伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

これでアメリカのビジネス法務の実際がわかる

2007-05-18 08:51:25 | 人文・社会科学系
 アメリカで事業を行う際に関係する法律問題の解説書。
 基本的なことは同じように思えますが、改めてアメリカのルールが関係者を対等とみなして自己責任で交渉決定することに重きを置いていて社会的弱者の救済という視点が乏しいことを実感します。
 特に労働分野を見ると、差別については日本より厳しい制裁がありますが、差別に当たらなければ経営側はやり放題という感じです。契約の決め方次第で解雇はやり放題、経営者は労働者に有給休暇を与える義務もないし、残業規制もない(但し時間外の割増賃金率は日本より高い)、健康保険に加入させる義務もないという具合。
 規制は少なく、その代わり規制している分野では刑事罰は極端に重い。
 最近の日本の政治はこのアメリカ型を目指しているわけですが、アメリカ型の公平性・透明性は徹底されずに自己責任と厳罰化だけが進むと、かなり生きにくい社会になるでしょうね。
 この本は基本的には経営者側の観点で、わりと淡々と書いていますが、コラム部分で著者の心情が現れていてホッとします。そちらの方が読ませどころかも。


鈴木淳司 日本評論社 2007年3月31日発行
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14歳

2007-05-16 22:27:54 | ノンフィクション
 人と同じはいやで正直なだけという14歳の引きこもり少年だった著者の少年時代・お笑いを目指すまでの手記。
 「僕が今しなければならないこと。それは本当に僕が出るべきレース場を探すこと。」(28頁)「学校に通ってたんじゃ時間がたりない。学校に通ってたらスピードが落ちる。」(52頁)なんて言いながら、やっていることは学校に行かず、家族とも接触せず部屋でたばこを吸ってテレビを見続けるだけ。それでただ苛立ち、時々キレて暴れて壁に穴を開けるだけ。結果として高校中退で吉本からデビューしたから学校に通ってたらスピードが落ちるなんて後付で言ってるだけで、当時からそう思ってたとは感じにくい。自分のやりたいことはこの学校(進学校)に行くことじゃないと言い続けるだけで、じゃあ何をしたいのか、何が自分のレースなのか、自分のリングなのか、見つけようとする行動は全然取っていません。お笑いの世界を目指したのだって、結局は兄からそう決められて付いていっただけだし。親や先生から提示された道は、全てそれだけで否定しているのに。その全否定していた進学校にだって、より厳しい全寮制の高校を見に行くや、突然自由を感じたりするし(122頁)。まあ、そのあたりが14歳なんでしょうけど。
 初出は月刊誌への1998年から1999年の連載だそうです。どうして今頃になって単行本化したんでしょうね。


千原ジュニア 講談社 2007年1月15日発行
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「最後の社会主義国」日本の苦闘

