伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

職務質問 新宿歌舞伎町に蠢く人々

2014-05-05 20:05:46 | ノンフィクション
 職務質問の指導員をしていた元警察官の著者が、新宿警察署歌舞伎町交番に配属されていた頃の経験を綴った本。
 タイトルが「職務質問」で著者が職務質問の指導員ということから、職務質問のコツというか、警察官はどういうことから街頭で見かけた人物の嫌疑を判断していくのか、どのような質問で相手を追い込んでいくのかに興味を持って読みました。しかし、前者のどのような点に目をつけるのかについては、薬物中毒特に覚醒剤中毒の者についてはいい車に乗っているわりに掃除をせず車内が汚い、所持品が女性の場合でも高級バッグを持っているが中が汚く化粧品や生理用品などがバラバラに入っていて食べ残しまで入っている、家でも車でも壊れたところにはやたらとセロテープやガムテープを貼る(穴があるとそこから何か出てくるという強迫観念があるので塞がずにいられない)、煙草の吸い殻が長短ごちゃ混ぜで特にハイになっている時は火を付けてはすぐにもみ消す、落ち着きがなく行動がちぐはぐという特徴を書いています(134~136ページ)が、他の犯罪ではあまりそういうことは書かれていません。覚醒剤中毒患者について書かれていることも、なるほどと思う反面、整理が苦手な人は覚醒剤中毒じゃなくてもいるけどなぁと、それだけで覚醒剤中毒と疑われてはたまらないとも思います。後者の質問の方法というか職務質問でのやりとりでは、テクニックというよりはとにかく聞いてみるという感じで、むしろ聞かれた側がずいぶん素直にあきらめて認めちゃうんだなぁという感想を持ちます。
 警察官や治安維持を優先的に考える人々にとっては、職務質問はどんどんやって犯罪を発見し立件していけばいいということになるのでしょうけど、さしたる容疑もないのに職務質問をされる側の市民にはとても迷惑な話です。しかも何もしていないのに外見から一方的に容疑をかけられた時に、簡単に放してくれればまだしもしつこく付きまとわれ帰ろうとするとそれがまた怪しいなどとほとんど言いがかりのような難癖を付けられるということになると迷惑千万です。著者は、現場の警察官の犯罪摘発の熱意を称揚し「長野県の地域警察官がバイク2人乗りの少年に拳銃を突きつけて暴行したと逮捕され、懲戒免職になったが、あの警察官は少しもやり過ぎではない。あれが普通である。使命感に燃えているなら、あんな行動に出るのは当然だ」としています(284~285ページ)。犯罪者を多数立件できればまったく無実無関係の多数の市民に一方的に嫌疑をかけしつこく付きまとって職務質問をし場合によっては交番に同行したり誤認逮捕して巻き添えにしてもかまわないという価値観(イラクやアフガニスタンでテロリストを摘発するためには無実無関係の市民を誤認逮捕や射殺してもやむをえないというのと同じ価値観)で警察の現場が動くことには、強い危惧感を持ちます。覚醒剤所持の嫌疑をかけて、任意同行だといってベルトを掴み、力一杯引っ張ったからベルトが切れ、被疑者が警察官がベルトを壊した、任意といいながらこんなことしていいのかと言うのに対して、著者が見物人に対して「この男はおかしいんです。みなさん、帰ってください」といい、駆けつけた弁護士に見物人の一人がベルトは被疑者が自分で切ったと嘘を言い弁護士に対して「こんなやつを守るなんて、お前ら弁護士が世の中を悪くするんだ」というなどして追い払ったというケースが得意げに紹介されています(145~152ページ)。嘘を言って警察に味方する自警団感覚の「市民」が現実にいて、特に治安維持がマスコミで叫ばれるとそういう人物が増えてくることも予想されますが、そういうことで警察がやりたい放題になっていくのはかなり危険なことだと私は思います。


高橋和義 幻冬舎アウトロー文庫 2011年12月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする