伊東良徳の超乱読読書日記

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本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」

2013-05-09 19:27:30 | 人文・社会科学系
 日米安保条約の陰に隠れてあまり注目されていないけれども米軍が自由に基地を利用し航空法を無視して危険な低空飛行訓練などを行い米兵が罪を犯してもほとんど処罰されない法律上の根拠となっている日米地位協定について解説した本。
 日米安保条約と日米地位協定(当初は日米行政協定)は、占領終結に伴うサンフランシスコ講和条約に際してアメリカが「我々が望む数の兵力を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保すること」を目的として(20ページ)定められ、安保条約は調印の前夜まで和文は存在せず、調印の2時間前に初めて全文が発表され、調印式の場所と時間が日本側に知らされたのは調印式の5時間前(54~57ページ)だとか。日本国憲法が押しつけだと主張する人々が、これを押しつけだといわないのは全く理解できません。
 そして、日米地位協定により、首都東京を取り囲むように都心から30~40km圏内に横田、座間、厚木、横須賀と米軍基地があり、関東甲信越一帯の上空をすっぽりと覆う巨大な「横田空域(横田ラプコン:RAPCON=radar approach control)」が米軍の管制下にあって民間航空機が極めて変則的な飛行を余儀なくされ、米軍機が墜落すると私有地でさえも米軍が直ちに制圧して日本人を全面排除するという専横がまかり通り(典型的には沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事件:2004年8月13日)、米軍関係者には出入国管理法が適用されず出入国審査なく自由に米軍基地に直接発着し米軍基地のフェンスでの出入国審査がもちろんないため米軍関係者としてCIAなどのスパイも自由に日本に出入りできて政府ですら日本滞在のアメリカ人の数を把握できない、そして米兵は公務執行中と認められれば犯罪を犯しても日本には裁判権がなく公務外で犯罪を犯しても米軍基地に逃げ込んでしまえば起訴されるまで日本の捜査当局は身柄拘束できないという、信じがたいほどアメリカ側のやりたい放題のことが定められているとのことです。
 日米地位協定は、規定上は日米のいずれからでもいつでも改正の要請ができるのに外務省は一度として改正を求めたことがなく、また日米安保条約も1970年以降はいつでも一方的に終了させることができる(通告の1年後に失効)のに、普天間基地の県外移設を主張しただけで鳩山首相は交代させられ、他の政治家はそれさえも言えない情けない状態と、指摘されています。
 さらに驚くべきことは、2003年に米軍に占領されたイラクが同様の地位協定を締結するに当たり、米軍の撤退時期を明記し現実に撤退させ、イラクの領土・領海・領空を他国への攻撃のための出撃・通過地点として用いることはできない、米軍はイラクに大量破壊兵器を貯蔵せずイラク政府に貯蔵品の種類と数量の情報を提供する、イラク当局は米軍の立ち会いの下でコンテナを開けることを要請する権利がある、イラク当局は米軍基地から直接にイラクに入国しイラクから出国する米軍人と軍属の名簿を点検し確認する権利を持つという条項を米軍に飲ませている(201~213ページ)ということです。米軍占領下で発足したマリキ政権なんてアメリカの傀儡だと思っていましたし、今でもそう思いますが、日本の政治家と役人なんてそれ以下の傀儡だったんだとわかります。米軍に完膚なきまでに敗北したイラクでさえ、地位協定で、日本政府が敗戦後70年近くたってもなお強いられている異常な米軍の支配を、最初からはねのけている。日本政府が受け入れている不平等条約である日米地位協定が、国際的に見てどれほど異常で屈辱的なものか、しみじみと実感できるではありませんか。
 米軍は、日本の本土でオスプレイも飛ばし放題、住宅地でも危険な低空飛行訓練をやりたい放題、CIAのスパイは入国審査も受けずに出入り自由、犯罪を犯した米兵が基地に逃げ込んだら日本の捜査当局は処罰もできない、米軍がその気になれば首都東京はすぐに制圧できる。尖閣諸島などが占領されるよりよほど国辱ものじゃないでしょうか。それでも尖閣諸島などには鋭敏に反応する政治家たちが米軍の専横を国辱的と指摘することは決してない。実にフシギです。
 なお、非核三原則の関係で、米軍が核搭載を否定も肯定もしないといわれて日本の政治家と役人は納得しているわけですが、ニュージーランド政府は否定も肯定もしないなら寄港させないという態度を取っていることも指摘されています(190~191ページ)。
 米軍にこれほどやりたい放題にさせている国は日本くらいということでしょうか。
 この本では指摘されていませんが、巻末の日米地位協定全文を読んで、私の仕事柄気になったところでは、米軍とその販売所などの機関に雇用されている労働者が解雇され日本の裁判所等が解雇無効(労働者の地位確認)の結論を出して確定した場合、米軍側が労働者を就労させたくない場合は7日以内にそう通告して暫定的に就労を拒否でき、日米間で協議をし30日以内に解決できないときは労働者は就労できない(金銭解決する)と定められている(日米地位協定第12条第6項:352~353ページ)ことです。どんなに不当な解雇でも米軍が復職させたくなければ復職させなくていいということなんですね。
 タイトルの「本当は憲法より大切な」は、まるで米軍や日本の政治家・役人側のスタンスに聞こえます。「本当は憲法より強い」とか「憲法より優先されている」とか「本当は憲法より押しつけの」とかの方が、関心を持つ人に届くのではないかと思います。


前泊博盛編著 創元社 2013年3月1日発行

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