2007-05-15 08:31:35 | 人文・社会科学系
 日本の高度経済成長を支えた護送船団式資本主義が社会経済環境の変化により機能不全に至った後、日本における改革がなぜ遅々として進まないかについて考察した本。
 著者の主張は、日本のシステムは、政府が負担すべき社会保障の負担を低額にとどめ企業が従業員の首を切れない終身雇用制や効率の悪い高額のサービス(電力や金融サービス、公共事業)を維持することにより成人男子の生活を保障し、女性に無償で(キャリア・自己の収入を犠牲にして)育児・介護等を負担させることで成り立ってきた。政府の社会保障支出は年金と医療保険に集中し、雇用保険、職業(再)訓練、児童手当などの分野では極めて低く(85~95頁)その負担は企業と女性に強いられてきた。しかし、これらの犠牲を負担してきた企業(特に輸出産業)と女性は、そのシステムの変更を政治に迫る(声を出す)のではなく、海外への移転や就職または結婚・出産の断念という形で降りていった(退出する)。
 著者の独自の主張は、この退出が、不可能であれば(出口がなければ)企業や女性が否応なく改革を求めることになり改革が進み、また退出が極めて容易で大量であれば政府・官僚がそれを阻止するために改革をせざるを得なくなり改革が進むが、退出にコストがかかり一部の者だけが退出できるときには本来改革運動の核となるべき有力な者(企業で言えばソニーとかトヨタとか)が改革の意欲を失って改革運動の力をそぎ残された改革反対派が相対的に力を持って改革が進まないというもの。日本の改革で大規模社会保障では介護保険だけが実現したのは女性に退出の余地がなかった(子を持たないことは選択できても親を持たないことは選択できない)ため、サービス改革で迅速に実現したのが(外圧が強かった通信改革を除けば)金融サービス改革だけなのは外国市場への流出が極めて容易で大量だったことによるとされています。
 考察としてはおもしろく、社会保障や労働問題に関心があれば、厚さのわりに読み通しやすい本です。
 ただ著者の主張は、労働市場では解雇を容易にして終身雇用を解体しそれにより中途採用も容易にするという方向で、政府による雇用保険や再訓練、労働条件の確保が伴わなければ企業側の好き放題になる話で、(社会保障の充実を言っているはずなのに)新自由主義的な匂いも感じます。
 訳文で、文脈からは労働法制、労働のルールというべきところが「就業規則」と訳されていたり(330頁、344頁等)するのはかなり興ざめでした。


原題:RACE FOR THE EXITS : The Unraveling of Japan’s System of Social Protection
レナード・ショッパ 訳:野中邦子
毎日新聞社 2007年3月25日発行 (原書は2006年)
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実録詐欺電話 私はこうしてだまされた

2007-05-14 06:31:16 | ノンフィクション
 有料サイト料金名目の架空請求振り込め詐欺に2度引っかかった経済評論家のノンフィクション。
 普通の感覚で言えば振り込め詐欺になんかひっかかりそうにない、経済評論家でしかも元新聞記者の著者が、現実に電話がかかってくると冷静な判断も他人への相談も相手への切り返しもできないまま、むざむざとATMから2回も現金を振り込んでしまった様子とその時の心理が書き込まれています。
 私たち弁護士は(あるいは消費者センターは、警察は・・・)電話で振り込めなんて言われても一切相手にするな、毅然と対応するようにって必ず言いますが、そう言われても現場では対応できないことが強調されています。う~ん、そう言われてもこちらも困るんですが・・・。著者も言っているように、せめて債権回収会社を名乗りながら振込指定口座が個人名義なんてお粗末なことには、詐欺だと気づいて欲しいものですが(もちろん、きちんと会社名義の口座を作っている詐欺師もいますけど)。
 冷静に対応できなかった事情として、氏名をきちんと特定され、社会的地位がありながら出会い系サイトにアクセスしていてそれがばれると困るという思いがあったことが挙げられています(54~56頁)。「それまでの評価が逆転するときの怖さは、よく知っている。私の頭に、痴漢容疑で逮捕された某大学教授が浮かんだ。この国は、いわゆる落ち目の人間に冷たい。ちやほやしていた新聞記者も掌を返すだろうか。」(56~57頁)元新聞記者が書いているだけに説得力があったりします。そうするとむしろ知識人は詐欺に引っかかりやすいと言えるかも。困ったものですね。
 基本的には自分の詐欺被害体験だけで書いているので、後半ちょっと間延びしているのが残念ですが、実におもしろく読めました。


日向野利治 すばる舎 2007年2月22日発行
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法律学講座双書 会社法(第9版)

2007-05-13 09:43:04 | 人文・社会科学系
 会社法の教科書。
 典型的な「法律の教科書」の体裁で、注釈が多い、場合分けした上でほとんど同じことが繰り返し書かれている、詳細は条文や別の文献を見ろということが多いなどのため、読み通すのはかなりの苦労を要します。
 弁護士が仕事に使うときは、(決して全部を読み通さずに)関係する場所だけ拾い読みするし、必要なものは別の文献でもどこにあるかだけわかれば助かるので、こういう形式でいいのですけど。今回、仕事上の必要からではなく、めまぐるしく改正されている会社法をお勉強してみようと思って通し読みしてみて、改めて法律の教科書って通し読みしにくいと感じました。
 会社法の分野は特に改正が頻繁なので、以前とどう変わったという注釈がやたらと多いのも通し読みには苦痛を増しています。これまた仕事上読むときは必要な注釈なんですが。法律関係者以外で読み通せる人がいたら、感心しますね。
 それにしても学生の頃はこういうの何冊も並行して読んでいたんだなあと(当時も平気じゃなかったけど)ちょっと感慨深く思いました。


