伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

死刑捏造 松山事件・尊厳かけた戦いの末に

2017-05-20 20:12:19 | ノンフィクション
 日本の刑事裁判史上3件目の死刑事件再審無罪となった松山事件の経過、救援活動、家族らの闘いと運命、再審開始決定→再審と無罪確定後の元被告斎藤幸夫さんと家族の人生などについて、共同通信記者がとりまとめた本。
 冤罪により、罪もない24歳の青年が警察官に無理強いされ(同房者にそそのかされ)警察の示すストーリーに沿った自白をし、科学を装ったずさんな「鑑定」が有罪証拠となり、裁判官は真実を見抜いてくれるという幻想は(当然に)破れて死刑判決を受け、再審で無罪となるまでに29年を要し53歳となり、青春を奪われ、人間不信になり死刑執行の恐怖に怯え続けさせられた経過は、読むほどに戦慄し、また強い憤りを感じます。それとともに、冤罪によって本人だけでなく、家族、両親も兄弟姉妹も、あるいは雪冤のための救援活動に半生を費やし、あるいはその活動と生活に財産の大半をつぎ込むために進学を諦め、夫婦間の対立を生じて離婚し、と大きく人生を狂わせられたことも胸を痛ませます。権力者/官僚の恣意/出世欲/怠惰と保身が、庶民の生活と人生を踏みにじる様が、いつの世にもあることながら、腹立たしい。そういう生々しい悲しみと怒りを呼び起こす本です。
 それとともに、救援活動に私財を投じ人生をかけた人々の存在に心洗われ、弁護団の苦心と努力に頭が下がります。
 松山事件の控訴審判決言渡の公判(1959年5月26日)はテレビ放映されていたのですね(124ページ)。私は、著名事件での開始前の代表カメラによる固定・無音の頭撮りしか知らない世代なので、日本でも法廷のテレビ中継があったということは、頭にありませんでした。現状が唯一のあり方でないことは、常に頭に置くべきで、そういう点でも刺激を受けました。
 斎藤幸夫さんは2006年に死亡、救援活動に奔走した母ヒデさんも2008年に死亡して、それからさらに年を重ねた今頃、どういう経緯でこの本がまとめられたのかはわかりませんが、ときの話題/タイミングとは関係なく、たまたま手にできてよかったと思います。


藤原聡、宮野健男 筑摩書房 2017年3月25日発行

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