伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

家庭の科学

2014-05-14 23:47:45 | 自然科学・工学系
 ある不運な人物が、ある一日に朝目覚まし時計が鳴ったのに止めて寝過ごし、シャワーを浴びたらシャンプーですべって転倒、カミソリで頬を傷つけ、トースターでパンを焦がし、電子レンジに水の入ったカップを入れて加熱したら爆発…と次から次へとアクシデントに見舞われるという設定で、日常生活を支えている製品と自然、人体などの科学的な知識を説明する本。
 一般向けの解説書ですが、よくこれだけ広範囲のことを書けるなと感心します。ただ同時に、興味ある分野を掘り下げる本でもなく、体系的に書かれているわけでもないので、ややこじつけ的なアクシデントの流れを最後まで興味を持って読むというのもけっこうしんどいものがあります。
 私には、「最新のハードディスクは信じられないほどよく衝撃に耐えることができる。スイッチさえ切っておけば、これをボールに見立ててサッカーをしても、もとに戻せば問題なく使うことができる」(270ページ)とか、「虫垂は、以前はなんの役にも立たない痕跡器官だと考えられていたが、近年の研究により免疫細胞が豊富に分布していることがわかっている。虫垂には有用な細菌が少しだけ貯蔵されていて、病気により正常な腸内細菌叢が破壊されてしまったあとに腸内細菌が再び腸内全体に分布しなおすのを助けることもわかっている」(354ページ)とかが、興味深く思えました。
 さまざまな分野で、どんどん知識は更新され、昔の常識は通じないのねと思わせてくれる本です。


原題:THE UNDERCOVER SCIENTIST
ピーター・J・ベントリー 訳:三枝小夜子
新潮文庫 2014年2月1日発行 (単行本は2010年5月、原書は2008年)
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ニセモノ食品の正体と見分け方

2014-05-13 22:14:39 | 実用書・ビジネス書
 スーパーで販売されたり飲食店で使われている一般的な食材の成分、製法、表示等について解説した本。
 例えば人工霜降り肉は食肉用軟化剤と和牛牛脂をショ糖エステルなどの乳化剤を用いて乳化させ、40~50℃という肉質が変化するギリギリの温度管理で牛肉に注入してボールのように膨らませて加工したもの(17ページ)などと製法や成分が解説されています。そういうことを解説しつつ、「環境面を考えると食肉用油の廃棄量を減らして、安価なオージービーフなどを和牛のように味わうことができる優れた調理法のひとつ」(同)などと、ニセモノ食品の効用をも指摘しているあたりに、この本のスタンスが表れています。
 養殖マグロは大トロ部位が3割、中トロ部位が残りの6割近くという超メタボ(51ページ)、安売りホッケは人工霜降り肉同様に大量の味付け調味料や保存料、油を剣山のような注射器で注入し短時間で高温で炙り処理したもの(54~55ページ)、人工イクラは魚由来のものを一切使わずに本物とまったく遜色のない味を出していてプロも欺かれる、見分けるには味ではなくお湯につけて白濁する(天然)か溶けてしまう(人工)かで見るべき(75ページ)、外国産松茸は輸入時に徹底洗浄されるので香りはほとんど消し飛び松茸香料をスプレーして香りを付けている(78~79ページ)、みりん風調味料は色の付いたガムシロップで、料理のレシピで本みりんの分量でみりん風調味料を使うと実際のみりんよりはるかに甘いせいで味が台無しになる(162~163ページ)など、興味深い話が多数ありました。


中川基 宝島文庫 2014年1月23日発行 (別冊宝島:2012年11月)
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検証 福島原発事故・記者会見3 欺瞞の連鎖

2014-05-12 20:30:24 | ノンフィクション
 福島原発事故以降東京電力の記者会見に出席し続けている著者が、東京電力の記者会見での姿勢、特に事実を認めず隠蔽し続ける様子を中心に、一向に収拾に向かわない福島原発事故のその後をレポートした本。
 3作目になるこの本では、前半の4章を汚染水問題に充てています。例えば第2章では、汚染水の海への漏洩が疑われながら、いつまでたっても漏洩を認めようとしない東京電力と、漏洩してるに決まってると思いながらも東京電力が認めなければ書けない大マスコミの記者たち(東電がメルトダウンを認めるまで2か月間もメルトダウンと書けなかった記者たちの姿と重なる)、2013年7月10日に原子力規制委員会の島崎委員長代理から観測孔の水位が潮位と連動していないかの確認を要請され記者からも度々観測孔の水位データの公表を求められながら、そして観測孔の水位のデータは連続的に自動記録されていて東電が当然に把握しているにもかかわらず7月18日の記者会見で記者に観測孔の水位データの観測について聞かれて尾野昌之原子力立地本部長代理が「毎回ということではない。適宜、という状況であったと聞いている」「現場の線量もあるので、ある程度定期的に測りに行っているが、汲むたびに毎回ということではないということだった」などと嘘を言い続けて、参議院選挙投票日まで汚染水の漏洩を隠蔽し続けて、投票日の翌日の7月22日に初めて観測孔の水位データを発表するとともに汚染水の海への漏洩を認めたという経緯がわかりやすく書かれています。それにしても、この例に限らず、東京電力は都合の悪いことについてはどんな嘘でも平気でつけるのだと呆れますし、東京電力の担当者というのはこれだけ嘘を言い続けてよくその後も平気で人前に出ていられるものだと思う。
 切れ切れに報道される事実を、東京電力の姿勢・やり口を思い起こしつつ復習・再検討するのによい本だと思います。


木野龍逸 岩波書店 2014年2月27日発行
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国際原子力ムラ その形成の歴史と実態

2014-05-11 18:05:18 | ノンフィクション
 アメリカ原子力委員会(AEC)、国連科学委員会(UNSCEAR)、国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)などの放射線被曝に関連する機関の成り立ちと関係、これらの機関が広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査結果などを使って、チェルノブイリ原発事故による被曝者の疾病発癌を始めとする低線量長期被曝の危険性をいかに過小評価し握りつぶしてきたかを論じる本。
 前半は、あれこれ書いてはいるのですが、ICRPが放射線取扱医療従事者らの任意団体で国際機関ではないということと、WHOがIAEAとの1959年の合意書でIAEAとの合意なしに独自の見解を出せなくなっておりそのため放射線による健康影響については口出しができず公衆衛生の専門家でもない原子力推進機関のIAEAのやりたい放題になっている(25~27ページ、66~67ページ)ということが強調されている感じです。
 終盤の「がんリスクは10ミリシーベルトでも有意に増加」(95~117ページ)が一番目を引きまた読み応えがありました。原爆被爆者の超過癌死リスクのデータの読み方、原爆被爆者と核施設労働者、チェルノブイリ原発事故被曝者、日本の原発労働者、医療被曝者の追跡データから、低線量被曝の危険性が従来言われていたものより大幅に高いことを論じています。日本の原発被曝者の追跡データで「白血病を除く全悪性新生物による死亡率は、外部比較において日本人男性の死亡率より有意に高く、また内部比較において累積線量との有意な関連が認められています」としていながら「が、生活習慣等による影響の可能性を否定できません」とする放射線影響協会疫学センターの見解(106~107ページ)は見苦しい。著者は、ていねいにそのあとに飲酒率の定義を変えて原発労働者の飲酒率をかさ上げして飲酒のせいにしようとする政府報告書の欺瞞を指摘しています(107~110ページ)が、「累積線量と有意な関連」があったらあれこれ言うまでもなく被曝によるものでしょう。2011年から2012年に発表された新しい研究発表で、CT等による患者の医療被曝によって発癌率が有意に増加しているというのは驚きました。こういうことはもっと広く知られるべきだと思います。


日本科学者会議編 合同出版 2014年1月15日発行
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沈むフランシス

