★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

×をねむらす

2016-01-24 16:19:02 | 文学

×郎を眠らせ、×郎の屋根に雪ふりつむ。


×郎を眠らせ、×郎の屋根に雪ふりつむ。
               
                  ――三×達治「雪」


 恐怖に澄んだ、その眼をぱつちりと見ひらいたまま、もう鹿は死んでゐた。無口な、理窟ぽい青年のやうな顔をして、木挽小屋の軒で、夕暮の糠雨に霑れてゐた。(その鹿を犬が噛み殺したのだ。)藍を含むだ淡墨いろの毛なみの、大腿骨のあたりの傷が、椿の花よりも紅い。ステッキのやうな脚をのばして、尻のあたりのぽつと白い毛が水を含むで、はぢらつてゐた。
 どこからか、葱の香りがひとすぢ流れてゐた。
 三椏の花が咲き、小屋の水車が大きく廻つてゐた。

――同「村」


……鹿とは×郎であろう……