読書日和

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「サクラ咲く」辻村深月

2014-04-23 23:47:49 | 小説


本が呼んでいる気がして、気になって手に取ってみた一冊。
今回ご紹介するのは「サクラ咲く」(著:辻村深月)です。

-----内容-----
塚原マチは本好きで気弱な中学一年生。
ある日、図書館で本をめくっていると一枚の便せんが落ちた。
そこには『サクラチル』という文字が。
一体誰がこれを?
やがて始まった顔の見えない相手との便せん越しの交流は、二人の距離を近付けていく。(「サクラ咲く」)
輝きに満ちた喜びや、声にならない叫びが織りなす青春のシーンをみずみずしく描き出す。
表題作含む三編の傑作集。

-----感想-----
本作品は以下の三編で構成されています。

約束の場所、約束の時間
サクラ咲く
世界で一番美しい宝石

三作品はそれぞれ、少しずつリンクしています。
「約束の場所、約束の時間」の登場人物は「若美谷中学」の二年生。
「サクラ咲く」は、同じく「若美谷中学」の一年生。
「サクラ咲く」のほうで、登場人物が「約束の場所、約束の場所」の登場人物と中学校の廊下で会う場面がありました。
「世界で一番美しい宝石」の登場人物は「県立若美谷高校」の二年生。
時間的には「約束の場所、約束の時間」「サクラ咲く」から二十数年後ではないかと思います。
両作品に登場していた人物が「世界で一番美しい宝石」にも出てきて、とある生徒の父親、母親だったり、図書室の司書教諭だったりします。
私的には、図書室の司書「海野先生」が登場した時に、「そうか、結婚したのか」と感慨深くなりました

三編の中で特に面白かったのが「サクラ咲く」。
若美谷中学への入学直後の春から始まり、次の年の3月まで、約一年の物語です。

主人公は塚原マチ。
冒頭から他の生徒に学級委員の書記に推薦され、戸惑っていました。
マチは小学校の頃から自分の意見がはっきり主張できないこと、言いたいことが言えないことに悩んでいました。
その時も自分の意見が言えず、推薦されるまま書記を引き受けていました。

他の主なクラスメイトは、光田琴穂(ことほ)、守口みなみ、長沢恒河(こうが)、海野奏人(かなと)、高坂紙音(しおん)。
何だか洒落た名前の子が多かったです
守口みなみは、マチとは違って自ら学級委員長に立候補した積極的なタイプ。
そんなみなみと、本が好きという共通の趣味もあり、次第に仲良くなっていくマチ。
そしてこの作品では、「本」が重要な役割を果たします。
ある日、マチが図書室でリザ・テツナーの『黒い兄弟』という本を手に取っていると、本から一枚の細長い紙が落ちていきました。
それを拾い上げて見てみると、そこには「サクラチル」という文字が書かれていました。
誰がこれを書いたのか気になり、本の後ろに付いている貸し出しの記録カードを確認してみると、何かが書かれて消された跡があり、よく見てみると1年5組と書かれていたことが分かりました。
ただし名前は書かれていなく、誰なのかは分かりません。
マチと同じ1年5組の人が「サクラチル」という謎の言葉を紙に書いて本に入れたのかも知れないと思い、気にしていました。

その後しばらくして、今度は『続あしながおじさん』を借りようとしたマチ。
しかしページをパラパラめくると、またしても紙がはさまっていました。
今度はそこに、
「みんなが自分を見て、笑っている気がする。どうして、みんなにはっきり自分のことが話せないんだろう」
と書かれていました。
マチの心の声とそっくりな内容で、何だかマチ自身のことを言われているような気がして、一体誰が書いているのかとても気になるマチ。
その後もエンデの『はてしない物語』、『夏への扉』、『ナルニア国ものがたり』一巻の『ライオンと魔女』にも謎のメモがはさまっていました。
どうやら謎のメモをはさんでいる人とマチの「読みたい本の趣味」がとても近いということに気付いたマチ。
マチもメモを書いて本にはさんで、何とかこの謎の人物とコンタクトが取れないかと奮闘し、やがてついに相手からの返事が来ました。
正体は分からないながらも、相手もマチとの本を介してのやりとりは楽しいと思っているようで、しばらくやりとりが続いていきました。

この作品、文章へのふりがなの振り方からして、十代の若い子に読んでほしいという意思が込められていて、謎の人物の正体についても私はすぐに気付いてしまいました。
ただ気付いていてもどんな展開を見せるのか、とても気になる物語でした。
マチがどのタイミングで気付くのか、そしてどんな形で気付くのか、楽しみでした。

謎の人物とのやりとりでは、以下のやりとりが一番印象的でした。
「真面目だ、いい子だ、と言われると、ほめられているはずなのに、なんだか苦しくなる。はっきり言えないことを優しいって言ってくれる人もいるけど、わたしは、本当は自分が人に嫌われたくないからそうしてるんだと思う。わたしは臆病です。」
「断れない、はっきり言えない人は、誰かが傷つくのが嫌で、人の傷まで自分で背負ってしまう強い人だと思う。がんばって。」

何だか私も思うところがあって、背中を押して勇気付けてくれる、良い言葉でした。

以下、印象的だった言葉を二つほどご紹介。

「みなみってさ、しっかりしてるのはいいんだけど、一人でたくさんのことを抱えこんでがんばりすぎるんだよね。そんなんじゃ、いつか参っちゃうよ」

「がんばってれば、見ててくれるかな」
見ててくれるよ。
見ててくれる人は、必ず、どこかにいる。

私はこの作品には、作者の強い意志が込められていると思いました。
微妙な心理について鋭く描き出していたし、読んでいる人をハッとさせるメッセージ性を感じました。
一人でたくさんのことを抱えこんで頑張りすぎてるといつか参っちゃうというのはまさにその通りで、中学生同士の会話の中でこの言葉が出てきて、私はちょっと驚きました。
参ってしまわないためにも、頼ったり相談できたりする家族や友達の存在は大事です。

謎の人物は「サクラチル」の言葉が示すとおり、一度は散ってしまった人です。
その人物がもう一度希望を持つきっかけを作ったのがマチで、その過程でマチ自身も成長していきました。
サクラは散っても一年後の春にはまた咲きます
成長と再生をテーマにした、素晴らしい作品だと思いました


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