2014-05-10 23:36:12 | 小説
 世田谷区での男との暮らしに見切りを付けて会社を辞めて単身子どもの頃暮らしたことがある北海道の小さな村に移り住み郵便局の非正規職員として郵便配達をする35歳の撫養桂子が、離れた一軒家に一人住む謎めいた38歳男寺富野和彦に誘われ休日に自宅を訪れて肉体関係を持ち、寺富野が妻帯者で友人の妻にも手を出していることも知りつつずるずるとつきあい続ける恋愛小説。
 音に強いこだわりを持つ趣味のよい男という印象に桂子が惹かれていくということなのでしょうけれど、電力会社の協力企業の経営者のどら息子が妻を置いて一人会社の施設の見張りの楽な仕事名目で隠遁生活を続け趣味と女に明け暮れかなりわがままをやり放題というのを見ると、どうしてこんな男に主人公は惹かれ正体が見えても分かれようとしないのか不思議に思う。まぁおじさんのやっかみですけど。
 特にエピローグと断るわけでもないけど、冒頭にある川を流れるもの。思わせぶりですけど、正体がわかった時、ちょっと違う感が強い。これを最初に置いた作者の意図が今ひとつわからないというか、ずれたものを感じてしまう。


松家仁之 新潮社 2013年9月30日発行
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八割できなくても幸せになれる いまを無邪気に生きる術

2014-05-09 00:21:44 | エッセイ
 あれこれ考えずに素直にできることをまずとにかくやってみる、今を一生懸命生きようという基本線の人生論エッセイ。
 タイトルと「はじめに」(目次でははじめにになっていますが、該当箇所にはじめにとは書かれてないんですけど)の詩のような形の「二割できれば、充分なんだよ」では、人間には完全ということはない、「すべてを求めるのは不可能だし、いけないことなんだ」「あのメジャーリーガーのイチロー選手ですら、三割を良い形で残すことに苦心している。だから私たち常人は、二割もできればOKなんだ」「だから自分を見失ったり、自信をなくしたりしなくていい。誰でも何かしらの意味を持って生まれ、こうやって毎日を生きている。この世に必要ない人間なんて、一人もいないんだ。」(13~16ページ)なんてされていて、おぉ相田みつをかこれはと思いましたが、それはおいても、これがこの本の基本線かなと思います。でも、その後はあまりその基本線の話が出て来ない感じです。
 「心の中に子供を置く」(今自分がしていること、しようとしていることは、自分の子どもに見せて恥ずかしくないかをいつも問う)という話(52~55ページ)とか、「未来の子供から、今を預かっている」(先祖から引き継がれていることよりも、今の自分たちの行動が子どもたちの未来を決めることを意識すべき)という話(216~217ページ)とかは、ちょっと心に染みます。
 全体として、標語と短い説明で構成され、一つ一つはそれなりにいいかなと思うところもあるのですが、流れというか統一感が今ひとつ感じられませんでした。著者のプロフィールで、生命の危険すら伴う裏麻雀の世界で超人的な強さを誇り雀鬼の異名を取ったとされていることから期待されるような毒のある話はなく、どちらかと言えばきれいな普通の人生のあり方論が続いているのがやや期待外れでした。


桜井章一 竹書房新書 2013年5月21日発行
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生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント

