伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

みがわり

2023-03-19 20:41:24 | 小説
 デビュー作で文芸誌の新人賞を取ったもののその後2年新作長編が書けずにいて、その間に友人の画家とともに書いた絵本が出版されて、テレビのインタビューを受けた鈴木嘉子というペンネームの新人作家本名園州律に、テレビで見て亡くなった姉如月百合とうり二つだと言って会いに来た九鬼梗子から、姉の物語を書いて欲しいという依頼があり、200万円の報酬で毎週水曜に九鬼家に通って原稿を書くという約束をし、苦悶しながら書き続けるという設定で始まるミステリー小説。
 如月百合をめぐる事実から始まり、その周辺の人間関係の探索と真相のありかといったところでお話を進行させ、終盤には設定というかお話の構造が入れ子になっていく、そこを読ませる作品です。
 主人公というか、話者・視点も変転を見せ、誰の視線で読んでいくかもある種の混乱・困惑を伴いますが、私は、冒頭では小学校4、5年生くらいだろうかとされる(51ページ)年のわりには大人びた少女沙羅に惹かれてしまいました。
 ミステリー作品としてよりも、子どもの頃仲がよかったけれどもふとしたことでこじれて素直になれない家族関係のちょっと切ない物語と読んだ方がいいかもしれません。


青山七恵 幻冬舎文庫 2023年1月15日発行(単行本は2020年)
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調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス

2023-03-18 15:47:10 | 実用書・ビジネス書
 国会図書館でレファレンス業務に従事していた著者が、問い合わせを受けて調べ物をする際のコツを文書化した本。
 まずはネットで(Googleで)多くの情報を得ることができるようになった現在でも、検索で埋もれて見えにくいもの、そしてまだデータ処理されずに図書館の倉庫等で死蔵されているものなど簡単には行き着けない情報が多々あり、現在のそういう条件下でできるだけ答を見つけるための経験的な手法がいろいろと紹介されています。
 著者の関心と、著者が経験した問い合わせ・調査実例からと思われますが、人文系(基本的に理系の問題は書かれていません)の、人物・会社の存在・プロフィールや風俗・できごとを中心とする近世から戦前の時期の情報を調べるときのことが対象となっているので、そういう対象の調べごとには縁のない私には、そうかいろいろたいへんだなぁとは思うものの、これは便利というイメージは持てませんでした。
 Googleブックスなど、書物をデータ化したデータベース等の利用に際しては、誤変換が多々あることを考慮して検索しろと注意されていて、そこでは「大使館」を調べるのに念のために「大便館」も検索する(120ページ)というのは、そうかプロはそういう工夫をしているんだと感心するとともに、そんなこと教えられても素人には実践できないよと思いました。


小林昌樹 皓星社 2022年12月23日発行
皓星社メールマガジン連載
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心をラクにすると目の不調が消えていく

2023-03-04 22:37:42 | 自然科学・工学系
 心療眼科医という著者の専門、経験に基づいて、眼球に機能上、検査上異常が見られない目の疲れや痛み、不快症状が精神疾患や脳の制御系のアンバランス等によって生じる場合があり、目だけでは解決できず生活環境の改善や心の健康からアプローチする必要があることを論じた本。
 目の感受性はさまざまであること、現在の日本はどこへ行っても明るすぎ、日本では『暗いところで本を読むと目が悪くなる』と言われるが、欧米では逆に『明るすぎるところで本を読むのは目によくない』と教えられるということ(ただし、どちらも強い科学的証明はない)(67~68ページ)は、なるほどと思いました。
 近くのものを見るときは寄り目になる(輻輳運動というのだそうです)が、近くのものを見続けるとそれを止めてもなかなか目が元の状態に戻らなくなるとされています(57~60ページ)。それはパソコンでの作業か本を読むことを続ける実験で確認されていて、そうか、パソコンだけじゃなくて、本を読むというのも同じように目を疲れさせる行為なのだなと改めて認識しました。まぁ、どちらも止められませんけど。


若倉雅登 草思社 2022年7月15日発行
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漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022

2023-03-03 22:57:07 | 人文・社会科学系
 元NHK記者と元外務官僚が、あさま山荘事件/連合赤軍事件後弱体化してゆき漂流する様子を対談で概観する本。
 著者らが序章で左翼史を語る意味を、危機の時代に思想に踊らされない真の教養を身につける(16ページ)ことにあるとしているように、この本では運動の歴史ではなく思想の歴史を重視し、基本的には政治家の人の歴史が語られている感があります。著者らが作成したのではないのでしょうけれども、第1章では、70年代後半以降の新左翼は三里塚ぐらいでしか存在感を発揮する場所がなくなってしまったといいながら(47ページ)第1章関連年表(24~25ページ)では三里塚関係は管制塔占拠の1項目だけ、この時代は労働運動へ焦点が移っていった時代、日本の労働運動はかつてない高揚期を迎えた(62ページ)というのに第2~3章関連年表(60~61ページ)では労働運動関係はスト権ストの1行だけというのはなんなんだろうと思います。
 この本は過去の左翼の失敗から何らかの教訓を引き出す(169ページ)ことが目的の1つといい「対立する陣営に対して自分たちが優位に立つ、あるいは自分たちの優位性を第三者に見せつけるためにする論争を排し、代わりに実りのある発展性のある議論に結びつけるにはどうしたらいいのか」(169ページ)と問いかけています。批判が批判のための批判にとどまらず、議論が議論のための議論にとどまらず、生産的な営為でありえているかは、絶えず意識し続ける必要がある重要な問いだと思います。


池上彰、佐藤優 講談社現代新書 2022年7月20日発行
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