伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

iPS細胞はいつ患者に届くのか

2014-01-18 21:00:30 | 自然科学・工学系
 iPS細胞を始めとする幹細胞(さまざまな細胞を作る元になる細胞で、長期にわたって自らを複製・再生する能力と自分とは異なる性質や機能を持つ細胞を作り出す能力を持つ細胞)による再生医療の現状と展望を説明する本。
 幹細胞には、あらゆる細胞を作り出せる万能細胞であるES細胞(受精卵が6~7回分裂した初期胚から培養)とiPS細胞(分化した細胞に特定の遺伝子を導入して作製・培養)、一定の範囲で多様な細胞に分化する能力を持った体性幹細胞があるが、ES細胞は受精卵・胎児の取扱で倫理的なハードルがあり、iPS細胞は体細胞から作製するので倫理的なハードルはクリアできるが治療への利用上魅力的な万能性と著しい増殖能力が同時に腫瘍(癌)化のリスクをも意味しそのリスクの払拭になおハードルがあることから、この本では実際には体性幹細胞の治療への利用とそのために幹細胞をシート化したりさらには臓器のパーツへと形成する技術、移植・注入の技術開発の様子に紙幅を取って説明しています。そういう説明を読んでいると、幹細胞の能力の問題だけではなく、幹細胞から分化した細胞をどのようにして患部に送り定着させるかという面での技術開発が、治療・臨床への利用という観点からはとても重要だということがわかります。
 日本では、自由診療(保険外診療)であれば医師が自分の裁量でiPS細胞を利用した治療を提供することができるということですが、一方で品質や有効性、安全性について国の評価を経たものではなく「野放し」状態であり、他方で治療用にiPS細胞を作製するには膨大な手間と費用がかかり1人の治療に数百万円とか数千万円かかることが紹介されています(111~114ページ)。
 そういった安全面とコスト面でのハードルを乗り越えてiPS細胞が再生治療に利用される日を待っている人たち(体性幹細胞による治療では不十分だったり治療できない人たち)が多数いることと、研究と技術の開発に強い熱意を持つ人たちの物語が紹介され、少し熱い気持ちになる本でした。


朝子 岩波科学ライブラリー 2013年11月26日発行

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