2014-05-08 00:13:36 | エッセイ
 人生相談の形式のエッセイ。
 タイトルからは、普通にエッセイかと思えたのですが、全て人生相談の形式になっています。出版社(文藝春秋)の作品紹介では「『ぼくんち』『毎日かあさん』で知られる人気漫画家・西原理恵子さんが、波瀾万丈な人生経験をふまえて、恋愛、家族関係から仕事、おカネの問題まで、あらゆる悩みに答える『人生相談』エッセイです。」とか書かれていて、どこかに連載したものというふうにはなっていません。そうすると、この相談のクエスチョンはどうやって作ったのでしょう。法律相談の本なんかだと、執筆者が答えやすいような質問を自分で作ったりすることもままありますが、編集者とかけ合いで作ったとかでしょうかね。
 読む前から、そんなことでくよくよするな、ものは考えよう、気の持ちよう、開き直れという回答が多いだろうなと思っていましたけど、意外にまじめに答えてるじゃないのというのも多くありました。気の持ちようだ、開き直れという回答ももちろんありますが。
 「中2から高2くらいの男子は全員キモイ!」(168~170ページ)とかの回答は、う~ん、そういうもんかと複雑な思いで読みましたけど。ウザい先生への対処法について、ホステスや店員になったつもりでめんどうな客にどう対応すればいいかを考え、世の中に出たらもっと嫌な人はいっぱいいるからそういうのをかわす練習だと思えばいい、そうやって身につけたテクニックは将来必ず役に立つよ(209~212ページ)とかいう回答は、さすがと思いました。


西原理恵子 文春新書 2012年7月20日発行
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女のからだ フェミニズム以後

2014-05-07 00:44:39 | 人文・社会科学系
 中絶の権利・自由/産む・産まないの自己決定権のために闘い、女のからだについての認識・知識を広め深める運動を続けてきたアメリカと日本のフェミニズムの運動の経過を紹介し、近年の体外受精・代理出産などの生殖技術とフェミニズムの関係を論じる本。
 アメリカでは女性の自由が早期に確立されたような印象がもたれがちですが、大学(カレッジ)の学生の女子の割合は1920年には男子学生の47%だったものが1958年には35%に減少したことが紹介され(20~21ページ)、衝撃を受けました。1973年のロウ対ウェイド事件最高裁判決で中絶の権利が認められるまでの中絶を巡る運動の厳しい状況やその後も執拗に続く保守層による反撃・中絶実施クリニックへの焼き討ちなどの様子は、よく語られていますが、中絶非合法時代の1960年代にシカゴで匿名の女性たちが中絶希望者に寄り添いからだについての知識を普及・共有しながら、公然の秘密状態で中絶を実施してきた「ジェーン」の運動の紹介(55~64ページ)にはいろいろと考えさせられました。他の点では法を守る「普通の」女だったジェーンたちが中絶を必要とする目の前の女たちを助けるためには法を破ること、さらには医師だけの特権とされていた技術を自分のものとし、行使することをためらわなかった(64ページ)という記述には、少し胸が熱くなります。法とは何か、どのような場合にどのように法と闘うべきかは、いつも難しい問題ではありますが。
 中絶が禁止され、その自由化が獲得目標であり自由化後も保守派の反撃と闘い続けなければならないアメリカのフェミニズムに対し、「優生保護法」により戦後すぐに中絶が事実上自由化されており中絶問題の議論や保守派からの規制強化の動きが障害者の選別排除と絡められてきたが故に障害者団体から障害者選別排除を許してよいのかという問題を突きつけられてきた日本のフェミニズムの問題意識の違いと、その歴史的経過と問題意識が現在の生殖技術に対する評価・対応に影響しているという指摘には、なるほどと思うところもあります。私には、代理出産など、どう言い繕っても貧しい女たちに体を売らせ搾取するビジネスだと思えるのですけど。


荻野美穂 岩波新書 2014年3月20日発行
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税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ サラリーマンにもできる「合法的脱税術」