神田秀樹 弘文堂 2007年3月15日発行
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サラ金崩壊 グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争

2007-05-10 08:23:32 | ノンフィクション
 2006年の貸金業規制法改正・グレーゾーン金利撤廃の過程を取材したノンフィクション。
 当時の報道などからある程度は推測していましたが、裏側で消費者金融側・消費者金融寄りの国会議員らの暗躍・抵抗があり、むしろ刑罰ライン(出資法の上限金利)を利息制限法の金利あたりまで下げられたのは様々な人の努力と幸運があったからだとわかります。金融担当大臣が消費者金融に厳しい与謝野馨だったとか政務官に後藤田正純がいたとか金融庁の参事官室課長補佐に二弁の消費者委員だった森雅子弁護士が任期付公務員で行っていたとか、たまたま人の配置の妙もあったんですね。ただ官僚と自民党政治家が永田町の感覚で見通していた落としどころが様々な事情と力学で消えていった経過は興味深く読めました。
 レイク(GE)が金融庁の貸金業懇談会でドイツやフランスでは実質金利が日本より高くなったケースとして出した「ケース」がGEが勝手にシミュレーションしたもので実例ではなかったとか、自社で作成しどこにも発表していない意見書を「米国の論文」と称して出していた(113~114頁)とか、さすが裁判所でも「10年たった取引履歴はコンピュータ上自動消去された」なんて誰も信じない主張をし続けているレイクらしいでたらめぶり。経過で聞いてはいましたけど、改めて読むと、やはり外資系(消費者金融でいうとレイクとCFJ)は庶民の敵ですね。


井手壮平 早川書房 2007年3月31日発行
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日本の地誌

2007-05-09 08:18:54 | 人文・社会科学系
 日本地理の本。
 著者と趣旨からして大学の教科書と思って読んだのですが、パートごとに執筆者の関心で記述項目にかなりムラがあります。日本地理の概要を把握するというニーズにはあまり応えていない感じ。北九州地方(福岡、大分、佐賀、長崎)では福岡県のことしか書いてないし。
 町おこしの観点での記述が多く、新しい情報が書かれているのが売りでしょう。倉敷の産業観光とか吉野川流域の農業とか、東海地方の水道事情とか新潟の定期市とか麻布や行田の近代史なんかの記述は薄い本のわりに書き込まれています。東海村の農業とか六ヶ所村の変容とかは原子力問題について無批判な書き方に私は疑問を感じますが。
 図版が相当数入っていますが、わかりにくい図が多くて残念でした。


立正大学地理学教室 古今書院 2007年4月1日発行
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スイスの使用説明書

2007-05-08 08:11:18 | 人文・社会科学系
 スイスの政治・文化等についての解説書。
 高い物価、よそ者には理解できない交通ルールの実情やゴミ出しのルールなど、著者自身の怨嗟の念が生々しく感じられる話や独特のカードゲーム「ヤス」とか独特の格闘技「シュヴィンゲット」の話は興味深く読めました。
 しかし、著者のうち1人がドイツ出身で、基本的にはスイスのことをよく知っている人たち、特にドイツ人向けに、皮肉とパロディで読ませるタイプの本になっています。スイスのことを元々知らない人には、著者の話がまじめに書いているのか皮肉・ジョークなのかの判別にちょっと苦労します。真に受けて読んでいると文脈がおかしく感じ、それでああ皮肉かとわかるところが少なくありませんでした。


