を寄せてゆっくりと語られたこの警告。
天城さんという人がただごとではない危険人物だということが窺える場面でした。
しかし武藤はつい天城さんのペースに乗せられ、部屋にある電気ヒーターが欲しいという天城さんにそれを渡してしまいます。
一件何事もなく日々が過ぎていくと思われましたが。。。
今度は天城さんが「探しているものを見つけてきてくれれば、ヒーターは返そう」と言ってきます。
その探しているものとは「狐の面」
ふとしたことで天城さんが探しているものと思われる狐面を見つけた武藤は、狐面とヒーターを交換。
ただし今度はその狐面が必要になって、武藤は天城さんに狐面を返してくれと頼みにいきます。
そこでもやはり狐面とある物を交換することになるのですが…
この交換がとんでもない事態を招いてしまいます。
何とかそれを返してくれと迫る武藤に天城さんは

「もう君は私の欲しいものを持っていない。可哀相に」

と冷たく突き放します。
顔に狐の面を被ってそんなことを言う天城さんを想像すると何とも不気味だなと思います。
全ての展開を見通したようなところのある天城さんに対しては、最初の要求に応じてしまったのが致命的な間違いでした。
終わり方もホラーチックで、おそらくナツメさんがそうしたのだと思いますが、なかなか謎めいた物語でした。

この作品は四編とも森見登美彦さんにしては珍しくシリアスな文章構成になっていました。
淡々とした語りになっていて、普段の独特な笑える言い回しが出てきません。
どの作品もミステリアスであり、ホラーの要素も含んでいて、森見登美彦さんの作品の中ではかなり珍しい部類になると思います。
私としては初めて読む森見作品としては「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」などの楽しい作品をお勧めしたいところです。
何作品か読んでからのほうが、この異色の作品を読むには良いのではないかと思います。


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