2014-05-06 02:32:13 | 実用書・ビジネス書
 元国税局の法人税担当調査官が「際どい節税策」(5ページ)を紹介する本。
 この本で紹介されている節税策は、基本的に給与所得者(サラリーマン)が副業として自営業特に不動産賃貸業を営みそこで実質的な生活費を大胆に経費計上して赤字を作って給与所得と通算することによって現実には赤字ではないのに事業所得は赤字・給与所得を赤字通算して減少させて税金を減らそうというもの。自営業者が生活費を経費計上しているという幻想を振りまいて給与所得者の不公平感を増大させるありがちなマスコミと税務署のプロパガンダと軌を一にするところは残念です。現実に自営業者がそれほどでたらめな経費計上をしているとは、私には思えませんが。それはさておき、給与所得者が事業に手を出すこと、特に不動産投資のような大きな金額をつぎ込むことには、相当なリスクがあります。著者もそのことには注意を喚起していますが、自営業者の厳しさ(給与所得者のように定額の収入がある保証は全くない)について、認識が甘いように思えます。特に給与所得者が勤務先を辞めて独立して契約を交わすことによる節税を勧める第4章は、極めてリスキーです。そういうことをしたらほとんどの元従業員は最初の仕事が済んだら契約を打ち切られ、体のよいリストラに遭っただけということになるのが関の山でしょう。
 最初の方で書いている扶養控除の利用で、別居して実質的には年金で暮らしている両親を扶養家族として申告し扶養控除を得るという手口について、「税務署員がこういうケースを自分で税務申告していることもけっこうあるんです」(54ページ)というのが、目を引きます。こう言われると、やってみたくなりますよね。
 私としては、節税策よりも、現在の税務政策の方向性についての著者の批判が興味深く思えました。長くなりますが、たいへん示唆に富んでいますので引用しますと、「消費税は低所得者ほど負担の大きくなる税金です。日本はどんどん格差社会になっているのに、それをさらに加速させる増税をしてどうするつもりなんだろう?と思います。また日本は、バブル崩壊以降、深刻な消費低迷に悩まされています。低迷している消費にさらに増税すれば、消費がさらに冷え込むのは目に見えています。」「今、日本で一番お金を持っているのは、大企業と金持ちです。バブル崩壊以降、日本経済は低迷しているといわれていますが、その陰で実は大企業はしっかりお金を貯めこんでいるのです。企業の内部留保金は、現在300兆円近い金額に達しています。現在の国税収入の7~8年分という巨大な額です。そして現在の企業の内部留保金は、ほとんどが設備投資などには使われず、現金預金、金融資産として会社に貯めこまれているのです。これだけの巨額のお金が会社の中で眠っていることが、日本経済の金回りを悪くしている要因でもあります。しかも企業の内部留保金というのは、バブル崩壊以降、ずっと増え続けているのです。2000年には180兆円程度しかなかったものが、現在は300兆円近くに達しているのです。この10年、サラリーマンの給料はずっと下がりっぱなしなのに、会社はしっかりお金を貯めこんでいたのです。また億万長者の数も、この10年で激増していることは。本文で述べたとおりです。これを見たとき、今どこに税金をかけるべきかは明白です。『企業や金持ちに増税すると、彼らが海外に逃げる』と思っている方も多いでしょう。でも、それは、財界の連中が『自分たちに増税させないため』の詭弁に過ぎません。今の税制では、『日本で金儲けをしている日本人(日本の企業)』が海外に逃げ出すことはできません。海外に出て行くのは、海外で金儲けをしている人(企業)、そして日本国籍を捨てた人です。日本でお金を貯めこんでいる企業や人というのは、日本で金儲けをしてきた人たちです。彼らは海外に出て行っても、金儲けはできません。だから、彼らは日本にとどまらざるを得ないのです。また海外に進出する工場などは、税金の安さを求めているわけではありません、法人税というのは、事業経費の中では1%にもなりませんので、法人税が高いか安いかというのは、企業活動にはほとんど関係ないのです。海外に進出する工場のほとんどは、現地の人件費や土地代、材料代の安さに惹かれてのことなのです。こういう企業は、日本の税金の多寡にかかわらず、海外に出ていくものなのです。だから、今日本がしなければならないことは、企業や金持ちに『ちゃんと税金をかける』ということなのです。これだけ格差社会になったのも、近年の大企業優遇、金持ち優遇政策のせいなのです。」(202~204ページ)。この本は2012年に書かれたものですが、消費税を増税してその税収で法人税減税をもくろむ、庶民いじめの現政権の政策にまさしく当てはまる批判だと思います。


