読書日和

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「スコーレNo.4」宮下奈都 -再読-

2014-04-19 19:15:15 | 小説


三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」以来の再読レビューとなります。
今回ご紹介するのは「スコーレNo.4」(著:宮下奈都)です。
※前回書いたレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

-----内容-----
自由奔放な妹・七葉(なのは)に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。
そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。
そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは……。
ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。

-----感想-----
主人公・麻子が中学一年生から社会人3年目(25歳)まで悩みながら成長していく姿を描いた小説。
解説によると「スコーレ」とはスクールの語源となった言葉で、余暇、遊びから転じて、真理探究のための空間的場所を意味するギリシャ語とのことです。
そして解説を書いた北上次郎さんは、このスコーレがヒロインの麻子には家族、恋愛、仕事、結婚の4つあったことが、本書のタイトルの意味だろうと解釈しています。
実際、四部構成となっている物語の「No.1」「No.2」「No.3」「No.4」はそれぞれ家族、恋愛、仕事、結婚をテーマとしていました。
私は特に物語のハイライトとも思える、ずっと自分に自信の持てなかった麻子が初めて自信を持った「No.3」が好きです。
靴屋での仕事に就いて1年、本人の不安とは裏腹に実は着々と成長していて、ついにその力が開花した場面は読んでいるほうも嬉しかったです

前回のレビューでそれぞれのスコーレへの感想は書いているので、今回は特に印象的だった言葉を中心に振り返ってみます。

まず「No.1」に出てきた以下の言葉。
P42
「欲しいものをあれほど欲しいと思える、七葉の心に私は負けている」
これは妹の意思の強さに打ちのめされ、敗北を感じた時の言葉。
これと決めたものに対して妹は絶対に譲らない、そしてそんな妹と取り合いをして一度も勝てたことがないともあり、妹への苦手意識が表されていました。

続いて、槇という従兄の”声”についての描写。
P105
「小学生の頃から涼やかな声だったと母は言うけれど、そういえば今は涼しいのを通り越して冬みたいな声だ。冬の夜、誰もいない公園の中を月に照らされて歩くみたいな感じがする」
これは表現が良いなと思いました。
冬の夜、誰もいない公園の中を月に照らされて歩くみたいな声、何となく分かります

高校時代を描いた「No.2」にて。
P128
「中心線からよろこびに十歩、悲しみに五歩、苛立ちや不安には三、四歩ずつの範囲だけ、感情を表すことに決めているようだった。ぷつぷつ泡立つ感情を微笑でくるみ、私たちは高校の教室で会う」
高校の友達に対しての描写で、どうしてこんなにいつも穏やかでいられるのかと評していました。
中心線からよろこびに十歩、悲しみに五歩、苛立ちや不安には三、四歩ずつの範囲というのが絶妙な表現で、たしかに高校時代は中学時代とは違い感情をフルには出さないで、こんな感じの機械的な対応をしたような気がします

「No.2」のラストに出てきたのが以下の言葉。
P158
「人生は勝ち負けじゃない。だけど私は負けているのだ。七葉のそばにいたら、きっとずっと負け続ける気がした」
これは前回のレビューでも取り上げた言葉で、「No.1」の時と同じく、妹への強い劣等感が現れていました。
妹から離れたいという理由で大学進学を機に家を出たくらいですから、余程コンプレックスになっていたのだと思います。

ここから社会人となる「No.3」。
P180
「居場所をきれいに整えることは、居心地をよくしてその場所を味方につけるようなものだ」
輸入貿易会社に入社した後、靴屋に出向になって、職場で居場所がなくなっていた麻子が朝、職場の掃除をしていた時の言葉。
何となく、つい掃除をさぼりがちな自分の部屋を思い浮かべました(笑)
たしかにきれいに整っていたほうが居心地も良いし、私もなるべくこまめに掃除をしようと思います。

P181
「言われるまま倉庫に靴を探しに行ったり、レジや包装を手伝ったり、仕事らしい仕事もしないうちに勤務時間が終わる」
これはそんなことはないです。
なぜなら倉庫に靴を探しに行ったりレジや包装を手伝ったりといったこと自体が、まぎれもなく”仕事”だからです。
最初は誰しもそんなものなのですが、麻子は自分が駄目だからだと捉えたようで、自分に自信の持てない麻子らしい考え方であると思いました。

P194
「捉えようのなかった靴屋という仕事が初めてこちらを振り返り、次の角あたりで待っていてくれそうな気配がしている」
物語を通して、麻子が初めて自分に自信を持った瞬間。
ここから激変して、仕事に充実感を見出していく麻子。
物語のハイライトの一つではないかと思います。

P229
「たしかに、あなたは人一倍熱心だった。ものすごい勢いで仕事を吸収してくれた」
麻子が働く靴屋の店長の言葉。
自分に自信の持てない麻子とは対照的に、周りは麻子のことを評価していたのが分かる描写でした。

ここから最終章の「No.4」。
P253
「津川さん、気持ちはありがたいけど、あなたはもっと自分に自信を持ちなさい」
靴屋への出向から元の輸入貿易会社に戻ってきて、再び自信がなくなっていた麻子に靴屋の店長がかけた言葉。
「二年一緒に働いて、私たちはあなたの目を信じてる」とも言っていて、麻子への絶大な信頼が現れていました。
自分への自信のなさがテーマになっている麻子にとって、心強い言葉だったと思います

P268
「靴を選びながら、なんと気持ちのいい仕事だろうかと何度もため息を漏らしそうになった」
輸入貿易会社での仕事でイタリアに靴の買い付けに行った時の言葉。
ついに、正真正銘吹っ切れて、自分への自信を確かなものにしたのがこの時でした。
元の輸入貿易会社に戻ってきてからしばらく失敗ばかりしていたのが嘘のように、ものすごい躍動を見せていました
靴に携わるこれこそが麻子の天職なのだなと思いました。

というわけで、1年ぶりに再読したこの作品。
私の10代における代表的な読書が綿矢りささんの「蹴りたい背中」だとすれば、20代における代表的な読書はこの作品かもというくらい、良い作品だと思います。
読むと前に進む力をもらえる貴重な一冊です


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2 コメント

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Unknown (ビオラ)
2014-04-25 14:56:10
内容的に、身近にありそうな、誰しもが経験して感じていそうな・・・、そんな共感できるものではないかなと感じました。
その中で良いのは、コンプレックスや劣等感を多感な成長期に経験する主人公が、前向きになって精神的に成長して前進して行く姿が、読む側に、力を与えてくれそうです。

仕事は、特に今の世の中、完璧な勝ち組と言うか、楽して出世している人は、いないのではないでしょうかね。
自分自身満足できて、人にも信頼されるようになるには、時間と努力が必要で、それと必ずしも自分に向いた仕事内容だけやれるとは限らず、不向きで苦手な内容の仕事だってやらざるを得ない時もあったりするし、ほんと苦労がつきものですが、頑張っている姿を、見ていてくれる人がいるものですよね。
苦労や努力の先には、成長があります^^
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ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-04-25 20:30:04
厳しい世の中ですからね。
なかなか思うようにいかない場合のほうが多いと思います。
そんな中で確かな成長を見せた麻子には、読んでいるほうも力をもらえました。
麻子の抱く心境に何だか私と同じようなのがあって、やっぱりこう思ったりするんだなと思いました。
かなりの良作なので、またいずれ読み返したいと思います
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