伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

きみのいもうと

2006-11-28 07:43:41 | 小説
 かつて貧乏人で今は有閑マダムに囲われている主人公アルマンが、貧乏人の友人リュシアンとの再会にとまどいながらその妹マルグリットの部屋を訪れキスしたことから、有閑マダムに追い出され貧乏人の世界に戻るというようなストーリーの小説。

 アルマンの貧乏人への同情・友情と違和感・嫌悪の間を振れる思い。現在の不自由ない生活にどこか居心地の悪さ(むしろ据わりの悪さというか)、自分がそこにいることがふさわしくない気持ちを感じつつ、しかしそれを失うことへの恐れを持つアルマンのアンビバレントな思い。この小説は、そうしたアルマンの心理劇が主要なテーマと、私は読みました。
 ストーリーそのものや、リュシアンの怒りやマルグリットのおののき、そして有閑マダムジャンヌの反応などは、アルマンの揺れ/振れる思いを導く装置・配置に過ぎないようにも見えます。
 ストーリー的には、ふとしたいたずら心から、あるいは同情心から、幸せな生活が崩壊したアルマンの悲劇と読めますが、アルマン自身は、貧乏生活への逆戻りに、どこかそれでいいんだとホッとしています。
 それはそれで哀しさを感じさせますが、でも貧乏生活を脱していたアルマンが友人だった貧乏人への違和感・嫌悪・いらだちを示す前半にもやはり哀しみがあり、そのままには終われないところでした。貧乏人への共感の視線の先にはこういう結末がふさわしかったのでしょう。でも、やはりやるせなさが残りますね。


原題:Armand
エマニュエル・ボーヴ 訳:渋谷豊
白水社 2006年11月10日発行 (原書は1927年)
コメント
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