大村大次郎 双葉新書 2012年11月11日発行
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職務質問 新宿歌舞伎町に蠢く人々

2014-05-05 20:05:46 | ノンフィクション
 職務質問の指導員をしていた元警察官の著者が、新宿警察署歌舞伎町交番に配属されていた頃の経験を綴った本。
 タイトルが「職務質問」で著者が職務質問の指導員ということから、職務質問のコツというか、警察官はどういうことから街頭で見かけた人物の嫌疑を判断していくのか、どのような質問で相手を追い込んでいくのかに興味を持って読みました。しかし、前者のどのような点に目をつけるのかについては、薬物中毒特に覚醒剤中毒の者についてはいい車に乗っているわりに掃除をせず車内が汚い、所持品が女性の場合でも高級バッグを持っているが中が汚く化粧品や生理用品などがバラバラに入っていて食べ残しまで入っている、家でも車でも壊れたところにはやたらとセロテープやガムテープを貼る(穴があるとそこから何か出てくるという強迫観念があるので塞がずにいられない)、煙草の吸い殻が長短ごちゃ混ぜで特にハイになっている時は火を付けてはすぐにもみ消す、落ち着きがなく行動がちぐはぐという特徴を書いています(134~136ページ)が、他の犯罪ではあまりそういうことは書かれていません。覚醒剤中毒患者について書かれていることも、なるほどと思う反面、整理が苦手な人は覚醒剤中毒じゃなくてもいるけどなぁと、それだけで覚醒剤中毒と疑われてはたまらないとも思います。後者の質問の方法というか職務質問でのやりとりでは、テクニックというよりはとにかく聞いてみるという感じで、むしろ聞かれた側がずいぶん素直にあきらめて認めちゃうんだなぁという感想を持ちます。
 警察官や治安維持を優先的に考える人々にとっては、職務質問はどんどんやって犯罪を発見し立件していけばいいということになるのでしょうけど、さしたる容疑もないのに職務質問をされる側の市民にはとても迷惑な話です。しかも何もしていないのに外見から一方的に容疑をかけられた時に、簡単に放してくれればまだしもしつこく付きまとわれ帰ろうとするとそれがまた怪しいなどとほとんど言いがかりのような難癖を付けられるということになると迷惑千万です。著者は、現場の警察官の犯罪摘発の熱意を称揚し「長野県の地域警察官がバイク2人乗りの少年に拳銃を突きつけて暴行したと逮捕され、懲戒免職になったが、あの警察官は少しもやり過ぎではない。あれが普通である。使命感に燃えているなら、あんな行動に出るのは当然だ」としています(284~285ページ)。犯罪者を多数立件できればまったく無実無関係の多数の市民に一方的に嫌疑をかけしつこく付きまとって職務質問をし場合によっては交番に同行したり誤認逮捕して巻き添えにしてもかまわないという価値観(イラクやアフガニスタンでテロリストを摘発するためには無実無関係の市民を誤認逮捕や射殺してもやむをえないというのと同じ価値観)で警察の現場が動くことには、強い危惧感を持ちます。覚醒剤所持の嫌疑をかけて、任意同行だといってベルトを掴み、力一杯引っ張ったからベルトが切れ、被疑者が警察官がベルトを壊した、任意といいながらこんなことしていいのかと言うのに対して、著者が見物人に対して「この男はおかしいんです。みなさん、帰ってください」といい、駆けつけた弁護士に見物人の一人がベルトは被疑者が自分で切ったと嘘を言い弁護士に対して「こんなやつを守るなんて、お前ら弁護士が世の中を悪くするんだ」というなどして追い払ったというケースが得意げに紹介されています(145~152ページ)。嘘を言って警察に味方する自警団感覚の「市民」が現実にいて、特に治安維持がマスコミで叫ばれるとそういう人物が増えてくることも予想されますが、そういうことで警察がやりたい放題になっていくのはかなり危険なことだと私は思います。


高橋和義 幻冬舎アウトロー文庫 2011年12月10日発行
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