原題:GEBRAUCHSANWEISUNG fur die SCHWEIZ
トーマス・キュング、ペーター・シュナイダー 訳:小山千早
新評論 2007年3月5日発行 (原書は1992年、1993年、1996年改訂)
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スワヒリ語のしくみ

2007-05-06 08:36:47 | 人文・社会科学系
 スワヒリ語の入門書。
 スワヒリ語って文字はローマ字、母音は日本語と概ね同じ、読み方の規則ははっきりしていて(ほぼローマ字読み、アクセントは原則として後から2つめの母音)部外者にそれらしく聞こえるように読み上げるのは簡単そうですね。そのあたりフランス語と同じ(私は大学時代法学部では異端のフランス語選択)。もちろん、ネイティブにスワヒリ語だと思わせるのは難しいでしょうけどね。
 疑問文は語尾を上げるだけとか、否定疑問文への答え方とかは日本語と同じパターンだそうで、最初は、あっ意外に難しくないかもなんて思いました。でも単数・複数で名詞だけじゃなくて修飾語にも接頭語が付き、その接頭語とか「こそあど」が名詞のグループ(果物グループとか道具グループとか人間グループとか樹木グループとか板グループとかその他グループとか)によって変わるそうで、そのあたりでもう挫折。元々語学は苦手な方ですから。
 例によってご挨拶(Hujambo!:フジャンボ こんにちは)と愛してます(Ninakupenda:ニナクペンダ)だけ頭に入れておくことにしました。


竹村景子 白水社 2007年3月28日発行
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オリュンポス 下

2007-05-05 14:08:55 | 物語・ファンタジー・SF
 前作の「イリアム」が長大な挙げ句に読み終わってもほとんどの謎が解決されずに、続巻の「オリュンポス」に委ねられていることを、「イリアム」を読んだとき(2006年9月)に嘆きましたが、この「オリュンポス」を読み終わっても、人類とヴォイニックス・キャリバニの戦いやトロイア戦争・オリュンポスの神々の戦いにはけりがつけられるものの、上位神のプロスペロー、エアリアル、キャリバン、セテボスらについてはほとんどわからないし決着もないまま。特にシコラックスとセテボスと「静寂」の関係が何の説明もないのはあんまり。
 謎解きの類も、量子宇宙論の用語を並べてごまかしているだけでほとんど説明になっていないように思えます。話の設定が矛盾だらけなのは訳者自身があとがきと註解で指摘しています。壮大な物語の設定を楽しめればいいという読み手には楽しめると思いますが、緻密なタイプの人はやめた方がよさそうです。私も「イリアム」を読んでしまったから結末を知りたいと思って、さらに長い「オリュンポス」も読みましたが、まだこの続編が出るとしたら、今度はパスします。
 訳者の指摘とは別に、「イリアム」であれほど人間のファックスや再生院に嫌悪感を示していたハーマンたちが、何の抵抗もなくファックスし再生院の復活を望んでいるのも違和感を持ちました。
 そして何と言ってもオリュンポスの下巻で地球に暗黒時代をもたらした災厄をユダヤ人の受難とイスラム狂信者のテロ(ルビコン・ウィルスと潜水艦「アッラーの剣」に登載されたブラックホール爆弾)、「ハーン帝国」の支配と書かれたあたりから、もうまじめに読む気失せました。「文明の衝突」とか「悪の枢軸」とか言っている人達のための慰みだったんですね。下巻だけで休日まるまる2日かかったんだけどなあ・・・。
 これを読む前に「英詩のわかり方」を読んでいたんで助かりましたが、ギリシャ神話+プルースト+イギリス文学、特に詩とシェークスピアの引用に満ちた衒学趣味的作品です(上巻では少し少なかったんですが下巻ではまた大量に出てきます)。未来の地球においてさえラストでシェークスピアが最高の天才と位置づけていますし。その意味ではスペース・オペラではなくてイギリス文学SFという新しい(たぶん読みたい人は稀な)ジャンルを開拓しているというべきかもしれません。


原題:OLYMPOS
ダン・シモンズ 訳:酒井昭伸
早川書房 2007年3月31日発行 (原書は2005年)
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