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テレビ小説「虎に翼」がおもしろい

2024-05-17 04:05:07 | 身辺雑記


 今回のテレビ小説は久しぶりに内容が深い。素晴らしいできばえだと思う。まずテーマが素晴らしい。女性で初めて法曹試験を合格した人の話である。女性が裁判官には成れなかった時代のこと。そして法律によって女性が差別を受けていた時代のこと。

 戻ってはならない、明治の帝国主義時代が法律から浮かび上がってくる。女性蔑視の実相が、法律を通して見えてくる。差別の時代の中、強く対抗するもの、柔らかく抵抗するもの、したたかに「はて?」と切り込んで行く姿。憲法を無視して法律が作られるような、あきれた現代政治への参考になる。

 まず女性主人公である、寅子のモデル「三淵嘉子」さんがあまりにすばらしい人とだということ。女性差別の時代の中で、したたかに、「はて?」と疑問を呈しながら、柔らかく矛盾を提起して行く。この柔らかな性格で困難な時代を突破するヒロイン猪爪寅子を伊藤沙莉 さんが演ずる。

 伊藤沙莉さんは最高の俳優だと期待して、楽しみにして見てきた。以前のテレビ小説「ひよっこ」で 酒屋の娘役でテレビ小説に出たときに、その演技に驚嘆した。すっかり伊藤さんにはまった。画面に出てくるだけでついつい笑ってしまうのだ。本物の役者だ。

 その昔の渥美清さんの「泣いてたまるか」を見たとき以来である。笑わせて泣かせるのだ。ひよっこを有村架純さんが演じたのだが、記憶さえ定かでは無い。脇役だった伊藤さんのすごさに、しびれた。画面に現われるだけで思わず笑う準備をしていた。

 酒屋さんの娘というと、我が家の奥さんと同じだから、余計に記憶に残ったのかもしれない。伊藤さんは持っているものが、ユーモラスなのだ。天性喜劇役者の素質がある。喜劇役者たる伊藤さんが、女性初の弁護士、女性第2号の裁判官の堅物を思わせる女性を演ずるという所が素晴らしいではないか。

 主人公のモデルである、三淵嘉子さんは実際にはとても柔らかな人で、堅物の法律家ではなかったということだ。だからこそ困難な時代を乗り越えたのだろう。この時代を超えた主人公を演ずるには、伊藤さん以外には居ないだろうと思う。

 今度のテレビ小説の主演は伊藤さんだと聞いたときから、楽しみで待ち遠しくて仕方がなかった。予想をたがわず、すごい演技である。顔の表情がすごい。伊藤さんの顔の筋肉は自由自在である。百面相である。どんな内面も、顔に表わせる人なのだ。

 しかし、笑わせながらもこのドラマは、かなり鋭い時代に対する批判精神を秘めている。笑ってやがて悲しいドラマなのだ。「帝人事件」 が登場した。台湾銀行が保有する帝国人造絹糸の株式が不正取引され、その売却益が政財界にばらまかれたとする贈収賄事件である。 

 内閣を潰すために、実はこの事件はでっち上げられた事件だったのだ。「時事新報」がこのスキャンダルを報じると、帝人や台湾銀行の経営者だけでなく、大蔵省の次官や銀行局長らが逮捕され、さらに当時の斎藤実内閣が総辞職に追いやられ、現職の商工大臣や鉄道大臣まで逮捕されるという大事件に発展した。 

 所が、裁判の結果事件自体が斉藤内閣を倒すために、虚偽に作り上げられたものだったのだ。しかも、この疑獄で斉藤内閣は倒れた。何とも、アベ派二階派潰しに、パー券キックバックを裏から情報を流して、公表した岸田氏のようではないか。

 NHKはドラマで婉曲に、遠回しにしか、政治的発言は出来なくなっている。ここには、朝鮮人の法律家志望の女性も登場する。お兄さんが警察から追い回され、朝鮮に帰ることになる。やがてその女性も帰るらざるえないことになる。日本の朝鮮植民地の過ち。

 華族の娘である、優秀な人も弁護士を志望する。しかし、結局の所家を継がざる得なくなり、不本意な結婚をしてしまう。様々な形で、女性が人間として生きる事の困難が示される。それは、実は現代の女性差別を浮き上がらせていることとなっている。

 タイトルバックは、シシヤマザキさんが制作。これは「シシヤマザキさんのお絵かき教室」に入った友人の話では。監督がいて、その構想に基づく共同制作なのだそうだ。共同で様々な才能の集約が、シシヤマザキさんの統括で生きてきているのだ。このタイトルバックが時代を超えたのは、共同制作にあったのだ。

 流れる歌は米津玄師さん。アニメーションはロトスコープという技法で制作されている。ロトスコープとは、人の演技を撮影した映像から画像として切り出し、絵を描きアニメーションに変える技法だ。絵はコピー用紙に水彩画を中心に描いている。保存のことなぞ意識しないからだ。

 所がシシヤマザキさんはその古くさい技法を、斬新な映像表現に転換したのだ。確かに映像を感じさせるのだが、そこから自由に羽ばたく画像だ。その画像によって、このドラマの精神の自由が表現されている。絵は水彩的表現を用い、マチスのように、モネのように光に満ちている。

 タイトルバックのノンクレジット版 公開6日目で100万回再生突破 米津玄師主題歌に踊る伊藤沙莉さんとある。私には米津さんの歌の曖昧さよりも、はるかにシシヤマザキさんの映像に魅了される。米津さんには女性蔑視の時代を音楽としての表現がない。どこか恋愛する女性をイメージさせて、甘すぎると思う。

 何故シシヤマザキさんのすごさが見えないのか、残念で仕方がない。このアニメーションは新しい時代を作っているのだ。日本の伝統的な絵物語を原題のアニメーションで再現している。映像美であり、映像による思想の表現だ。見ると言うことと表現することをこれほど端的に表現したものはない。

 シシヤマザキさんの総合力で、新しい日本のアニメ藝術を完成して貰いたい。これほど人間の心に迫る映像はまたとない。マチスに匹敵する芸術家だと思う。やはり、共同制作に意味があったのだ。このタイトルバックには、そのお絵かき教室の生徒さんの絵も出ているそうだ。

 伊藤沙莉さん、シシヤマザキさんと、日本の若い女性にすごい才能が現われている。まだまだ日本は大丈夫だ。なにしろ、大谷翔平選手もいるし。石垣島にはのぼたん農園もある。大分衰えてきた気はするが、まだ何とかなるはずだ。
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